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第一章

8 幼馴染の二人

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「お久しぶりですね。サクリフィシオ子爵令息」


 風の子爵家の嫡子、トリスタン・フォン・ソーヴェルビアが声をかけたのは、アンヴィ・フォン・サクリフィシオだった。


 「これはソーヴェルビア子爵令息。お久しぶりです。今日は良い日になりましたね」


 会場の窓から覗く空を見上げ、気だるそうにそう答えた。アンヴィとトリスタンはいわゆる幼馴染と呼ばれる仲で、小さいころから行き来がある間柄だが、人目のある公の場では社交的な礼を持って相手をしていた。


「まぁ私達など、一族とはいえ六大公爵家の足元にも及ばぬのにこんな場に呼ばれてもな……」


 風のソーヴェルビア子爵家と水のサクリフィシオ子爵家の嫡子としてこの場に呼ばれているのだが、子爵は公爵に比べれば、下の下の下もいいところだ。  
 

 ―――馬鹿らしくていられないな……


 給仕のもつ酒を受け取り、二人で会場に面している庭園へと出た。
 

「先ほど、クロスローズ公爵一家を見たのだが、あそこの末娘、クラウディアだったか?その麗しさから皇太子の婚約者候補に挙がっていたそうだな」

「そんな噂があるのか?」

「だが、あの娘、病弱だとかで公爵が辞退したという話だ……」


 ―――あの目障りなクロスローズ家か…… 


 ソーヴェルビア家も風の一族に名を連ねるのだが、王家とは釣り合いなど取れるはずもない。
 公爵家と子爵家だ。到底かなうものではないとついつい考え込んでしまう。


「お前、一泡吹かせてやりたいと思わないか?あの完璧なクロスローズ一族に」

「アンヴィ、お前そんなことを考えているのか?」

「いつも思っているさ。我が家もグレイシア家と同じ水の一族とはいえ、天と地との差だからな。俺達は、たかが子爵。しかし、たまには良い思いをしてもいいとは思わないか?」


 アンヴィはそう言い放ち、自虐するようでいてまた何を考えているかわからない、含みのある笑いをした。

  
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