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「若奥様、目を開けてください」


 準備を手伝ってくれている侍女の声で目を開けると、鏡に映る自分の姿が見える……はずなのだが、思わず声を上げた。


「これは……誰?」


 鏡に映る姿は、今まで見たことのない綺麗な令嬢の姿だった。


「まあ、ご冗談を。若奥様ですよ」


 瞬きしても首を振っても、同じ動きをするそれは、間違いなくわたしなのだ。

 深い青と黒の混じった綺麗なマーメイドラインのドレスに細かいダイヤモンドをちりばめ光があたるとキラキラと輝きまるで夜空のような、正直幾らするのだろうかと思ってしまうドレスは、今の自分に確かに似合っている。
 空いたデコルテにはブルーサファイアやダイヤが使われたネックレスとイヤリング、そして髪飾りがゴテゴテしていないけれど存在感を放っている。
 最後にロンググローブを身に着け完成だ。


「うそ……これが私??」

「そうですわ。奥様がおっしゃられた通り、まさしく原石でしたわ。若旦那様も惚れなおしますよ」


 侍女のその言葉に、褒められたところは受け取っておくが、最後の方はありえないと心の中で首を振った。マックスの目には義母しか映っていない。侍女達にそう言ってやりたいが、その言葉は飲み込む。


「若奥様。若旦那様がお待ちです」

「そうね。行きましょうか」
 
 
 侍女に手を借りつつ部屋を出て玄関ホールで待つ彼の元へ向かう。はぁ、苦しい……

 玄関ホールを見下ろす階段の踊り場に出ると、眼下には彼の姿が見える。


 彼は髪を後ろになでつけ、濃紺のコートの縁は金で刺繍がされ、タイにはブルーダイヤモンドのタイリングが輝いている。
 いや……どう見てもお揃いに見える。まあ夫婦なのだからわかるけれど、正直恥ずかしい。

 そんなことを思っていると、私がいるのに気が付いたのかマックスが視線をこちらに向けた。私はその視線を逸らすように足元を確認して階段を下りていく。
 階段を下りた先にマックスが待っているのだが、なぜかボーっとこちらを見て立ち尽くしている。馬子にも衣装といいたいのだろうが、なぜか腹が立つ。

 すると、義母に「ほら」と言われようやくエスコートするために歩み寄った。
 義両親は共に「似合ってるね」とか、「やっぱりリディは素敵だわ」とか褒めてくれるのだが、横にいるマックスに至っては無言。


 そうよねぇ。義母の前では思考が停止するのよね。と思いながら馬車へと乗り込んだ。





 馬車はいつもの通り二台準備され、私はマックスと一緒に乗った。
 いつもの事だが彼は何もしゃべらないし、窓の外をずっと見ているから目的地に着くのを待つだけの無言の時間なのだ。

 その間は「いつ帰れるかな?」とか、「誰がいるかな?」とか考えているので、特段困ることはないのだが、今回は何かが違った。


 なぜか彼は私を見ている。どういうわけか、私をただボーっと見ている。なぜだろう。いたたまれなくて、視線を窓の外へと向け、早く着くように祈った。
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