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第一章「白き竜と傷だらけの竜騎士」
第21話「神聖竜」
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風が吹いた。白く暖かな風。
風の中心に立っていた少女の体は、白い光の粒子となって霧散して、それが再び一つの形になっていく。
その姿は飛竜より遥かに大きく、飛竜の様に細長い身体を持ち、背中には巨大な一対の翼に、そして飛竜とは異なり四肢を持つ。鱗は白く、美しい銀色。
その姿は、神話を描いた絵画に映る竜そのものの姿だった。
「アルミ、メイア……なのか?」
浮世離れした光景に、アーネストは尋ねる。
「騙していた事は謝る。けど、こうでもしないと人とは暮らせなかったんだ。許してくれ」
アルミメイアと、それからシンシアとよく似た黄金色の瞳をこちらへ向け、アルミメイアと瓜二つの声音で、竜は答えを返してきた。
「乗れ。アーネスト。お前が飛べないなら、私が代わりにお前を運んでやる」
巨大な翼をたたみ、顔を下げ、背中を見せながら竜は――アルミメイアは言う。
「俺……は……」
白い竜の背中を眺め、アーネストは言葉が詰まる。
見慣れた竜の背中。再びそこへ乗ると思うと、身体が少しずつ固くなっていくのが分かる。白く美しいはずなのに、アーネストにはそれが血塗られたものに見えた。
「大丈夫だ、アーネスト。私が傍に居てやる。だから、お前は一人じゃない」
綺麗な黄金色の瞳を向けながら、アルミメイアは優しく包み込むような声をかける。
その暖かさがゆっくりと氷を溶かしていくように、アーネストの身体を解していく。
アーネストは立ちあがる。
そして、ゆっくりとアルミメイアの傍に近寄り「悪い」と一言断りを入れて、アルミメイアの足を階段代わりにして、背中へと昇る。
「鞍と、手綱と、鐙が無いな……」
二年ぶりに飛竜の――竜の背中に跨り、慣れ親しんだシンシアとは違う竜の背中を感じながら、胸から沸いた気持ちで声を震わせながら、ぽつりと漏らす。
「これで我慢してくれ」
アルミメイアが翼を大きく広げると、アーネストがまたがる背中に丁度いい鞍と手綱と鐙が現れる。
「準備は良いか?」
アルミメイアが問いかける。
アーネストは手綱を握り、一度大きく深呼吸して、いつの間にかに目に浮かんでいた涙を手で拭う。
「ああ、大丈夫だ」
「なら行くぞ」
アーネストが答えを返すと、アルミメイアも直ぐに答えを返し、歩み出す。
広々とした竜舎の放牧場を最初の二歩は歩むように、そこから次第に速度を上げ、最後は馬の様に駆けると共に跳躍し、羽ばたき宙へと舞う。
「振り落とされるなよ」
そして、一度、二度、三度と大きく羽ばたく。その度に大きく速度が加速し、強く後方へと引っ張られる。
流れる景色が早くなり、受ける風が強くなる。それらは飛竜のものとは大きく違っていた。
速度は通常の飛竜が出せる速度を大きく超え、それでもなお加速していく。
神に等しき力を持つとされる伝説の魔獣、竜。その血を引くといわれる飛竜。その二つでこれ程までに違うものなのかと強く実感させられる。そして、半信半疑だった伝説が、これ程まで言われる由縁を知れた気がした。
灰色の空に学生達と、その騎竜の姿を見つける。彼らが止まっているかのように、アルミメイア真っ直ぐ近付いていく。
赤い空、舞う悪竜。二年前に見た景色が頭に浮かぶ。そして、問いかけてくる。
このままで良いのか? と。
『アーネスト、お前はどうしたいんだ?』
黄金色の瞳をこちらへ向け、尋ねてきたアルミメイアの言葉が浮かぶ。
アーネストは一度手綱を強く握りしめる。
「アルミメイア。頼みがある」
迷いがあるのか、少し揺れた声でアーネストは言う。
「なんだ?」
「俺を……」
一度頭を大きく振る。
(怖がっていてはダメだ。それじゃあ結局何も変わらない)
「俺を戦場へ運んでくれ。
俺は、そこに居る奴らも助けたい。そして、その力を貸してくれ」
今度ははっきりと、そして強くそう告げる。
アーネストの言葉を聞くと、アルミメイアは小さく笑う。
「分かった。飛ばすぞ」
アルミメイアは大きく羽ばたき、さらに速度を上げる。
流星の様に、早く、真っ直ぐに空を駆け抜けていく。
* * *
肉が裂けるような音が響いた。それに続き、冷たく、べとついた何かが吹き出し、リディアの身体を濡らす。
『グガアアアアア!』
死を告げる痛みが振り下される事は無く、代わりに悪竜の痛みに悶えるような咆哮が響いた。
ゆっくりと、恐る恐る瞼を開く。
目の前に、竜銃から発射された赤い熱線の残滓が残っていた。眼下には、熱線で撃ち抜かれたのか、顔の半分を崩し、血を流しよろめく悪竜の姿があった。
『グオオオオォォォ!!』
大きく、綺麗な咆哮が上がる。
薄らと残る熱線の残滓を辿り、空を見上げる。
灰色の空に流星が輝いた。そして――
光の剣が振り下された。
光の剣。そう形容するような、青白い線の様な光が走り、それが扇状に振るわれる。その光が、飛び回る悪竜達を薙ぎ払い、赤い靄へと変える。
断末魔さえ上げる事も許されず、悪竜達は消えていった。
光の剣の根元、それを放ったものの姿に目を向ける。
光の剣の余波で、雲が晴れたのか、そのものの周りは雲が晴れ、そこから黄金色の光が差し込んできていた。
そして、黄金色の光の中心には竜が居た。
白く、美しい銀色の鱗に覆われた身体に、飛竜とは異なり四肢を持つ姿で、飛竜の様な巨大な翼を持ちながら、その翼は天使の翼を彷彿させるような、美しい翼を広げていた。
神聖竜レンディアス。
神話を描いた絵画に記された、伝説の竜がそのまま絵画から抜け出したかのように、黄金に輝く光を背に飛んでいた。
見とれる程に美しく、そして、とても恐ろしかった。
ヴェルノとガリアが、落下していくリディアのようやく追いつき、ヴェルノが落ちくるリディアを捕まえ、ガリアの背中へと乗せる。
「大丈夫か?」
リディアをガリアの背中へと乗せると、ヴェルノが尋ねる。その声はリディアに届かなかった。
リディアは空を飛ぶ、あの白銀の竜に心を奪われ、その姿を目で追っていた。
「あれは……なんですか?」
大きく羽ばたき、急降下を開始する竜の姿を眺めながら、リディアは言葉を漏らす。
「あ? ……そうだな。あれは……一体なんなんだ?」
何気なく零した言葉に、ヴェルノも空を飛ぶ白銀の竜を眺めながら、うまく言葉が出ない様子で同意を返した。
アルミメイアのブレスが、一瞬のうちに数体の悪竜を葬り去る。
「す、すごい……」
あまりの光景に、アーネストはついつい感嘆の声が漏れる。
「見とれるのは構わないが、それではここに来た意味がないぞ」
見とれるアーネストへの返事と共に、アルミメイアは大きく羽ばたき急降下を開始する。アルミメイアの言葉で、気持ちを切り替え直し、アーネストは手綱を握りなおす。
「正面、黒竜に取りついている奴らを撃ち落とせるか?」
黒竜――おそらくリディアのヴィルーフだろう。それを正面に捉えながら、アルミメイアが尋ねてくる。
「やってみる」
先ほどリディアに襲い掛かった悪竜を撃ち抜いた竜銃を構え直し、銃口をヴィルーフの方へと向ける。
引き金を引き、二発の熱線を走らせる。そのすべてがヴィルーフと揉み合う悪竜に命中する。
強力な熱線が悪竜の身体を焼き、抉る。
『『グアアアアアァ!』』
強烈な熱線に穿たれた悪竜が、痛みに悶えながらヴィルーフから離れる。
「正確な射撃だ。さすがだな」
急降下したアルミメイアは、そのまま一気にヴィルーフに取りついていた悪竜の傍へと接敵し、鋭い爪と、牙で一息に両断する。
まるで包丁で肉を裁くかのように、アルミメイアの爪と牙は、悪竜の鱗と肉、そして骨を切断し、その体を両断する。
助け出されたヴィルーフは、力なく身体を崩し落下していく。
「ヴィルーフ!」
耳に付けた通信用の魔導具からリディアの叫び声が響く。
「助けられないか?」
無理を承知でアルミメイアに尋ねる。
「拾ってはいけないが、問題はない」
アルミメイアは答えを返すと同時に、手をヴィルーフの方へと伸ばす。するとすぐに、重力に引かれ、加速していたヴィルーフの体が、風に煽られた羽の様に、落下速度が弱まる。おそらく『軟着陸』の魔法だろう。
「魔法まで使えるのか……」
無詠唱で魔法を唱えて見せたアルミメイアの姿に、アーネストは驚きを禁じ得なかった。
「お前は私を馬鹿にしているのか?」
返ってきたアルミメイアの言葉に、アーネストは苦笑を浮かべる。
人間で魔法を扱うためには、長い時間を必要とする勉強と鍛錬を必要となる。そのため、簡単に扱えるというわけでは無い。けれどあ、アルミメイアは出来て当たり前という様な返事を返してきた。常識が違うのだということを思い知らされる。
『グオオオォォ!』
悪竜の咆哮が後方から響く。後ろを踏み向くと、数体の悪竜が襲い掛かって来ていた。
「アルミメイア!」
「判ってる!」
アルミメイアは一度大きく羽ばたくと一気に加速する。慣性に従い、アーネストは強く後方へ引っ張られる。手綱にしがみ付き、それをどうにかやり過ごす。
速度を上げたアルミメイアは一気に悪竜達を引き離す。そして、大きく上昇を加え、宙返りするような軌道を描き、悪竜達の後ろを取る。そこから、口を大きく開き、光の閃光――ブレスを吐く。
その光は一瞬のうちに前方の悪竜達を消し去る。
圧倒的な力。それを見せつけられ、悪竜達は敵わないと判断したのか、大きく距離を取り始める。
けれど、それで終わりではない。
残った悪竜達はアルミメイアから距離を取ったものの、未だに学生達や他の竜騎士達に狙いを定めており、追い回していた。
追い回され疲労し、捕まり始めた学生とその騎竜が目に入る。
「アルミメイア。十時の方向。頼めるか?」
「十時の方向って?」
「左斜め前!」
「分かりずらい!」
アーネストの指示に従にアルミメイアは方向転換し、襲われている学生と騎竜を正面に捉える。
「アーネスト、振り払ってくれるか? 邪魔すぎる」
「少し待ってくれ」
今にも食い殺されそうな学生の姿を目にし、焦る思いを押えながら、竜銃から使い切った術式のカートリッジを引き抜き、新しいカートリッジを差し込む。そして、正面に捉えた学生を襲う悪竜達に銃口を向け、引き金を引く。
連続して三発の熱線が発射され、それぞれが別々の悪竜を捉え、穿つ。それにより悪竜達は怯み、学生と騎竜からの距離が離れる。
「上出来だ」
悪竜と飛竜との距離が開くのを目にすると、アルミメイアは一気に速度を上げ、悪竜とのすれ違いざまに、爪と牙でもって悪竜達を両断した。
悪竜に襲われた学生と護衛の竜騎士それから騎竜達は、アーネストとアルミメイアの介入によって助け出される事となった。
大きな負傷を負った飛竜が数体出たものの、死者が出る事は無く助けられた。
風の中心に立っていた少女の体は、白い光の粒子となって霧散して、それが再び一つの形になっていく。
その姿は飛竜より遥かに大きく、飛竜の様に細長い身体を持ち、背中には巨大な一対の翼に、そして飛竜とは異なり四肢を持つ。鱗は白く、美しい銀色。
その姿は、神話を描いた絵画に映る竜そのものの姿だった。
「アルミ、メイア……なのか?」
浮世離れした光景に、アーネストは尋ねる。
「騙していた事は謝る。けど、こうでもしないと人とは暮らせなかったんだ。許してくれ」
アルミメイアと、それからシンシアとよく似た黄金色の瞳をこちらへ向け、アルミメイアと瓜二つの声音で、竜は答えを返してきた。
「乗れ。アーネスト。お前が飛べないなら、私が代わりにお前を運んでやる」
巨大な翼をたたみ、顔を下げ、背中を見せながら竜は――アルミメイアは言う。
「俺……は……」
白い竜の背中を眺め、アーネストは言葉が詰まる。
見慣れた竜の背中。再びそこへ乗ると思うと、身体が少しずつ固くなっていくのが分かる。白く美しいはずなのに、アーネストにはそれが血塗られたものに見えた。
「大丈夫だ、アーネスト。私が傍に居てやる。だから、お前は一人じゃない」
綺麗な黄金色の瞳を向けながら、アルミメイアは優しく包み込むような声をかける。
その暖かさがゆっくりと氷を溶かしていくように、アーネストの身体を解していく。
アーネストは立ちあがる。
そして、ゆっくりとアルミメイアの傍に近寄り「悪い」と一言断りを入れて、アルミメイアの足を階段代わりにして、背中へと昇る。
「鞍と、手綱と、鐙が無いな……」
二年ぶりに飛竜の――竜の背中に跨り、慣れ親しんだシンシアとは違う竜の背中を感じながら、胸から沸いた気持ちで声を震わせながら、ぽつりと漏らす。
「これで我慢してくれ」
アルミメイアが翼を大きく広げると、アーネストがまたがる背中に丁度いい鞍と手綱と鐙が現れる。
「準備は良いか?」
アルミメイアが問いかける。
アーネストは手綱を握り、一度大きく深呼吸して、いつの間にかに目に浮かんでいた涙を手で拭う。
「ああ、大丈夫だ」
「なら行くぞ」
アーネストが答えを返すと、アルミメイアも直ぐに答えを返し、歩み出す。
広々とした竜舎の放牧場を最初の二歩は歩むように、そこから次第に速度を上げ、最後は馬の様に駆けると共に跳躍し、羽ばたき宙へと舞う。
「振り落とされるなよ」
そして、一度、二度、三度と大きく羽ばたく。その度に大きく速度が加速し、強く後方へと引っ張られる。
流れる景色が早くなり、受ける風が強くなる。それらは飛竜のものとは大きく違っていた。
速度は通常の飛竜が出せる速度を大きく超え、それでもなお加速していく。
神に等しき力を持つとされる伝説の魔獣、竜。その血を引くといわれる飛竜。その二つでこれ程までに違うものなのかと強く実感させられる。そして、半信半疑だった伝説が、これ程まで言われる由縁を知れた気がした。
灰色の空に学生達と、その騎竜の姿を見つける。彼らが止まっているかのように、アルミメイア真っ直ぐ近付いていく。
赤い空、舞う悪竜。二年前に見た景色が頭に浮かぶ。そして、問いかけてくる。
このままで良いのか? と。
『アーネスト、お前はどうしたいんだ?』
黄金色の瞳をこちらへ向け、尋ねてきたアルミメイアの言葉が浮かぶ。
アーネストは一度手綱を強く握りしめる。
「アルミメイア。頼みがある」
迷いがあるのか、少し揺れた声でアーネストは言う。
「なんだ?」
「俺を……」
一度頭を大きく振る。
(怖がっていてはダメだ。それじゃあ結局何も変わらない)
「俺を戦場へ運んでくれ。
俺は、そこに居る奴らも助けたい。そして、その力を貸してくれ」
今度ははっきりと、そして強くそう告げる。
アーネストの言葉を聞くと、アルミメイアは小さく笑う。
「分かった。飛ばすぞ」
アルミメイアは大きく羽ばたき、さらに速度を上げる。
流星の様に、早く、真っ直ぐに空を駆け抜けていく。
* * *
肉が裂けるような音が響いた。それに続き、冷たく、べとついた何かが吹き出し、リディアの身体を濡らす。
『グガアアアアア!』
死を告げる痛みが振り下される事は無く、代わりに悪竜の痛みに悶えるような咆哮が響いた。
ゆっくりと、恐る恐る瞼を開く。
目の前に、竜銃から発射された赤い熱線の残滓が残っていた。眼下には、熱線で撃ち抜かれたのか、顔の半分を崩し、血を流しよろめく悪竜の姿があった。
『グオオオオォォォ!!』
大きく、綺麗な咆哮が上がる。
薄らと残る熱線の残滓を辿り、空を見上げる。
灰色の空に流星が輝いた。そして――
光の剣が振り下された。
光の剣。そう形容するような、青白い線の様な光が走り、それが扇状に振るわれる。その光が、飛び回る悪竜達を薙ぎ払い、赤い靄へと変える。
断末魔さえ上げる事も許されず、悪竜達は消えていった。
光の剣の根元、それを放ったものの姿に目を向ける。
光の剣の余波で、雲が晴れたのか、そのものの周りは雲が晴れ、そこから黄金色の光が差し込んできていた。
そして、黄金色の光の中心には竜が居た。
白く、美しい銀色の鱗に覆われた身体に、飛竜とは異なり四肢を持つ姿で、飛竜の様な巨大な翼を持ちながら、その翼は天使の翼を彷彿させるような、美しい翼を広げていた。
神聖竜レンディアス。
神話を描いた絵画に記された、伝説の竜がそのまま絵画から抜け出したかのように、黄金に輝く光を背に飛んでいた。
見とれる程に美しく、そして、とても恐ろしかった。
ヴェルノとガリアが、落下していくリディアのようやく追いつき、ヴェルノが落ちくるリディアを捕まえ、ガリアの背中へと乗せる。
「大丈夫か?」
リディアをガリアの背中へと乗せると、ヴェルノが尋ねる。その声はリディアに届かなかった。
リディアは空を飛ぶ、あの白銀の竜に心を奪われ、その姿を目で追っていた。
「あれは……なんですか?」
大きく羽ばたき、急降下を開始する竜の姿を眺めながら、リディアは言葉を漏らす。
「あ? ……そうだな。あれは……一体なんなんだ?」
何気なく零した言葉に、ヴェルノも空を飛ぶ白銀の竜を眺めながら、うまく言葉が出ない様子で同意を返した。
アルミメイアのブレスが、一瞬のうちに数体の悪竜を葬り去る。
「す、すごい……」
あまりの光景に、アーネストはついつい感嘆の声が漏れる。
「見とれるのは構わないが、それではここに来た意味がないぞ」
見とれるアーネストへの返事と共に、アルミメイアは大きく羽ばたき急降下を開始する。アルミメイアの言葉で、気持ちを切り替え直し、アーネストは手綱を握りなおす。
「正面、黒竜に取りついている奴らを撃ち落とせるか?」
黒竜――おそらくリディアのヴィルーフだろう。それを正面に捉えながら、アルミメイアが尋ねてくる。
「やってみる」
先ほどリディアに襲い掛かった悪竜を撃ち抜いた竜銃を構え直し、銃口をヴィルーフの方へと向ける。
引き金を引き、二発の熱線を走らせる。そのすべてがヴィルーフと揉み合う悪竜に命中する。
強力な熱線が悪竜の身体を焼き、抉る。
『『グアアアアアァ!』』
強烈な熱線に穿たれた悪竜が、痛みに悶えながらヴィルーフから離れる。
「正確な射撃だ。さすがだな」
急降下したアルミメイアは、そのまま一気にヴィルーフに取りついていた悪竜の傍へと接敵し、鋭い爪と、牙で一息に両断する。
まるで包丁で肉を裁くかのように、アルミメイアの爪と牙は、悪竜の鱗と肉、そして骨を切断し、その体を両断する。
助け出されたヴィルーフは、力なく身体を崩し落下していく。
「ヴィルーフ!」
耳に付けた通信用の魔導具からリディアの叫び声が響く。
「助けられないか?」
無理を承知でアルミメイアに尋ねる。
「拾ってはいけないが、問題はない」
アルミメイアは答えを返すと同時に、手をヴィルーフの方へと伸ばす。するとすぐに、重力に引かれ、加速していたヴィルーフの体が、風に煽られた羽の様に、落下速度が弱まる。おそらく『軟着陸』の魔法だろう。
「魔法まで使えるのか……」
無詠唱で魔法を唱えて見せたアルミメイアの姿に、アーネストは驚きを禁じ得なかった。
「お前は私を馬鹿にしているのか?」
返ってきたアルミメイアの言葉に、アーネストは苦笑を浮かべる。
人間で魔法を扱うためには、長い時間を必要とする勉強と鍛錬を必要となる。そのため、簡単に扱えるというわけでは無い。けれどあ、アルミメイアは出来て当たり前という様な返事を返してきた。常識が違うのだということを思い知らされる。
『グオオオォォ!』
悪竜の咆哮が後方から響く。後ろを踏み向くと、数体の悪竜が襲い掛かって来ていた。
「アルミメイア!」
「判ってる!」
アルミメイアは一度大きく羽ばたくと一気に加速する。慣性に従い、アーネストは強く後方へ引っ張られる。手綱にしがみ付き、それをどうにかやり過ごす。
速度を上げたアルミメイアは一気に悪竜達を引き離す。そして、大きく上昇を加え、宙返りするような軌道を描き、悪竜達の後ろを取る。そこから、口を大きく開き、光の閃光――ブレスを吐く。
その光は一瞬のうちに前方の悪竜達を消し去る。
圧倒的な力。それを見せつけられ、悪竜達は敵わないと判断したのか、大きく距離を取り始める。
けれど、それで終わりではない。
残った悪竜達はアルミメイアから距離を取ったものの、未だに学生達や他の竜騎士達に狙いを定めており、追い回していた。
追い回され疲労し、捕まり始めた学生とその騎竜が目に入る。
「アルミメイア。十時の方向。頼めるか?」
「十時の方向って?」
「左斜め前!」
「分かりずらい!」
アーネストの指示に従にアルミメイアは方向転換し、襲われている学生と騎竜を正面に捉える。
「アーネスト、振り払ってくれるか? 邪魔すぎる」
「少し待ってくれ」
今にも食い殺されそうな学生の姿を目にし、焦る思いを押えながら、竜銃から使い切った術式のカートリッジを引き抜き、新しいカートリッジを差し込む。そして、正面に捉えた学生を襲う悪竜達に銃口を向け、引き金を引く。
連続して三発の熱線が発射され、それぞれが別々の悪竜を捉え、穿つ。それにより悪竜達は怯み、学生と騎竜からの距離が離れる。
「上出来だ」
悪竜と飛竜との距離が開くのを目にすると、アルミメイアは一気に速度を上げ、悪竜とのすれ違いざまに、爪と牙でもって悪竜達を両断した。
悪竜に襲われた学生と護衛の竜騎士それから騎竜達は、アーネストとアルミメイアの介入によって助け出される事となった。
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完結済全6話
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