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 私は、痴女か……


 欲求不満なのか……


 いやいや、そんなことじゃなくて、

 彼が何を言い出すかと手で口をふさいだが、掌をペロッと舐められ「ひゃっ」と声が出てしまう。抗議したが、そのまま手を取られ「遠慮しないと言っただろう」と危険な輝きを纏った深い海のような彼の瞳に自分の姿が映っているのを見て、嫌な予感しかしなかった。


 今は夜中じゃない!朝の時間帯で、何もかもがしっかりと見える。恥ずかしくて逃げたいのに、マックスの力にかなうはずもなく、あっけなくその腕に囚われる。


 昨夜の交わりからそう時間も過ぎていないのか、私の身体はすぐに彼から与えられる快楽の深い沼にあっという間に沈んでしまった。



 目が覚めたのは昼を過ぎた頃で、どうやら身体は限界を超えたのか一人で立つことすらできず、ベッドにうずくまったまま恨めしい目でマックスを睨んだ。『こうなったのは誰のせいだ』と厳しい視線を向けてしまう。

 それを自覚しているのだろう、マックスは私の視線を避けながらも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。



 しかし、昨日の昼からの一時間で私を取り巻く環境が180度変わった。

 部屋に来るメイドや侍女たちからは生温かい視線を向けられ、当のマックスは『俺を好きになってもらうよう努力する』と宣言したからか、以前の姿からは信じられないほど、輝くような笑みと甘い言葉を囁き、隙を見せようものなら恥ずかしすぎて赤面してしまう。

 そしてあの『初夜』から、マックスは毎日夫婦の寝室に訪れ、しばらくの間、私は使い物にならない日々を過ごした。
 結婚当初はマーサの裏工作でそんな風に装ったが、まさか今になり本当になるとは誰も予想していなかっただろう。

 マーサは、「遅かれ早かれこうなるとは思っていました」とほほ笑んでいた。何時からそう思っていたのだろうと聞いてみると、あの王宮での舞踏会の少し前にはそう思っていたらしい。そういえば、あの頃にはマックスの視線が嫌に気になったことを覚えている。



 そして、その日を境にマックスは朝は一緒に朝食を取り、夕食に間に合うように帰って来るようになり、職場では愛妻家と呼ばれているらしい。今まで取り繕ってきた仲の良い次期公爵夫妻もまあ好評だったようだが、それ以上に微笑ましく見られている。

 青薔薇の騎士と呼ばれる冷徹なイメージはどこへ行ったのかと思いきや、家族以外の女性には変わらず冷たい視線を向けているらしい。

 そうなると、私へ向けられる令嬢方の恨めしい視線も増えるもので、それに気が付くたびにマックスの甘い笑みが私に向けられ、いたたまれない気持ちになった。まあ、それにも少しずつ慣れてきたけどね。


 そういえば、彼の振る舞いをどこかで見たことがあると思えば、この姿は義母と一緒にいる時の義父と同じだ。もしかして似たもの父子か?一度、義母に父とのなれそめをじっくりと聞いてみたい気もする。
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