勝の道 〜喧嘩甲子園編〜

オラフ

文字の大きさ
上 下
10 / 15
第二勝 初陣

観察者

しおりを挟む
 すまん、おっちゃん。



 俺の両親は海で釣りをした時にボートが沈没して死んじまった。



 そんな身寄りのない俺を、猟師であるおっちゃんは一人で育ててくれた。



 そのおっちゃんに恩返ししたくてこの喧嘩甲子園に出たってのに、一回も勝てずに負けちまったよ。



 悔しいよ。



 撤兵は気絶しているというのに一筋の涙を流した。



「おーい撤兵、起きろ」



 撤兵はずっと気絶したままだ。



 撤兵を見ていると後ろにスーツを着てサングラスをかけた若い男が来た。



「おめでとうございます、優勝候補を倒したので鬼越選手は優勝候補になり、1000万円が授与されます」



「それは嬉しいんだが、撤兵はどうするんだ?  」 



「私たちが病院まで運びますのでご安心を」



「なるほど、それは頼もしいな」



「また後程、1000万円をお持ちしますので」



 そう言って若い男は撤兵をかつごうとした。



「俺がかつぐから下がってろ」



「大丈夫ですよ、休んでてください。私が運びますので」



「俺が運ばなきゃいけねぇんだよ」



 そうして俺は撤兵を若い男の車に乗せた。



「泣きたい分だけここで全部泣いちまいな。撤兵の涙は誰にも見せねぇからよ」



 男は人前で泣いたらいけねぇんだよ。


 
 若い男は車に乗り、発信する。



 さぁ、俺も帰るか。



 髪ゴムを外した時、僕の携帯からラインの着信音が聞こえた。



 天羽からよろしくスタンプが来た。



 かわいいなこのスタンプ、僕も使ってみようかな。



 ていうか2時20分にラインが送信されたって今じゃねぇかよ。



 既読が早すぎるのってキモいんじゃなかったっけ、やっちまった。



 かちゃ



 そうしていると天羽が家から出てきた。



「ど、どうしてまだいるの? 」



「いや、今帰ろうかなって」



「顔血だらけじゃん、何かあったの? あ、でも」



 天羽は顔を赤くして下を向いた。



 なんで下を向いてるんだ? 



「どうしたの? 」



「今、寝ようと思っててすっぴんだから。見ないで」



 と、尊い~~。



 こうして鬼越 勝と熊頭 撤兵の喧嘩は幕を閉じたが、この喧嘩を観察していたものがいた。



 その観察者は黒いパーカーを着て、フードを被っている。



「熊頭 撤兵の喧嘩を見に来たのに負けちまったよ。それにしても相手の鬼越 勝か、なかなか強いな。こいつなら出来るかもな」



 観察者はそう言って暗闇に消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

処理中です...