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第一章

18 クラウディアの噂

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 クラウディアが倒れ、エアストン国のセグリーヴ侯爵家に行ってから半年が過ぎようとしていた。

 セグリーヴ侯爵でもあるジルベルトは、今現在40歳で、その浄化の能力を買われエアストン国内の教会で上級役職をまかされていた。
 とはいえ、旅行で訪れたエアストン国で偶々、王家の血族にあたる人物を浄化したことでこの国で伯爵位を賜り、今では侯爵位を陞爵しているのだ。

 今回、ベイリー達は国の要職についていることもあり、カルロスからの申し出でクラウディアの浄化を請け負ったのだが、その実力は折り紙付きでベイリーも家にいるよりはと快諾したのだった。
 


 エアストン国の首都マルティンに居を構えるセグリーヴ侯爵家の一角に、神殿を模した浄化のための小さな部屋がある。
 クラウディアはその中にある浄化に特化した一室で眠り続けていた。


 闇の力は浄化されているのだが、目が覚めるまでは回復しないようで、半年たった今でも彼女は深い眠りの中にいた。

 ジルベルトは毎日この場所へ通い、浄化のための光の魔力をご神体ともいえる大きな鉱石に込めている。

 この鉱石は色々な水晶の集まりで、通常の水晶、紫水晶、煙水晶、紅水晶、黄水晶、そして金の針入り水晶がその中心に置かれている。


 「クラウディア、今日はお父さんが会いに来るよ。楽しみにいておいで」


 そう言いながらクラウディアの髪をそっと撫でた。

 ベイリーは日をあけず、ほんのわずかな時間でも顔を出し、その様子を確認していた。
 そして何度かに一度は妻や息子を帯同することもあった。最初は暗い顔をしていたジルベルトの家族も、日を追うごとにクラウディアの顔色が良くなっていくのを見て少しずつではあるが笑顔を見せるようになった。

 それを見ていたジルベルトもまた、心の中で彼らの力になっていると実感していた。
 

 「父上。今日もクラウディアは変わらずですか?」


 夕食の席で、ジルベルトに彼の息子でもあるクインとカイラードがそう問いかけた。
 彼らはクラウディアが屋敷へ来た経緯やその後の様子を知っており、妹のように心配していた。

 クインは現在18歳でジルベルトの跡を継ぎ次期侯爵になることが決まっている。
 弟のカイラードは16歳で、学園を早期に卒業し、今は騎士団への入団を目指して特訓中だが、その実力は同年代の中でも抜きんでており、未来の騎士団長ではと期待されている実力の持ち主だ。


 「ああ、まだ時間はかかるだろう。だが、顔色は良くなってきているから順調だ」

「そうですか、それは良かったです。ご家族の方も待っていますから、早く目覚めるといいですね」
 
 

 クラウディアが倒れてから、王都内では様々な噂話が広まっていた。

『クロスローズの令嬢は不治の病に倒れた』とか、『クロスローズの令嬢は呪われた』だとか。それを否定も肯定もせず、流れる噂をそのまま放置していたのだが、一応は王宮内では『病気療養の為に国外に滞在している』と話している。
 さすがに毎回、話を振られるのに面倒を感じてきたこともあり、嘘でもないのだからいいだろうと考えたのだ。


 この日は王宮で春の祭礼と舞踏会開催についての会議が行われていて、公爵家の面々を始め、各役職付いている者たちも登城していた。詳細はもう決められているのでこの日は最終確認だけだった。


 「クロスローズ公爵は春の祭礼と舞踏会は参加されるのか?」


 一番最年長のジェームズ・フォン・リチャードソン侯爵がベイリーに聞いてきた。クラウディアのことを暗に言っているのだろうと想像は付く。


 「祭礼は公爵家の務めだからもちろん参加するよ。舞踏会は私だけで参加する予定だが、何か問題でも?」


 ベイリー独特の柔らかな物腰の奥に、隠れた刃を秘めた物言いに、部屋の空気が冷たくなるようなきがしたが、公爵家の面々は、ジェームズに対して呆れた視線を向けていた。ベイリーに対抗しようなど無謀なことだとわかっているからだ。


 「いや…娘が倒れてもう半年になるのだろう?」

 「娘は回復しているからね、君の心配には及ばないよ」

「そうか。回復しているのなら安心だな。余計なことを言った様ですまないな」

「いや、確かに今まで話をしていなかったから、気になるのだろう?原因はいまだにわからないが、回復しているのは事実だよ。だから心配はいらない」


 優しく微笑み、その場にいる参加者に向けて圧をかける。これ以上は何も言うなと言った意味が込められているのだろう。
 


 会議を終えて部屋を出たベイリーにマックス・フォン・アーモア侯爵が声を掛けた。


「クロスローズ公爵、オセアノでもよい薬があると聞く。必要な物があれば言ってくれ。最優先で対処しよう」

「アーモア侯爵、心遣い感謝するが薬の必要はないのだよ。だが、その言葉には感謝する」

「私にも同じ年頃の娘がいるから、他人事には思えないのだ。早く回復することを祈っている」

「ありがとう」


 ベイリーはマックスに礼を述べてその場を後にする。その後ろ姿を見つめるマックスの顔は無表情で、先程までの面影は感じられなかった。


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