【完結】令嬢憧れの騎士様に結婚を申し込まれました。でも利害一致の契約です。

３０：マクシミリアン side

　この間はレ・グランのお菓子を大量に購入し孤児院へ持っていったそうだ。

　この店の名前は何度もランバンからも報告が上がっている。リディと結婚した頃にオープンした店だということだが、その当時からとても美味しいと評判らしい。


　持ち帰りも出来るようで、差し入れに購入する人も多いと聞いた。実際、俺の働いている騎士団の部屋にもその店のお菓子が差し入れされることもよくあるし、部下たちも妻や婚約者に買っていくという話も聞いたことがある。


　リディもその店のお菓子が好きなら、買ってきて渡すのもいいかもしれない。

　彼女は甘いものが好きだし、良く行くのであれば喜んでくれるかもしれない。

　そうしたら、心からの笑顔を俺に向けてくれるだろうか。

　早速次の休みにでも買いに行ってくるとしよう。



　そして翌週、思いのほか仕事が立て込んで屋敷に戻れない日があり、その翌日の休みに何をしようかと考えていたが、ふと、机の上に置かれたレ・グランの焼き菓子が目に入った。


（明日、昼からでも買いに行ってみるか）


　そう考えて、仕事を終わらせるように少し無理をして何とか深夜には終わらせた。



　次の日の昼前には屋敷に帰れたので、汗を流し着替えをした。
　いつもの通りリディは外出していると侍女頭が教えてくれたので、彼女がいない間に買ってこようかと考え、お昼を軽く済ませてから町へと向かった。


　レ・グランはリディの友人の店でもあるラ・シュエットからも近く、通称シュガー通りと言われる一角にあった。
　店構えはブラウンが基調で、男性でも入りやすい雰囲気の店だ。リディが気に入るのもわかるような気がする。
　店の前に植えられているのが花ではなく青々としたリーフなのがまた気に入った。


　ドアを開けると、チリンと音がして来客を告げる。いらっしゃいませと耳になじんだ声が聞こえた。混雑する時間帯が過ぎたのか空いてる席がちらほら見える。

　そこには見知った顔はなく、さっきの声の主は誰だろうかと周囲を見回す。

【持ち帰りはこちら】という表示を見てそこへ足を進めると、女性が一人店の奥に視線を向けている。そこにいたのは店長と思われる男性で、俺の対応をするようだ。その男性と入れ替わるように先ほどまでいた女性が店の奥へと行こうとする姿を見て驚いた。


　そこにいるのは間違いなくリディだった。


　髪の色も違うし、化粧もしていて別人のように見えるが、間違いなく俺の妻だ。


「リディ……ここで何をしているんだ？」


　思わずそう声をかけた。その声は今までにない冷たい声だったことは自覚したが、それ以上に彼女がここにいる理由がわからないから、正直、混乱していた。