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第一章

13 真相はどこに?

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 転移魔術陣を使用してグレイシア公爵がクロスローズ公爵邸を訪れる理由。
 今、この状況から考えると、クラウディアに関係しているかもしれない。そう思ったベイリーはその部屋へと急いだ。

 部屋に入ると水の一族が到着したことを伝えるように魔術陣が青く光り輝き、その光が徐々に消えていった陣の中にはジョルジュが立っていた。


「ベイリー、急にすまない。帰ってきてから、君たちに…クラウディアに異常はないか?」

「なぜそれを…?」


 ―――クラウディアの体調が急変したのは、つい先ほどのことだ。それなのにジョルジュがなぜ知っているのか?やはり、グレイシア側でも何かがあったのか?


「やはりか……実は、君たちが帰った後のことなのだが、クラウディアを庭から連れて行った使用人が倒れた。それも急にだ。エレンの診察の為に侍医がいたので診てもらったのだが、原因不明でな…おそらく、毒のようなものではないかと。それで、先ほど……亡くなった」


 その言葉を聞いて、ベイリーは目の前が真っ暗になる感じがした。


「亡くなった…?毒…?なぜだ?ジョルジュ、君の…君の家だろう?」


 振り返り転移魔方陣の管理者に『クラウの大事だと伝え父を呼べ』と言い、部屋を出て二人でクラウディアの元へと急いだ。

 そして部屋に向かいながら、ジョルジュは今現在わかっていることを話し始めたが、それを聞くベイリーの顔は強張り、顔色も悪くなっていった。


「その使用人がクラウディアを迎えに行った場所は、庭園の中にあるガゼボだ。そこで眠り込んでいたらしいのだが、私がフィオナを呼びに行かせるまでは二人はずっと一緒にいたと言っている。一人になった時間はわずかのはずだが、可能性があるのはそこしかないのだ。だがいかんせん、そのガゼボは屋敷から見えない位置にある。屋敷の奥だから、安心だと……」

「では、クラウが一人でいるときになにかあったと?」

「ああそうだ。フィオナには何の変化もない。それに、遊んでいた部屋、フィオナの持ち物、着ていた服、摘んだ花、もちろん使用人も全て調べたが何も出てこなかった。ただ、ガゼボに見慣れない小瓶があったくらいだ」

「見慣れない小瓶?それはクラウが狙われたということか?」

「はっきりとは言えないが、そうかもしれん」

「すまない。ベイリー。私の管理下で君の子が……」

「今はそんなことを言っている場合ではない。…クラウを助けることが先だ」




 部屋に入り、クラウディアの側についているグレースに「クラウの容体はどうだ?」と声をかけたが、振り返ったグレースからは答えがない。だがジョルジュの姿を見て立ち上がり声をかけたが、ジョルジュに止められる。
 長年の習慣と言うものはどんな場合でも出るのだろう。


「挨拶はいい。それで、クラウディアの容態は?」


 見るからに顔には生気がなく息もか細くなっている様子が見てとれ、ジョルジュは事の重大さを改めて痛感させられる。これから何をどうすればよいのかを考えるが、全くと言っていいほど良い案が思い浮かんでこない。ただ、自分の立場を痛感するばかりだ。


「それが、全く反応もしないのです。声をかけても触っても、まるで人形のようで…」

 そう言って、涙をぽろぽろと零し泣き崩れるグレースをベイリーが支える。
 兄のアルトゥールとジェラルドも側から離れずクラウディアに声をかけ続けているが、二人の顔色も血の気がないようで青白い。

  
「旦那様。ロベルト医師がお見えになられました」


 そう言われ振り返ると、部屋の入り口にはクロスローズ公爵家の侍医が髪を振り乱し、慌ててきたことがわかる風体で立っている。


「急に済まない。ロベルト。クラウディアが急に倒れて…診てくれ」

「わかりました。では…」


 ロベルトは小さいころからクロスローズ公爵家の侍医をしている人物で、王宮医師に師事し、独立と同時にクロスローズへと来てもらったのだ。その実力は折り紙付きなのだが、それを鼻に掛ける事のないとても優しい人物だった。


「ベイリー様」

「どうだ?」

「クラウディア様のご容態は、今は落ち着いておられます。しかし、予断を許しません」


 ロベルトの表情は曇り、何か手当をし始めるといった様子はない。


「それはどういうことだ?倒れた原因はどうなのだ?わからないのか?」

「私には皆目…おそらく病気という範疇ではなく、未知の毒や、その……」

「なんだ?言ってみろ」

「はい…呪いといった類のようなものではないかと…」

 医師である自分には見当もつかない症状に、もうできることはないと言いたくはない。人の命を救うのが私の使命なのだから何としてでも助けたい。しかし、こればっかりは方法が何も見つからず、自分ではどうにもならないと力のなさがこの日ほど苦々しく思ったことはないと、歯を食いしばっている。
 
 ジョルジュはやはりか…と思うような表情をしてベイリーの肩をたたく。カルロス殿の到着を待つのが最善なのだろう。


「呪いだと…?」


 ベイリーは、先ほどのジョルジュの話を思い出した。


「ジョルジュ、その小瓶というのは何か入っていたのか?」

「いや。何も入っていなかった。何かが入っていた形跡もなかった。もしそれが原因であれば、カルロス殿ほどの人物ならわかるかもしれないな」
 
「カルロス様がお着きになります」


 侍従の声にベイリーはジョルジュと二人で部屋を出た。



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