正しい竜の育て方

夜鷹@若葉

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第四章「竜殺しの騎士」

第18話「作戦会議」

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「それでは、作戦会議を始めましょう」

 フィーヤがそう宣言すると、皆気持ちが切り替わったのか、手を止め、部屋の中央に置かれた机へと注目する。

 机の上には、周辺の地形を示した地図が置かれ、その上に自軍、敵軍の配置を示す駒が置かれていた。

「敵の編成は分かりましたか?」

 まずは敵の詳細を共有するために、フィーヤは確認を告げる。

「敵は、総数およそ400強。騎兵が少数に、竜騎士が10騎。それ以外で、目だった物はありません。大型の攻城兵器なども確認できていません」

 フィーヤに確認を求められると、同席していた兵士の一人がつらつらと、確認できた編成を述べる。

「大型の攻城兵器が無い……少し気になる情報ですね」

 告げられた情報にレリアは少し顔を顰め、感想を述べる。

「どう思われますか?」

 敵の編成を聞き、生まれた疑問についてフィーヤは、他の者に意見を求める。

「行軍速度を優先したからではないでしょうか?」

 意見を求めたフィーヤの言葉に、ビヴァリーがそう返事を返す。

「と言いますと?」

「動き出してからここまで、かなり足が速くありました。急がねばならない理由があり、行軍速度を優先して、移送に時間のかかる大型攻城兵器は持ち込めなかったのかもしれません」

「なるほど」

 ビヴァリーの返答にフィーヤを頷き、少し考える。そして、直ぐに思考を中断して首を振る。

 敵の動きから、相手の内情が見えるかもしれない。けれど、それに付いて考えるのは今ではない。ここを切り抜けなければ、結局意味がない。そう思い、考えを思考を中断した。

 机に置かれた地図に目を戻し、現状へと目を向け直す。

「大型の攻城兵器が無いとなると、やはり、この戦況の肝は……竜騎士ですか」

 状況を頭に入れ、思考すると直ぐにそう結論付けられる。

 現状、相手側が有利たりえるものにしているものであり、攻略困難な相手。それが目の前に突き付けられる。

 気持ちを切り替えても、現状は変わらない。その歯がゆさに、フィーヤは小さく歯を噛み締め、盤上に置かれた竜騎士を模した赤い駒を睨みつける。

「竜騎士10騎。この戦力をどう見ますか? アーネスト」

 現状もっとも竜騎士を深く知る人物にフィーヤは意見を仰ぐ。

「非常に厄介な相手かと思います。特に、『白き雪の竜』フェリーシアは、冷気のブレスを吐きます。隊列を組んで挑めば、それだけで簡単に一掃されます。こちらかから仕掛けて、敵う相手とは判断できません」

 重く、強く現実味を感じさせる声音で、アーネストが答える。それにより、会議室に集まった面々は、現状をより強く認識し、黙り込む。

「『白き雪の竜』。確か、『白雪竜騎士団』団長の代々の騎竜の名でしたね。けれど、彼の竜は、先代団長と共に引退したはずでは?」

 告げられたアーネストの言葉に、引っ掛かりを覚えフィーヤはその疑問に付いて問い返す。

「そのはずです。けれど、どういう訳か、復帰してきているみたいです」

「なぜ、そう判断で出来たのですか? 参考までに聞かせてください」

「竜騎士団が掲げていた騎士団旗です。あれに、『白雪竜騎士団』団長を示す旗が、掲げられていました」

「それは普通の事ではないのですか?」

「普通に考えれば、そうですが、現状の『白雪騎士団』は、『白き雪の竜』不在の状態だったはずです。団長を示す旗は、『白き雪の竜』に認められた正規の団長のみ掲げる事が許される旗です。古い竜騎士団で、伝統を重んじる竜騎士団が、その仕来りを無視してあの旗を掲げるとは考えられません。
 私の知る限り、フェリーシアの次の『白き雪の竜』はいないはずです。ですから、フェリーシアと、その竜騎士『氷雪の竜騎士エルバート』が、あの竜騎士団に戻ってきていると判断します」

 何かの見間違いであってほしい。そんな期待を込めて聞き返した問いであったが、アーネストはそれを強く否定した。

 『氷雪の竜騎士』エルバート・ミラード。20年ほど前の戦争の英雄。この国で暮らす者であれば、少なからず彼の武勇譚を耳にする。それだけに、その英雄の力を容易に想像できてしまう。

「打って出るのが難しいとなると……籠城するしかないでしょうか?」

 状況が今後どう動くか判らない以上、余り考えたくはない選択肢ではあるが、出された情報からは、一番良い選択肢に思える。

「籠城はあまり良い選択とは思えません」

 けれど、考えられたその選択肢は、直ぐにアーネストによって否定された。

「それは、なぜですか? 敵側に大型の攻城兵器が無いのなら、良い手である様に思えますが?」

「竜騎士の攻撃能力は、攻城兵器の代わりになります。いえ、投石器なんかより、正確に落下点を定められる竜騎士による爆撃なの方が、よっぽど厄介です。爆撃と直接攻撃で、城壁上の兵を一掃されれば、簡単に砦に取りつくことができます。そうなっては、籠城しても直ぐこじ開けられます」

「なるほど、では、アーネスト。あなたは、どう動くべきだと思いますか?」

「私は、打って出るべきだと判断します」

 フィーヤの問いに対するアーネストの返答。それに、その場に集まった一同は騒然とする。

 竜騎士を抱える敵軍。それに対して打って出る。それは、アーネスト自身が告げた様に、勝ち目のない戦術である。それだけに、その返答は大きく混乱を呼ぶ。

「仕掛けて敵う相手ではないと、あなた自身が言ったと思いますが?」

 周りの不安を代弁する様にフィーヤはアーネストに尋ねる。

「はい。確かに直接戦って勝ち目はないでしょう。けれど、最強の兵科と呼ばれる竜騎士でも、欠点が無いわけではありません。勝ち目がなくとも、負けないために、私は仕掛けるべきと判断します」

 強い意志をもってアーネストは返事を返してくる。それに、フィーヤはただ無策でこのような事を言っているようには見えなかった。

「詳しく聞かせてください。その、竜騎士の欠点とはなんですか?」

「竜騎士は非常に強力です。真っ向から戦って勝つことは不可能でしょう。けれど、飛竜はその身体の大きさゆえに、多くの食料を必要とします。ですので、打って出て、敵軍の軍糧を潰せば、竜騎士は直ぐに戦闘継続不可能になるでしょう。
 敵の編成を見るに、敵の攻撃の要は竜騎士です。竜騎士さえ戦闘継続不可能にしてしまえば、敵は攻撃を諦めると思います」

「なるほど。けれど、そう簡単に竜騎士が戦闘継続不可能になるでしょうか? 私の記憶では、飛竜は数日何も食わなくても生きていけるものと記憶してますが……。それに、軍糧がなくなれば、現地調達という可能性もありますが……」

「確かに、現地調達による軍糧確保は可能でしょう。けれど、おそらくそれはあまり意味がないと思います。飛竜は雑食ですが、普段は肉しか食べません。その、肉を食べる飛竜10体分の食糧は、現地調達ではそう簡単に集まるとは思えません。
 そして、。ですので、軍糧が尽き、戦闘が長引くと判断されたら、その時点で、少なくとも竜騎士団側は戦闘をやめると考えられます」

 アーネストの回答。それは頼もしい回答であったが、同時にそこに含まれる事実に、一瞬息を飲む。

「なるほど……けれど、軍糧を潰すと言っても、どうやって行うのですか? 高い知覚力と機動力を持つ竜騎士の前では、奇襲や伏兵は殆ど意味がありませんよ。正面から突破するのも困難です。とても現実的とは思えません」

「そうですね。ですから、竜騎士達を引きつける者と、軍糧を潰す部隊に分けます。そして、竜騎士を引き付けている間に、敵陣を上手く突破し、軍糧を潰します」

「なるほど……」

 アーネストの立案を聞き、それが現実出来そうか考える。そして、その考えは直ぐに行き詰る。

「竜騎士を引き留めるだけの兵力はどうするのですか? それだけの兵力、そう簡単には用意できませんよ」

「それは……」

 フィーヤに問い返され、アーネストは一度口ごもる。

「私がやります」

 そして、一度大きく息をすると、アーネストはそう答えた。

「それは……どういう意味ですか? あなたが部隊を指揮し、対処するという意味ですか? それとも、あなた個人が直接竜騎士と戦うという事ですか?」

「私が、直接彼らと戦い、彼らを引きつけます」

 アーネストの答えに、フィーヤは絶句する。

 アーネストの表情、そこからは勝算も無く返事を返したとは読み取れなかった。けれど、その内容からは、とても現実的なものとは思えなかった。

「竜騎士相手に単騎で挑むだなんて、馬鹿げてます! 一騎打ちですら相手にならないというのに、それを10騎も相手にするつもりですか!」

 とても現実的ではないアーネストの案。それを聞いたビヴァリーが強く反論を返す。

「勝つ事が目的ではありません。足止めと注意を引くことが出来れば十分です。竜騎士相手に、数はあまり意味はありません。なら、大部隊を用意するより、身軽で動きやす単騎の方が戦いやすくあります」

「しかし、それでは脅威にならないではないか! それでは、竜騎士が動く意味がない」

「彼らも誇りある騎士です。圧倒的有利な状況、そこで戦いを挑まれ、引くという選択肢は取れないでしょう。先陣を切ってもらえば、あとはどうにかなります」

「だが、それでは――」

 議論が白熱し、口論が止まらなくなるアーネストとビヴァリー。それにフィーヤは一度手を叩き、議論を中断させる。

「アーネスト。あなたはそれがどういう事か、理解していますか?」

 再度問い直す。

「彼らの戦い方については、私が一番深く理解しているつもりです」

 アーネストはそれに強く返事を返してくる。その眼には、迷いや不安などは感じられなかった。

 フィーヤはそれに、一度目を閉じ考える。思い浮かぶ有用な選択肢は他にない。けれど、それが現実的かどうか、判断も出来ない。何を取る事が最良か、直ぐには判断が付かなかった。

 迷い、そして再び目を開く。

「分かりました。あんたがそう言うのでしたら、私はあなたを信じます」
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