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第二章

21 セグリーヴ侯爵家の人達

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「ところでクラウディア、君は眠っている間に、何か夢を見なかったかな?」

「夢……?」

「そう。夢だよ」


 そう問いかけられて、ふと脳裏に浮かんだ光景を思い出すように目を閉じた。
 違和感というものだろうか、何かを追いかけるように脳裏に浮かぶ光を転々と辿ると、そこに広がった光景は今まで見たことのない光景だったがそれと同時に、何かが身体の中にストンと落ちてくるようなそんな感じがして目をパチッと開け、ジルベルトの顔をまじまじと見つめた。

 そしてその瞬間に、これは話をしても理解してもらえないということを感じ、口をつぐんだ。


 クラウディアは確かに思い出した。だが、それは一度目のクラウディアの記憶ではなく、深緒としての記憶だった。


「ううん…なんか夢は見てたんだけど、覚えてない」


 胡麻化した。

 子供らしい口調で、仕草で……。少し狼狽えたが目覚めたばかりということで納得しないだろうか。そう思いながら俯いて手を握りしめた。

 その手をジルベルトがそっと包むように手を重ねて、「変なことを聞いたかな?ごめんね。さあ、スープがきたようだ。食べようか」そういいながら、手にしたスプーンでスープをすくい、「ほら、口を開けて?」と目の前に差し出され、動きが止まった。


 スープを食べ終えた後、「もう数日はゆっくりしておいで。その後で家族を紹介しよう」そう言ったジルベルトを見送り、ベッドにパタンと横になる。

 天蓋付きのベッドは上を見上げるとヴェリダ教の教えの一部が描かれていて、この屋敷の物にはすべて描かれているがここの絵は聖山に戻る神の姿が描かれていた。

 ヴェリダ教の総本山はエストレージャ王国にあるが、両国の国境近くのこのエアストン国でも信仰している人達が少なからずいるのだ。ましてやジルベルトはエストレージャ王国出身なのだから、信仰していてもおかしくはない。


 そのジルベルトから聞かれて自覚した『夢』のことをクラウディアは考え始めた。

 クラウディアの中では、自分は生まれ変わり――柏樹深緒の生まれ変わり――だという自覚が芽生えたのだ。
 日本で生き、そして死んだ自分を客観的に考えてしまい、なんだか不思議な感じがしていた。


 今の自分は…9歳。しかし『深緒』を自覚した自分は20オーバー。どうしても齟齬が出てしまうだろうと頭が痛くなった。

 クラウディアとしての記憶はしっかりとある。それも思い出すと深緒の影響があった様な感じも否めない。まあ、自分は自分だと思うしかない。

 静かになった部屋の中で、少し寂しさに目を伏せているとモナがそっと本を手渡してくれた。


「奥様からです」と言って渡されたそれは、騎士になりたい病弱の兄の夢をかなえようとする妹の物語で、クラウディアも何度も読んだことのある本だった。



 その日からクラウディアは夢を見た。

 しかし、起きて覚えているのはいくつかの単語や名前、そして人物や風景で、目が覚めた直後は覚えているが、すぐに朧げになる。もしかすると、ジルベルトが行っていた夢はこのことだろうか。そう思い至るが確証はなかった。
 




「クラウディア。私の家族を紹介しておこう」

 クラウディアが目覚めたことを知ったジルベルトの家族が、揃って彼女の部屋にお見舞いという名の顔合わせに訪れた。
 クラウディアも数日、部屋でのんびりと過ごしたことで頭もスッキリとして身体に残っていたダルさも改善された。病気ではないので見舞いというのは適当ではないのだが、それを口実にしての顔合わせなのかもしれない。


「初めまして。クラウディア・リュカ・クロスローズです。お世話になり、ありがとうございます」

「まあまあ、丁寧にありがとう。私がロレナよ。グレースによく似ているわね」

「初めまして。僕がクインだよ」

「そして僕がカイラード。よろしく」


 ジルベルトの横に立つロレナ夫人、その横に息子のクインとカイラードが並んだ。
 ロレナは優しそうな印象だが芯が強そうで、息子二人の容姿は親に似て素晴らしく、外に出れば人気者だと言われなくてもわかる。彼らと並んで歩くと令嬢達の視線が痛いだろうと行かなくてもわかるほどだ。

 そしてみんながクラウディアを取り囲むようにして座り、何か欲しいものはないか?何か知りたいことは?など、色々と質問攻めにしている。
 どうやら、大人は娘が出来たようでうれしく、息子たちは妹が出来たようで嬉しいようだ。

 確かにこの屋敷には娘はいないのだから、そう言われると納得だ。


 
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