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しおりを挟むある日、移動教室で中央棟へと向かっていた時、奥にルカ様がリリアンナ様と一緒に歩いていらっしゃるのを目にしました。
こんなに近くで見るのは久しぶりです。
一緒にいたルシア様はそのお二人に気が付いたようで、さっと私の前に立って視線をそらしてくれました。その前にはマテオ様も立っておられます。ルシアの行動で何か気付かれたのかしら?マテオ様が私に視線を向けておりますが、自然にそらしておきましょう。
ローズマリー達は学園に入学する前からの友人ですから、私の婚約者がルカ様だと知っていらっしゃいます。
「エリザベス嬢、君はあの二人と何か関係があるのか?」
その日の放課後に、マテオ様が話があると言って、私にそう声をかけてきました。
関係ですか?大いにありますが。
「なぜ、そう思われるのですか?」
「いや、あの時のルシア嬢の視線が気になってたんだ」
マテオ様は観察力がおありですわね。公爵家の二男ですと嫡男と同じ教育をされていたでしょうし、こういう細かいところに気がつくのでしょうか。
でも、私がルカ様の婚約者だとはお知りにならないのはなぜでしょう。
「コゼルス侯爵家のルカ様は、私の婚約者なのです」
「君が?ルカ殿の婚約者?」
「はい。もう何年も話しておりませんが」
マテオ様には今までのことを少々愚痴のように話してしまいました。
なんだかマテオ様って聞き上手といいますか、話してしまっても大丈夫と思わせる話術といいますか、不思議な方です。
「じゃあ、リリアンナ嬢とルカ殿はどういう関係なんだ?」
「私に聞かれましても、噂では恋人同士とか言われていますが、本当のところどうなのか何も知りません」
マテオ様に話していくうちに、なんだか心が痛み始めました。
何度も姿を見ることはあっても、どこがで大丈夫と思っていたのかもしれません。
そしてマテオ様からハンカチを手渡され、なぜ?と思いましたら、どうやら涙が流れ出ていたようです。
「ご、ごめんなさいっ。泣くつもりはなかったのに…」
「いや、それだけ心が傷ついているんだ。泣きたいなら泣けばいい」
「マテオ様…」
私はマテオ様のお優しい言葉に、涙が止まらなくなってしまいました。とても恥ずかしいですわ。
「エリザベス嬢、君はどうしたい?ルカ殿との事」
「我が家からどうこうできる立場ではありませんから」
そう。伯爵家が侯爵家に対してこれ位の事で文句など言えないのです。
「じゃあ、どうかしたいと思ったら俺に言えばいい。二男とは言え公爵家だからね。リリアンナ嬢にもルカ殿にも大きい態度に出られる」
「それは、ご迷惑でしょう?」
「友人の頼みを叶えたいと思うくらいは許されるさ」
マテオ様は、そう言って、私の心の中にあった重しをあっという間に取り去ってくれました。
夏の長期休暇に入っても、ルカ様とはまだ会うこともなく、婚約者というのは名ばかりなのかと考えました。
しかし、我が家からなにか出来るわけもなく、ただただ、不満が重なっていくだけで、どうしようもありません。
ですので、私は夏の休暇は領地へと向かうことにして、ルカ様のことは考えないことにしました。
来年になればルカ様も卒業ですし、その時に婚約解消になればそれでいいかと考えるようにもなったのです。
お兄様が「俺がリズに相応しい奴を見つけてやるから心配するな」と言ってくれましたし、まぁ、不安はそうないですわね。
今思えば、ルカ様が私の顔を覚えているかさえ、疑問ですわ。
そういう私は、久しぶりに会った…いえ、見かけた時にはわかりましたが、ルカ様は私の顔を見たのは子供から少女に変わる頃です。今とは全く違うと思いますが、分かっていらっしゃるのかしら…
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