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第一章

6 クロスローズ公爵家

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 この国には六大公爵家と呼ばれる旧家がある。


 光のクロスローズ
 火のデフュール
 水のグレイシア
 風のラファーガ
 土のウェルダネス
 力のウィルバート


 それぞれ特別な魔力を持つ一族で、この国が建国した三百年前に神が使わした代行者の子孫と伝えられており、王家からの信頼も厚い一族だ。


 その筆頭公爵家の令嬢、クラウディア・リュカ・クロスローズは産まれてから今まで、屋敷の外へ出ることはほとんどなかった。

 産まれた時から病弱なこともあり、療養のために領地の屋敷で過ごしていたのだが、成長するにつれて健康そのものといえるほどの健康体に成長していた。
 しかし家族の心配は尽きず、今年8歳になるというのに未だに領地から外へは出してもらえずにいたのだ。

 病弱だった影響からか、それとも貴族なら本来あるべき魔力量が少ないからか色々と考えられたが、家族がクラウディアの事を心配しすぎて領地から出せないと言った方が正しいのかもしれない。

 だが本当の理由は、可愛いクラウディアを人の目に触れさせたくないだけのようだった。
 


 ただ例外として、グレイシア公爵家のフィオナやエレン、ラファーガ公爵家のアデライトとは交流があった。
 この先成長し、王都の学園に入学するときのことを考えて今のうちから親しく…という両親の考えもあった。

 つまり、六大公爵家以外の子女とは一切の交流はなく、六大公爵家にしてもこの3人以外とは、この時点では全く会うこともない生活を送っていたのだ。
  

「クラウディア、準備はできた?」


 クロスローズ公爵家の嫡男で、瑠璃の瞳を持ち長い煌めく金の髪を後ろで一つに結んだその少年がクラウディアの部屋を訪れて声をかけた。

 彼の名はアルトゥール。
 次期公爵の名に相応しいとても優秀で、13歳だがとても聡明なその少年の容姿は息を呑むほどに美しい。
 クロスローズ公爵家のみならず、この王国の“公爵家”の血筋は飛び抜けた美形ばかりで有名だった。

 そして今は、水のグレイシア公爵家の嫡男誕生のお披露目会に参加するために、妹を迎えに来たのだ。


 クラウディアは兄と同じ瑠璃の瞳を持ち、長く伸ばした金の髪が美しい、とても8歳とは思えないほど大人びている少女だ。
 あと数年も経てば、社交界の花と呼ばれた母親のグレース以上に美しくなるであろう片鱗を今から見せている。
 アルトゥールは正直言ってクラウディアを屋敷から出さず、このまま屋敷に閉じ込めておきたいと思っているほど妹のことを溺愛していた。


「お兄さま。もうじゅんびはできていますわ」


 クラウディアを一目でも見た者は、みんな虜になるだろうと思わせるほど愛らしい天使の笑顔を浮かべ、迎えに来た兄を見つめている。

 この日は薄いピンク色のドレスを着て、長い髪をリボンと共に丁寧に編み込んでいる。まるでお人形のような愛らしさだ。


「クラウ。今日のお披露目会だけど、本当に行くのかい?」


 まだ屋敷から出したくないという思いがあるアルトゥールは、再度クラウディアに聞いた。


「どうしてきくのですか?フィオナとエレンがまっているのに」 

「今日は挨拶するだけだろう?」

「いいえ。あいさつがおわったら、おへやであそぼうとさそわれたのです」


 満面の笑みで答えるクラウディアの嬉しそうな顔を見ていると、さすがに行くなと強くは言えない。
 そんなことを言って「お兄様嫌い」などと言われたら、アルトゥールは立ち直れないだろう。

 しかも、今日はいつものに屋敷を訪れるのではなく、が集まる場に行くのだ。今までクラウディアを人が多く集まるような場所に連れて行ったことはないのだから、その心配は尽きない。


「兄上。準備は終わりましたか?」


 アルトゥールの弟のジェラルドが部屋へ迎えに来た。
 兄と違い金の髪を短くしているため、活発な印象がある10歳の少年だが、言わずもがなジェラルドもまた息を呑むほどの美少年である。


 「準備は終わったから、今、行くよ」


 そう言ってアルトゥールはクラウディアの手を取り部屋から出た。二階にある部屋から階下に降りるために階段へ、そして両親の待つホールへと向かった。
  

「父上、母上。お待たせしました」


 階下へ降り、クラウディアは待っていた両親の元へ駆け寄った。

 彼らの父親であるベイリーは弱冠20歳でクロスローズ公爵家を継ぎ、今では内務大臣を任されるほどの辣腕な人物だった。その優しい見た目を甘く見て痛い目を見た貴族は数多く、筆頭公爵家の当主としても彼ほど相応しい人物はいないと言うのが他の公爵家当主は口をそろえて言っている。

 妻のグレースもベイリーと婚約するまでは社交界の華と呼ばれ、数多の令息の心を鷲掴みしていたほどとても美しく、いや、今でもとても美しい女性だ。


「クラウ。我が家のお姫様は今日も可愛いね」

「まぁ、クラウ。そのドレス、とても似合っているわ」


 両親からそう声をかけられ、クラウディアは天使のような愛くるしい笑顔を浮かべ、裾を持ちくるくると回って見せた。


「ありがとう。お父さま、お母さま」


 その姿を見た兄二人は……


 ―――だめだ……可愛すぎる。家から出したくない。僕達でなんとかしないと。


 何かいい方法はないかと考えながら、転移陣の部屋へと移動した。



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