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しおりを挟むお父様と挨拶を終えて会場へと戻って、お父様の知り合いに挨拶をしたりしているうちに、ダンスの開始を告げる声が響きました。
「可愛い娘との一度きりのデビュタントのダンスだな」
「お父様、先に謝っておきますわ」
「なにをだ?」
「足を踏むかもしれませんから」
そう言うとお父様は、娘に踏まれるから構わんよと笑って私の手を取ってホールの中程へと進んで、向かい合った。
結果は、足も踏むことなく、自分では優雅に踊れたと思うのだけれど、どうかしら?お父様も上手だったと褒めてくださいましたし、なんだか感動ですわね。
そう言えば、お父様と踊っている時にルカ様がいたような気がしたのですが、気の所為ですわね。
エスコートもしない婚約者ですし、まあ、しないならしないでダンスの二曲目を申し込みに来てもおかしくないのですが、待っていても無駄かしら?というか、私の顔は覚えていらっしゃるのかしら。
そう思っていると、すぐお兄様が私の手を取りました。
「リズ、次は私と踊ってくれるかい?」
「もちろんです。喜んで」
そう言って、またダンスの輪に加わりました。
お兄様とは幼い頃から一緒に練習を重ねてきたので、もう息はぴったりですわ。他の男性とは踊ったことはまだありませんが、お兄様に勝てる殿方はいないでしょうね。
「リズ、お前はルカと踊りたいのか?」
「別にいいですわ。今日はまだ顔も合わせておりませんし、お兄様と踊っている方が楽しいですもの」
「嬉しいことを言うじゃないか。だが、次は私の友人を紹介しよう」
「ご友人、ですか?」
「ああ、お前も知っているだろう?マンダリー侯爵家のミッチェル殿だ」
「確か、騎士団にお勤めの?」
お兄様は二曲目のダンスが終わると、私の手を取って、ミッチェル様のところへと向かいました。
ミッチェル様は王太子殿下とご一緒にいらっしゃって、お顔は彫が深くて、服を着ていても身体ががっしりとしているのがわかるくらい、とても男らしい風貌をされた美丈夫な方ですわね。
「リュベルス、ミッチェル、妹のエリザベスだ。可愛いだろ?」
「ヘイデン、言葉遣いを気をつけろ」
ミッチェル様はお兄様にそうおっしゃられましたが、確かに王太子殿下に対してその口調はいかがなものかと私も思います。
「リュベルス殿下、妹のエリザベスです」そう改まって挨拶をすると、殿下が笑い出した。今更なのよ、お兄様!
「よい、ヘイデン。お前は本当に妹御の前では形無しだな」
「可愛くて仕方ないんだよ。ただでさえ、今はアイツのこともあるからな」
「ああ、先ほど挨拶に来たが、気にしていたぞ」
「今更だな。アイツの頭ん中、おが屑でも詰まってんのかって思うぞ。ミッチェル、妹と踊ってきてくれないか?終わったら、ここに戻ってきてくれ」
「なんだ?その言い方は。言われなくとも、綺麗なご令嬢には私から申し込みをさせていただくさ。エリザベス嬢、私と一曲お付き合いいただけますか?」
「はい、喜んで」
ミッチェル様はお兄様よりも背が高く、身体つきもがっしりしていらっしゃるから、踊り始めると安定感があって、お兄様と同じくらい安心して踊れるわ。
「エリザベス嬢、ヘイデンから聞きましたが、ルカ殿のことは良いのですか?」
「今日のことで何か言われたわけでもないですし、それに、まだ顔も合わせておりませんから、良いも悪いもありませんわ」
「それは…なんと言っていいのか。申し訳ない」
「ミッチェル様が謝る必要はありませんわ。私はお父様にエスコートされて嬉しかったですし、お兄様やミッチェル様とこうして踊れて楽しいですから。ルカ様のことはもうどうでもいいです。そもそも政略上の関係など、この程度なのでしょうし」
「政略上…ですか?」
「ええ、私はそう思っておりますし、実際、両家の利害の一致での婚約でしょうから」
クルッと回った時、視界にルカ様の姿があり、こちらを見ているようだけど、そんな事ないわよね。
「私はあなた方がお互いに交流を深めていると思っておりましたが、そうではないと?」
「そうですわね。交流の場はありましたが、ルカ様は顔を合わせてもほとんどお話になりませんし、いつも相槌を打つ程度ですのよ。そのような状態で歩み寄りも何もないのですわ。それに、学園では仲の良いご令嬢がいらっしゃったようですし、今の私など、近いうちに捨て置かれそうですわね」
「…その噂をどこで?」
「友人と兄からです。学園に入学してからは度々仲の良い姿をお見掛けしますから」
そしてまたクルッと回ると、視界にまたルカ様が入ってきたけれど、ユーゴ第二王子殿下もいらっしゃるようね。それに、どこかのご令嬢もいらっしゃるわ。まあ、あのお顔ですし、人気がお有りなのでしょう。
「このような場でも、私がいなくとも声をかけてくるご令嬢がたくさんいらっしゃるようですし」
ミッチェル様は私の言いたいことがわかったようで、チラリと私の見ていた先に視線を向けて、ルカ様の側に侍りつくように立つ御令嬢の姿を目にしたようですわ。
「…エリザベス嬢、あなたはそれでよろしいのですか?」
「ミッチェル様は妙なことをおっしゃいますのね。よろしいも何も、侯爵令息に対して伯爵家の一令嬢の私などに決定権など無いでしょう?」
ミッチェル様も貴族なのですから、私の言う事の意味はよく分かっていらっしゃるでしょう。本当にどうにかならないものかと思いますわ。
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