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しおりを挟む翌日、友人たちと一緒に最近人気のカフェに行こうと約束をしていたので、朝起きてから決めておいたシンプルな薄いピンク色のワンピースを着て、クルクルになる髪は三つ編みにリボンを編み込んでもらって、邪魔にならないように整えて、すぐに出掛けることに。
「リズ、もう出かけるのか?」
「はい、図書館に寄って、借りていた本を返してから向かいますから」
「そうか、じゃあ早く行った方がいいな。ゆっくり楽しんで来い」
お兄様がどうして家にいるのか不思議に思いましたが、いつものことですし。私としては、お兄様がいらっしゃるのは嬉しいですけど。
家を出てからちょっとの所で一台の馬車とすれ違いました。コゼルス侯爵家の紋章が入っているように見えたけど、まあ、いいわよね。来るなんて聞いていないんだもの。
出掛ける時には誰も何も言わなかったものね。
今年ももう終わりで、もうすぐ二年生。
今年の夏の休みは領地で過ごせて楽しかったわ。近くの湖は風も涼しくて、木陰も多かったから過ごしやすいし、来年はみんな誘って行こうかしら。
湖畔に面したあのカフェの冷やした紅茶が美味しかったのよね。あれは絶対みんなが喜ぶはずよ。冬は山越えが危険なこともあって帰れなかったから、やっぱり夏に帰らないとね。
そんなことを考えているうちに、図書館に着いてしまいました。
この図書館は王都の貴族街の端に位置する昔ながらの堅牢な雰囲気が漂う大きな建物です。
王国民であればだれもが利用でき、貴族だけが利用できるスペースも別の階にあるので、利用者からは好評なのです。
まあ、分かれている理由というのも、貴族スペースには一般的に難しい系統とお高い系統の本が多く、共用スペースには娯楽性の高いものが多いといった具合でしょうか。
私はもっぱら共用スペースの恋愛小説や推理小説を借りることが多いですわね。試験の時は別ですけれど。
この日【アマンダ王国の雪】というジーナに薦められた連載物の一冊を返しに来たのよね。
隣国の作家さんで、孤児として育ったアマンダが成長して、その先々で出会う人々との出会いや別れを描いた物語なんだけど、風景の描写や心の描写がたまらなく心に刺さって、全8巻なんだけど次は6巻を借りる予定なのよね。ふふっ、楽しみだわ。
5巻はアマンダが幼い頃に別れた兄のように慕う男性との再会で終わってたから、もう続きが読みたくて仕方なかったのよ。
この作者さんも意地悪なことするわよね。期待させて「続きは次巻で」って。これが連載中なら抗議の手紙を送ってたかもしれないわ。
「おや?エリザベス嬢じゃないか?」
続巻を手に取って、続きを少し読もうかしらと表紙を開いた時に声がかかり、一瞬ドキッとして声の先を見ましたら、ミッチェル様です。
「ミッチェル様。昨日ぶりですわね」
「今頃、ルカ殿が君の屋敷を訪ねていると思っていたんだが」
昨日の今日で、ルカ様がエスコートできなかったことへの謝罪に来られると思ったのでしょうか。それとも、私が帰った後に何かあったとか?それはないですね。お兄様も残っていらっしゃったはずですが、家を出るときには何もおっしゃらなかったですし。
首を少し傾げ、考えている素振りを見たミッチェル様は「ヘイデンから、何も聞いてないのかい?」とおっしゃられましたが、はい。全く聞いていませんね。なんでしたら、ゆっくり楽しんで来いと言われましたが。
「ゆっくり楽しんで…か」
ミッチェル様は少し眉を顰められましたが、何かご存じなのでしょうか。
「あの、ミッチェル様。何かご存じなのですか?」
「えっ?ああ、昨日、君が帰った後の事ならわかるけど」
そう言って何があったか話してくれたのですが、どうやらルカ様が話しかけてきたらしいのです。
「ルカ殿が君がどこにいるかと尋ねてきてね。ヘイデンがいつもの調子で相手をしていたんだよ」
お兄様のいつもの調子というのは…ちょっと恐ろしくて詳しく聞けないわね。
でも、ルカ様がどうして私を訪ねていらっしゃるのか、皆目見当が付きませんわ。
お父様がお出しになったあの嫌味たっぷりのお手紙のことで、侯爵様からお叱りを受けたとかかしら。それで我が家に来ることになったとかかしら?
でも、そんなこと今までになかったですし、帰ったらお兄様に聞いてみましょう。
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