私との婚約は政略ですか?恋人とどうぞ仲良くしてください

稲垣桜

文字の大きさ
上 下
10 / 27

10.

しおりを挟む

 お父様と挨拶を終えて会場へと戻って、お父様の知り合いに挨拶をしたりしているうちに、ダンスの開始を告げる声が響きました。


「可愛い娘との一度きりのデビュタントのダンスだな」

「お父様、先に謝っておきますわ」

「なにをだ?」

「足を踏むかもしれませんから」


 そう言うとお父様は、娘に踏まれるから構わんよと笑って私の手を取ってホールの中程へと進んで、向かい合った。
 結果は、足も踏むことなく、自分では優雅に踊れたと思うのだけれど、どうかしら?お父様も上手だったと褒めてくださいましたし、なんだか感動ですわね。
 そう言えば、お父様と踊っている時にルカ様がいたような気がしたのですが、気の所為ですわね。
 エスコートもしない婚約者ですし、まあ、しないならしないでダンスの二曲目を申し込みに来てもおかしくないのですが、待っていても無駄かしら?というか、私の顔は覚えていらっしゃるのかしら。
 そう思っていると、すぐお兄様が私の手を取りました。


「リズ、次は私と踊ってくれるかい?」

「もちろんです。喜んで」


 そう言って、またダンスの輪に加わりました。
 お兄様とは幼い頃から一緒に練習を重ねてきたので、もう息はぴったりですわ。他の男性とは踊ったことはまだありませんが、お兄様に勝てる殿方はいないでしょうね。


「リズ、お前はルカと踊りたいのか?」

「別にいいですわ。今日はまだ顔も合わせておりませんし、お兄様と踊っている方が楽しいですもの」

「嬉しいことを言うじゃないか。だが、次は私の友人を紹介しよう」

「ご友人、ですか?」

「ああ、お前も知っているだろう?マンダリー侯爵家のミッチェル殿だ」

「確か、騎士団にお勤めの?」


 お兄様は二曲目のダンスが終わると、私の手を取って、ミッチェル様のところへと向かいました。
 ミッチェル様は王太子殿下とご一緒にいらっしゃって、お顔は彫が深くて、服を着ていても身体ががっしりとしているのがわかるくらい、とても男らしい風貌をされた美丈夫な方ですわね。


「リュベルス、ミッチェル、妹のエリザベスだ。可愛いだろ?」

「ヘイデン、言葉遣いを気をつけろ」


 ミッチェル様はお兄様にそうおっしゃられましたが、確かに王太子殿下に対してその口調はいかがなものかと私も思います。


「リュベルス殿下、妹のエリザベスです」そう改まって挨拶をすると、殿下が笑い出した。今更なのよ、お兄様!

「よい、ヘイデン。お前は本当に妹御の前では形無しだな」

「可愛くて仕方ないんだよ。ただでさえ、今はアイツのこともあるからな」

「ああ、先ほど挨拶に来たが、気にしていたぞ」

「今更だな。アイツの頭ん中、おが屑でも詰まってんのかって思うぞ。ミッチェル、妹と踊ってきてくれないか?終わったら、ここに戻ってきてくれ」

「なんだ?その言い方は。言われなくとも、綺麗なご令嬢には私から申し込みをさせていただくさ。エリザベス嬢、私と一曲お付き合いいただけますか?」

「はい、喜んで」


 ミッチェル様はお兄様よりも背が高く、身体つきもがっしりしていらっしゃるから、踊り始めると安定感があって、お兄様と同じくらい安心して踊れるわ。


「エリザベス嬢、ヘイデンから聞きましたが、ルカ殿のことは良いのですか?」

「今日のことで何か言われたわけでもないですし、それに、まだ顔も合わせておりませんから、良いも悪いもありませんわ」

「それは…なんと言っていいのか。申し訳ない」

「ミッチェル様が謝る必要はありませんわ。私はお父様にエスコートされて嬉しかったですし、お兄様やミッチェル様とこうして踊れて楽しいですから。ルカ様のことはもうどうでもいいです。そもそも政略上の関係など、この程度なのでしょうし」

「政略上…ですか?」

「ええ、私はそう思っておりますし、実際、両家の利害の一致での婚約でしょうから」


 クルッと回った時、視界にルカ様の姿があり、こちらを見ているようだけど、そんな事ないわよね。


「私はあなた方がお互いに交流を深めていると思っておりましたが、そうではないと?」

「そうですわね。交流の場はありましたが、ルカ様は顔を合わせてもほとんどお話になりませんし、いつも相槌を打つ程度ですのよ。そのような状態で歩み寄りも何もないのですわ。それに、学園では仲の良いご令嬢がいらっしゃったようですし、今の私など、近いうちに捨て置かれそうですわね」

「…その噂をどこで?」

「友人と兄からです。学園に入学してからは度々仲の良い姿をお見掛けしますから」


 そしてまたクルッと回ると、視界にまたルカ様が入ってきたけれど、ユーゴ第二王子殿下もいらっしゃるようね。それに、どこかのご令嬢もいらっしゃるわ。まあ、あのお顔ですし、人気がお有りなのでしょう。


「このような場でも、私がいなくとも声をかけてくるご令嬢がたくさんいらっしゃるようですし」


 ミッチェル様は私の言いたいことがわかったようで、チラリと私の見ていた先に視線を向けて、ルカ様の側に侍りつくように立つ御令嬢の姿を目にしたようですわ。


「…エリザベス嬢、あなたはそれでよろしいのですか?」

「ミッチェル様は妙なことをおっしゃいますのね。よろしいも何も、侯爵令息に対して伯爵家の一令嬢の私などに決定権など無いでしょう?」


 ミッチェル様も貴族なのですから、私の言う事の意味はよく分かっていらっしゃるでしょう。本当にどうにかならないものかと思いますわ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】記憶をなくしたあなたへ

ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。 私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。 あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。 私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。 もう一度信じることができるのか、愛せるのか。 2人の愛を紡いでいく。 本編は6話完結です。 それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます

うーん、別に……

柑橘 橙
恋愛
「婚約者はお忙しいのですね、今日もお一人ですか?」  と、言われても。  「忙しい」「後にしてくれ」って言うのは、むこうなんだけど……  あれ?婚約者、要る?  とりあえず、長編にしてみました。  結末にもやっとされたら、申し訳ありません。  お読みくださっている皆様、ありがとうございます。 誤字を訂正しました。 現在、番外編を掲載しています。 仲良くとのメッセージが多かったので、まずはこのようにしてみました。 後々第二王子が苦労する話も書いてみたいと思います。 ☆☆辺境合宿編をはじめました。  ゆっくりゆっくり更新になると思いますが、お読みくださると、嬉しいです。  辺境合宿編は、王子視点が増える予定です。イラっとされたら、申し訳ありません。 ☆☆☆誤字脱字をおしえてくださる方、ありがとうございます! ☆☆☆☆感想をくださってありがとうございます。公開したくない感想は、承認不要とお書きください。  よろしくお願いいたします。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

諦めた令嬢と悩んでばかりの元婚約者

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
愛しい恋人ができた僕は、婚約者アリシアに一方的な婚約破棄を申し出る。 どんな態度をとられても仕方がないと覚悟していた。 だが、アリシアの態度は僕の想像もしていなかったものだった。 短編。全6話。 ※女性たちの心情描写はありません。 彼女たちはどう考えてこういう行動をしたんだろう? と、考えていただくようなお話になっております。 ※本作は、私の頭のストレッチ作品第一弾のため感想欄は開けておりません。 (投稿中は。最終話投稿後に開けることを考えております) ※1/14 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

婚約者のいる運命の番はやめた方が良いですよね?!

月城光稀
恋愛
結婚に恋焦がれる凡庸な伯爵令嬢のメアリーは、古来より伝わる『運命の番』に出会ってしまった!けれど彼にはすでに婚約者がいて、メアリーとは到底釣り合わない高貴な身の上の人だった。『運命の番』なんてすでに御伽噺にしか存在しない世界線。抗えない魅力を感じつつも、すっぱりきっぱり諦めた方が良いですよね!? ※他サイトにも投稿しています※タグ追加あり

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

婚約者は私を愛していると言いますが、別の女のところに足しげく通うので、私は本当の愛を探します

早乙女 純
恋愛
 私の婚約者であるアルベルトは、私に愛しているといつも言いますが、私以外の女の元に足しげく通います。そんな男なんて信用出来るはずもないので婚約を破棄して、私は新しいヒトを探します。

処理中です...