婚約者に忘れられていた私

稲垣桜

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24 急接近

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 アルフォンソ様はロドリック様に視線を向け、何やら考え込んでいたのか、突然私達にこう言われました。


「ロドリック。お前、アシュリーが帰るまで付き合え。あの男が来ないとは限らないしなぁ。俺は先に帰ってるよ」

「…かしこまりました。アルフォンソ様」


 アルフォンソ様はそう言うと、離れて控えていた騎士を引き連れてどこかへ去って行かれましたが、ロドリック様曰く、この近くにある友人の屋敷へ行ったのだと教えてくれました。
 そしてここに残されたロドリック様は、私の顔を見てニコリと笑みを浮かべています。


「アシュリー嬢、いまからどちらに行かれる予定でしたか?」

「今日行きたかった店はもう回りました。後は帰るだけですわ」

「そうなのですか?せっかくご一緒できると思って嬉しく思ったのですが」


 そう言いながら、残念そうに眉尻を下げる顔を見ていると、何だか申し訳なく感じてしまいます。
 騒ぎのうちに、買おうと思っていたお菓子が売り切れていますし、もう行くところは思いつかないのですがどうしましょう。


「アシュリー嬢。もしよろしければ、母への贈り物を選びたいのでお付き合いしていただけませんか?」

「お母さまに…ですか?」

「ええ。辺境伯領地へ戻る頃に、ちょうど母の誕生日なのです。私の家では誕生日は大切にしようというのが家訓のようなものでして」

「家訓…ですか?」

「ええ。一つ年齢を重ねたというより、一年、無事に過ごせたというお祝いなのですよ」


 誕生日にそんな意味を持っているとは、目からうろこですね。
 誕生日が来たら年を取るというより無事に過ごせたというのは、良い考えですわね。私もその考えを見習おうかしら。


「その考え方は素晴らしいですわね。特に女性は年齢を気にしますし」


 そう言って少し笑うと、ロドリック様も「そうなんですよ」と苦笑いをしていらっしゃいました。

 そして私は女性に人気のあるお店をいくつか挙げてみましたが、その中でロドリック様が選ばれたのは衣料品を扱うお店です。以前お贈りになったショールが古くなってきたようで、その代わりをと考えているようです。


「では、参りましょうか。ここから近いですし、歩いてまいりましょう」

「では、店までエスコートをさせてもらいましょう」


 そう言って腕を差し出して優しく微笑まれるロドリック様。確かまだ婚約者はいらっしゃらないと聞きましたが、どうしてでしょう。

 不思議ですわね。





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