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第二章「灰の竜と黒の竜騎士」
第26話「ドレイクの騎士」
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大きな炎が前方に広がり、視界を覆い尽くす。叫び声に似た咆哮が響き、前方から襲い掛かって来ていた飛竜が急旋回して距離を取る。
ヴェルノはそれを見て、一度息を付く。
燃える村の上空を旋回しながら、村や教会、逃げ遅れた村人たちに近付こうとする飛竜達を追い払う。
ひとまずはそれで、村人たちの安全を確保する。
チラリとヴェルノは、眼下で救護作業をする者達に目を向ける。
燃えた村の中で、慣れない作業の為か、進捗状況はあまりよくは無いようだった。
(助け出した後も、より安全な場所まで退避させなければいけないのにな……)
頬を汗が伝う。村に来て、飛竜への牽制を始めてから、それなりの時間が経った。体力が消耗し始めた事を感じながら、進捗の良くない救護作業と、それからの事を考え、思わしくない状況に少しだけ苛立ちを覚える。
夜空を旋回し、再び攻撃態勢を取ろうとする飛竜の姿が目に入る。飛竜達は簡単には諦めてはくれず、何度も攻撃を試みて来ていた。
「ガリア!」
ヴェルノは再びガリアに指示を飛ばし、炎を吐かせる。
飛竜はそれを危険と判断し、再び距離を取る。そしてまた、隙を伺うかのように旋回し、少しずつ距離を詰めてくる。
(まだやるか……)
焦る気持ちが強くなってく。
飛竜達が何を思ってここまでの事をしたのかは分からない。そのため、この状況はどうすれば終わるのか、見えてこない。
溜まった疲労はミスを生む。そのミスが、下手したら死を招く。このまま牽制を続け、飛竜達が攻撃を辞めなければ、ヴェルノ達の誰かか、飛竜達の誰かが命を落とす結果になる。それを避けたい気持ちが、変化の兆しを望み、けれど一向にその兆しを見せない状況が焦りを呼ぶ。
(やはり、倒すしかないのか……)
最良の選択肢を探せば、おのずとその答えに辿り着いてしまう。けれど、それは本当に最後の最後の選択肢であり、「飛竜を殺してしまえば取り返しの使い事態になる」そんな予感がその決断を鈍らせる。
手の甲で汗をぬぐい、心を落ち着け、焦るなと言い聞かせる。
「グルルル」
ガリアが喉を鳴らし、ヴェルノの方へと目を向ける。
「どうした?」
一瞬、騎竜であるガリアに心配されたのかと思ったが、ガリアの目からをそれとは違う、何かを訴えかけるような色を見せていた。
ガリアがヴェルノから目を外し、空を舞う飛竜達とも、眼下の燃える村とも違う方向へと目を向ける。ヴェルノはそれに釣られ、ガリアが目を向けた方向へと視線を向ける。
視線の先には暗い夜闇が広がっているだけだった。
目を凝らし、注意深く探ってみる。けれど、そこからは何も見えてこなかった。
ガリアの方へと目を戻す。ガリアはまた、何かを訴えかけるような目線を寄越し、威嚇するように喉を鳴らす。
竜族の知覚は、人の知覚よりはるかに優れている。ヴェルノが何も感じられなくても、ガリアには何かが見えていたのかもしれない。
一旦、辺りを見回し、他の竜騎士達の様子を伺う。
疲労を伺わせる顔色を見せてはいるが、全体を通しまだ持たせることは出来そうだった。
(少しぐらいなら……いけるか?)
状況を見て、選択を考える。
「コーマック、ロディ。付いて来い。確かめたいことがある」
他の竜騎士達の中から、適当に見繕い、指示を飛ばす。そしてガリアを、ガリアが先ほど目を向けた方角へと向けさせ、その方角へと飛ばす。
焼けた村から離れ、辺りが闇に閉ざされていく。熱せられた空気から解放され、夜の寒さが思い出される。
向かう先には夜闇が広がるだけ。それが、少しだけ不安を誘う。
けれど、ガリアが何かを感じ、先ほどの状況であるにも関わらす、その事を訴えてきたのだ。きっと何か重要なものがあるに違いない。そう言い聞かせ、先へと突き進む。
夜闇の月明かりの下で、一瞬何かの影が月明かりを反射する。
蝙蝠の様な羽を広げた、何か大きなものの姿。それとの距離が縮まっていき、その姿が露わになっていく。
赤黒い鱗に覆われた、細長い身体に一対の大きな翼を生やした飛竜の様な影。それが、五体ほど、空を飛んでいた。
姿、形、特徴、そのすべてが飛竜と合致したものの姿。けれど長年飛竜と共に過ごしてきたヴェルノには、それが飛竜でない別の何かに見えた。そして、そのものの正体に思い至ると共に、大きな驚きの表情を浮かべた。
悪竜――飛竜と瓜二つの姿を持った、別の竜族。それが、目の前の夜闇に紛れるようにして飛ぶものの正体だった。
悪竜達はヴェルノ達の騎竜同様、戦闘用と思われる鎧を着こみ、そして、その背中には、ローブを纏った人の姿を乗せていた。
鎧の細部、騎手の様相はヴェルノ達とは異なるものの、そのさまは竜騎士の姿そのものと言えるものだった。
『こいつらは……』
ヴェルノ同様。目の前に浮かぶ影の正体に気付いたのだろう、随伴してきた竜騎士達も驚きの表情を浮かべる。
(悪竜が……人と?)
大きな驚きと、混乱が頭を埋め尽くす。
悪竜が人と共に居るなどという事例は聞いた事が無ければそのような記録も知らない。
そもそも、なぜ彼らがここに居るのだろうか?
ここで、何をしているのだろうか?
それ以前に彼らは何者なのだろうか?
明らかに王国の者ではない。
「貴様ら、何者だ!」
混乱で埋め尽くされる頭を切り替え、すぐさま状況確認のため、質問を口にする。
けれど、悪竜に乗るローブ姿の者達は、それに答えを返す事は無く。返事の代わりに、それぞれ石弓を構え、太矢をヴェルノ達に向かって発射した。
ガリアはいち早くそれに気付き、すぐさま回避行動を取る。他の竜騎士達の騎竜も少し動きが遅れたものの、どうにか回避を間に合わせ、攻撃を躱す。
「忠告もなしか……それは、貴様らを敵と見ていいんだな!」
ヴェルノは再度尋ねる。ローブ姿の者達は、またもそれに答えを返すことなく、今度は取り囲むように散会し、それぞれ石弓の太矢を再装填し、ランスを手にし攻撃態勢を取り始める。
『向こうはやる気みたいですよ』
随伴の竜騎士から判断を仰ぐ声が届く。
ヴェルノはそれに小さく笑う。
「武器を持て。引きずり降ろして話を聞かせる。悪竜は始末しても構わない。やるぞ!」
ヴェルノが吠えると共に、ガリアも咆哮を上げ、それに合わせ他に騎竜達も咆哮を上げる。そして、散会していく悪竜達と対峙するように、竜騎士達もまた散会していった。
ヴェルノはそれを見て、一度息を付く。
燃える村の上空を旋回しながら、村や教会、逃げ遅れた村人たちに近付こうとする飛竜達を追い払う。
ひとまずはそれで、村人たちの安全を確保する。
チラリとヴェルノは、眼下で救護作業をする者達に目を向ける。
燃えた村の中で、慣れない作業の為か、進捗状況はあまりよくは無いようだった。
(助け出した後も、より安全な場所まで退避させなければいけないのにな……)
頬を汗が伝う。村に来て、飛竜への牽制を始めてから、それなりの時間が経った。体力が消耗し始めた事を感じながら、進捗の良くない救護作業と、それからの事を考え、思わしくない状況に少しだけ苛立ちを覚える。
夜空を旋回し、再び攻撃態勢を取ろうとする飛竜の姿が目に入る。飛竜達は簡単には諦めてはくれず、何度も攻撃を試みて来ていた。
「ガリア!」
ヴェルノは再びガリアに指示を飛ばし、炎を吐かせる。
飛竜はそれを危険と判断し、再び距離を取る。そしてまた、隙を伺うかのように旋回し、少しずつ距離を詰めてくる。
(まだやるか……)
焦る気持ちが強くなってく。
飛竜達が何を思ってここまでの事をしたのかは分からない。そのため、この状況はどうすれば終わるのか、見えてこない。
溜まった疲労はミスを生む。そのミスが、下手したら死を招く。このまま牽制を続け、飛竜達が攻撃を辞めなければ、ヴェルノ達の誰かか、飛竜達の誰かが命を落とす結果になる。それを避けたい気持ちが、変化の兆しを望み、けれど一向にその兆しを見せない状況が焦りを呼ぶ。
(やはり、倒すしかないのか……)
最良の選択肢を探せば、おのずとその答えに辿り着いてしまう。けれど、それは本当に最後の最後の選択肢であり、「飛竜を殺してしまえば取り返しの使い事態になる」そんな予感がその決断を鈍らせる。
手の甲で汗をぬぐい、心を落ち着け、焦るなと言い聞かせる。
「グルルル」
ガリアが喉を鳴らし、ヴェルノの方へと目を向ける。
「どうした?」
一瞬、騎竜であるガリアに心配されたのかと思ったが、ガリアの目からをそれとは違う、何かを訴えかけるような色を見せていた。
ガリアがヴェルノから目を外し、空を舞う飛竜達とも、眼下の燃える村とも違う方向へと目を向ける。ヴェルノはそれに釣られ、ガリアが目を向けた方向へと視線を向ける。
視線の先には暗い夜闇が広がっているだけだった。
目を凝らし、注意深く探ってみる。けれど、そこからは何も見えてこなかった。
ガリアの方へと目を戻す。ガリアはまた、何かを訴えかけるような目線を寄越し、威嚇するように喉を鳴らす。
竜族の知覚は、人の知覚よりはるかに優れている。ヴェルノが何も感じられなくても、ガリアには何かが見えていたのかもしれない。
一旦、辺りを見回し、他の竜騎士達の様子を伺う。
疲労を伺わせる顔色を見せてはいるが、全体を通しまだ持たせることは出来そうだった。
(少しぐらいなら……いけるか?)
状況を見て、選択を考える。
「コーマック、ロディ。付いて来い。確かめたいことがある」
他の竜騎士達の中から、適当に見繕い、指示を飛ばす。そしてガリアを、ガリアが先ほど目を向けた方角へと向けさせ、その方角へと飛ばす。
焼けた村から離れ、辺りが闇に閉ざされていく。熱せられた空気から解放され、夜の寒さが思い出される。
向かう先には夜闇が広がるだけ。それが、少しだけ不安を誘う。
けれど、ガリアが何かを感じ、先ほどの状況であるにも関わらす、その事を訴えてきたのだ。きっと何か重要なものがあるに違いない。そう言い聞かせ、先へと突き進む。
夜闇の月明かりの下で、一瞬何かの影が月明かりを反射する。
蝙蝠の様な羽を広げた、何か大きなものの姿。それとの距離が縮まっていき、その姿が露わになっていく。
赤黒い鱗に覆われた、細長い身体に一対の大きな翼を生やした飛竜の様な影。それが、五体ほど、空を飛んでいた。
姿、形、特徴、そのすべてが飛竜と合致したものの姿。けれど長年飛竜と共に過ごしてきたヴェルノには、それが飛竜でない別の何かに見えた。そして、そのものの正体に思い至ると共に、大きな驚きの表情を浮かべた。
悪竜――飛竜と瓜二つの姿を持った、別の竜族。それが、目の前の夜闇に紛れるようにして飛ぶものの正体だった。
悪竜達はヴェルノ達の騎竜同様、戦闘用と思われる鎧を着こみ、そして、その背中には、ローブを纏った人の姿を乗せていた。
鎧の細部、騎手の様相はヴェルノ達とは異なるものの、そのさまは竜騎士の姿そのものと言えるものだった。
『こいつらは……』
ヴェルノ同様。目の前に浮かぶ影の正体に気付いたのだろう、随伴してきた竜騎士達も驚きの表情を浮かべる。
(悪竜が……人と?)
大きな驚きと、混乱が頭を埋め尽くす。
悪竜が人と共に居るなどという事例は聞いた事が無ければそのような記録も知らない。
そもそも、なぜ彼らがここに居るのだろうか?
ここで、何をしているのだろうか?
それ以前に彼らは何者なのだろうか?
明らかに王国の者ではない。
「貴様ら、何者だ!」
混乱で埋め尽くされる頭を切り替え、すぐさま状況確認のため、質問を口にする。
けれど、悪竜に乗るローブ姿の者達は、それに答えを返す事は無く。返事の代わりに、それぞれ石弓を構え、太矢をヴェルノ達に向かって発射した。
ガリアはいち早くそれに気付き、すぐさま回避行動を取る。他の竜騎士達の騎竜も少し動きが遅れたものの、どうにか回避を間に合わせ、攻撃を躱す。
「忠告もなしか……それは、貴様らを敵と見ていいんだな!」
ヴェルノは再度尋ねる。ローブ姿の者達は、またもそれに答えを返すことなく、今度は取り囲むように散会し、それぞれ石弓の太矢を再装填し、ランスを手にし攻撃態勢を取り始める。
『向こうはやる気みたいですよ』
随伴の竜騎士から判断を仰ぐ声が届く。
ヴェルノはそれに小さく笑う。
「武器を持て。引きずり降ろして話を聞かせる。悪竜は始末しても構わない。やるぞ!」
ヴェルノが吠えると共に、ガリアも咆哮を上げ、それに合わせ他に騎竜達も咆哮を上げる。そして、散会していく悪竜達と対峙するように、竜騎士達もまた散会していった。
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