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第五話 一匹の子猫と一人の猫耳
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懐かしい夢を見た。
中学二年生の頃、帰宅部の俺は学校から帰る途中、急に大雨が降り始め駄菓子屋の前で雨宿りをしていると、ずぶ濡れの子猫が俺に擦り寄ってきた。
当時から両親は仕事の都合で海外を飛び回っていて家にはあまり帰って来なかった。
だからなのか子猫を見ていると自分を見ているようだった。
自然と子猫を抱き抱えると、これ以上濡れないよう制服の上着で包み込むと家に急いで帰った。
祖母にバレないようこっそりと自分の部屋へ行き、ドライヤーで濡れた子猫を乾かし、お腹を空かせてるだろう子猫のため食べる物を取りに行こうと部屋のドアを静かに開けるとミルクが入った小さな器が部屋の前に置いてあった。
祖母には子猫を連れ帰った事はお見通しだったみたいだ。
月日は流れ中学三年生の夏、学校から帰ると子猫の姿は何処にもなかった。
来る日も来る日も子猫を探したが、結局見つからず途方に暮れていると祖母が『必ず帰って来るからそれまで待ってておやり』っと言われ俺は待ち続けた……。
『……ご主人……ご主人……起きて』
その声に目を開けると白髪の髪にアニメのキャラクターのような猫耳に尻尾の小さな女の子が俺の上に覆いかぶさっていた。
『ご主人……ずっと会いたかった』
白髪の女の子は目を閉じると小さな唇でキスを迫ってきた。
『ちょっと待ったぁぁ!!』
俺の声に目を覚ましたのか二階からドタバタと花蓮が降りてくる音が聞こえてくると、俺の部屋のドアを勢いよく開けた。
『どうしたの!? 大丈……。 あんたねぇ……馬鹿乳ならまだしも……こんな小さな女の子を……このロリコン! 変態!』
目にも留まらぬ速さの蹴りが顔の前で止まった。
花蓮の視線の先に目を向けると白髪の女の子は髪の毛を逆立て『シャー!』っと猫のように威嚇していた。
『……ご主人をイジメるな』
『その姿……あんた人獣ね』
花蓮と白髪の女の子の視線が正面から衝突しすると、目に見えない火花を散らしていた。
『『あんた! ・ ご主人!』』
二人は同時に俺の腕を掴むと江戸時代に行われていた牛裂きのように二方に引っ張った。
『二人とも落ち着け……このままじゃ俺……避けちゃ……』
『『離しなさいよドロボー猫! ・ 離せーーこの怪力女!』』
最近運動不足のせいか関節がポキポキっと鳴ると二人は驚き手を離すと俺はその場に倒れ込んだ。
『ご主人……? ど、どうしよう……そうだ! ばっちゃん連れてくるから待ってて』
今『ばっちゃん』って言ったか?
俺は起き上がると白髪の女の子の後を追った。
『ちょ、ちょっと、あんたまで何処行くのよ』
祖母が使っていた和室の部屋に行くと、仏壇の前に白髪の女の子が座っていた。
『ご主人……ばっちゃん死んじゃったの?』
『あぁ……一年前、俺が高校に入学してすぐ亡くなった』
ぽたぽたと大粒の涙が溢れ落ちた。
『あたし……あたし……』
白髪の女の子を抱き寄せ頭を撫でた。
『……ご主人?』
『ばっちゃん見てるか? あの小さかった子猫がこんなに大きくなって帰ってきたぞ……おかえりミーニャ』
俺の服が涙でびしょ濡れになる頃、ミーニャは泣き疲れ俺の胸の中で眠ってしまった。
一部始終を見ていた花蓮は口を尖らせ不機嫌そうに言う。
『あんた、その子と親しいみたいだけど……どうゆう関係なの?』
『ミーニャは中学生の頃、うちで飼っていた子猫なんだ』
『子猫? どう見ても人獣じゃない』
『俺にも何がなんだか分からない。だけど、この子は間違いなく子猫だったミーニャだ』
『目が覚めてから事情を聞くとして、そのままだと風邪を引いちゃうからとりあえず私の部屋に連れてきて』
初めて花蓮の部屋に足を踏み入れた。
部屋の中はきちんと片付けられていて、三面鏡のドレッサーの上には化粧品やマニキュアなどが置かれ、壁には沢山のアクセサリーが飾られていた。
ベットの上にはぬいぐるみ、オレンジ色のカーテン……すっかり女の子の部屋になっていて俺の部屋だった面影はなくなっていた。
『あんまりジロジロ見ないでくれる? 普段あんたなんか絶対に入れたくないけど今回は特別なんだからね』
ここは俺の家だ! ……なんて言えないよなぁ……。
しかし、思ってたより綺麗に使ってるな。それにいい匂いがする……。
『ちょっと聞いてるの!』
『あぁ、あまりに部屋の様子が変わってたからビックリして……』
『まったく……その子、ミーニャだっけ? 私のベットに寝かせて、さっさと出て行って』
ミーニャを静かにベットの上に寝かせ、
『ありがとな花蓮』
『ふんっ! あんたのためじゃないんだから勘違いしないでよね』
『分かってるよ。 おやすみ』
ーーと言うと俺は部屋を後にした。
『……竜一の馬鹿』
翌朝、ドタバタと騒がしい音に目が覚めると花蓮の部屋に寝かせたはずのミーニャが俺の隣で、すぅすぅと寝息を立てて眠っていた。
バンッ!!と部屋のドアが開くと花蓮が入ってきた。
『居ないと思ったら、何でこいつの部屋で寝てるのよ! ほらっ! 起きなさい』
ミーニャのほっぺたをむにゅ~っと引っ張る花蓮。
『痛い痛い、 離してよ怪力女ーー!』
『誰が怪力女なのよ! まったく油断も隙もないんだから……』
『あたしは、ご主人とずっと一緒に寝てたんだから別にいいじゃん』
『言い訳ないでしょ! それは、あんたが猫の時の話でしょ! とりあえずこっち来なさい!』
『ご主人~助けて~』
ミーニャは花蓮に襟を掴まれ引きずられ俺の部屋を出ていった。
『……やはりここだったか』
その声に振り向くと俺の部屋の椅子に生徒会長が座っていた。
『生徒会長!? ここで何して……じゃなくてどうやって入ったんですか!?』
『無礼なのは百も承知だ。 悪いがそこの窓から入らせてもらった』
『ちゃんと玄関から入ってくださいよ……それでどうしたんですか?』
『お前も分かっていると思うがミーニャの事だ』
生徒会長の話を聞くと、子猫だったミーニャには人獣の血が流れているらしい。
ミーニャは生まれつき体が小さく病弱だったらしく、生まれてすぐ両親に捨てられたミーニャは、人間社会で生き抜くため人獣としての生きる道を捨て、動物になってでも生き延びようと子猫の姿になったミーニャは街をさまよってるところを俺に助けられたらしい。
猫として生きてきたミーニャは、人獣としての本能が少しずつ戻りかけていたのを狐の人獣である生徒会長が感じ取り騒ぎになる前にミーニャを連れ去った。
生徒会長はミーニャの親代わりとして人獣としての生きる道を教え、人間の姿を保てるまで人前に姿を晒さないようにしていたという。
『でも、まだ人獣の姿のままみたいですけど……』
『そ、それはだな……コホン。 私がうっかりお前の話をしてしまってな』
それでミーニャのやつ飛び出してきたのか。
だけど、ミーニャにそんな辛い過去があったなんて……。
『それで生徒会長はどうしたいんですか?』
『ふむ、ミーニャは猫として生きてきた期間が長く人間でいうところの十六歳だ。 見た目は大人でも中身はまだ子供のままだ。だから、ここに居てはミーニャのためにならないから連れて帰る』
『生徒会長の話は分かりました。 だけど、ミーニャは俺の家族なんです! 勝手に連れて帰るとか……』
『お前の気持ちは分かる。 だが、お前に何が出来る』
『……それでも家族なんです』
『話にならんな。 ミーニャは連れて帰る』
そう言うと生徒会長は立ち上がりミーニャを探しに部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
『……待ってください……待てって言ってるだろ! 確かに生徒会長の言う通り俺には何も出来ないかもしれない、それでもミーニャは俺の大事な家族なんだ! 勝手な事ばかり言ってんじゃねーよ!』
『お前の方こそ……』
その時だった俺の怒鳴り声に駆けつけたミーニャが部屋のドアを開けた。
『ご主人どうしたの!? あれ……静姉どうしてここに?』
『ミーニャ! 姉さんは心配したんだぞ! この男に何か変な事はされてないか?』
生徒会長はミーニャに抱きつくとデレデレとしていた。
『静姉くすぐったいよ~♪』
『もしかして生徒会長……シスコン?』
生徒会長はミーニャに抱きついたまま固まった。
『ミーニャが居なくなると寂しいから……とかないですよね』
『な、何を言ってるんだお前は?』
めちゃくちゃ目が泳いでるよ……。
あの生徒会長にこんな裏の顔があったなんて知らなかった。
『ミーニャそろそろ帰ろう。 あまり長居してると迷惑がかかるからな』
『静姉……あたし帰らない。 もうご主人と離れたくないの!』
『そ、そんなの姉さん絶対に認めないぞ! 馬鹿な事言ってないで早く帰るぞ!』
ミーニャは手を振りほどいた。
『静姉には感謝してる……だけどこれからはご主人と一緒に暮らしたいの』
『生徒会長……さっきは怒鳴ってすみませんでした。 俺からもお願いします』
『くっ……私は認めない……だが、ミーニャの悲しむ顔はもう見たくない……一つだけ条件がある……その……たまにミーニャの様子を見にきてもいいか』
『はい! いつでも来てください!』
『そうか……ミーニャこの男に何かされそうになったらすぐに言うのだぞ』
『静姉……今までありがとう。 静姉大好き!』
抱き合う二人、まるで本当の姉妹のように俺の目に映った。
こうしてうちにまた一人家族が増えた。
ーーその夜
『今日は疲れたし風呂に入って寝よう……』
お風呂場のドアを開けるとミーニャがシャワーを浴びていた。
小さな体に透き通るような白い肌……恥ずかしがる事なくこちらを見ていた。
『……ご主人も一緒に入りたいの?』
『えっと…あの』
背筋がゾクゾクっとすると背後に恐ろしい殺気を感じた。
『『あんた・お前』』
『ち、違う……って生徒会長までどうしてここに?』
『妹の……貞操の危機を感じたんでな、大事な妹のあられもない姿を見たのだ……覚悟は出来ているだろうな』
『あんた、やっぱりド変態でロリコンのクズ野郎ね』
俺は花蓮と生徒会長に全力でぶっ飛ばされた。
今回の登場人物
高峰竜一(たかみねりゅういち)、16歳(高校二年生)
本作の主人公。
勉強も運動もそこそこの平凡な学生。
炊事洗濯が得意で、幼馴染の小百合に恋をしている。
両親は、仕事で海外にいっており、一軒家に一人暮らしをしている。
獅子駒花蓮(ししこまかれん)、17歳。一話~三話までは16歳(高校二年生)
ライオンの人獣。茶髪に小麦色の肌。
周囲を寄せ付けない態度を取っていて、周りからはヤンキーっと誤解されている。
言葉使いは悪いが、優しい性格の持ち主。
ミーニャ、16歳
猫の人獣。白髪に透き通るような白い肌。
生まれつき体が小さく病弱だったため両親に捨てられ一度は人獣として生きる道を捨て猫として生きる道を選ぶ。高峰竜一に助けられ、それ以降は稲荷静代に人獣として生きる道を教えられる。
好奇心旺盛で、高峰の事を『ご主人』っと呼んでいる。
稲荷静代(いなりしずよ)17歳(高校三年生)
狐の人獣。普段は黒髪だが人獣の姿になると金茶色の髪に変わる。
高峰の通う高校の生徒会長。
女子からのファンも多く、人望が厚い。
ミーニャに人獣として生きる道を教え、ミーニャのお姉さん。(妹愛が強い)
ミーニャからは『静姉』と呼ばれている。
読者の方へ
『半獣じゃない人獣なんだから!!』を読んで頂き、ありがとうございます。
次回、『第六話 満月と人獣』をお楽しみに!
中学二年生の頃、帰宅部の俺は学校から帰る途中、急に大雨が降り始め駄菓子屋の前で雨宿りをしていると、ずぶ濡れの子猫が俺に擦り寄ってきた。
当時から両親は仕事の都合で海外を飛び回っていて家にはあまり帰って来なかった。
だからなのか子猫を見ていると自分を見ているようだった。
自然と子猫を抱き抱えると、これ以上濡れないよう制服の上着で包み込むと家に急いで帰った。
祖母にバレないようこっそりと自分の部屋へ行き、ドライヤーで濡れた子猫を乾かし、お腹を空かせてるだろう子猫のため食べる物を取りに行こうと部屋のドアを静かに開けるとミルクが入った小さな器が部屋の前に置いてあった。
祖母には子猫を連れ帰った事はお見通しだったみたいだ。
月日は流れ中学三年生の夏、学校から帰ると子猫の姿は何処にもなかった。
来る日も来る日も子猫を探したが、結局見つからず途方に暮れていると祖母が『必ず帰って来るからそれまで待ってておやり』っと言われ俺は待ち続けた……。
『……ご主人……ご主人……起きて』
その声に目を開けると白髪の髪にアニメのキャラクターのような猫耳に尻尾の小さな女の子が俺の上に覆いかぶさっていた。
『ご主人……ずっと会いたかった』
白髪の女の子は目を閉じると小さな唇でキスを迫ってきた。
『ちょっと待ったぁぁ!!』
俺の声に目を覚ましたのか二階からドタバタと花蓮が降りてくる音が聞こえてくると、俺の部屋のドアを勢いよく開けた。
『どうしたの!? 大丈……。 あんたねぇ……馬鹿乳ならまだしも……こんな小さな女の子を……このロリコン! 変態!』
目にも留まらぬ速さの蹴りが顔の前で止まった。
花蓮の視線の先に目を向けると白髪の女の子は髪の毛を逆立て『シャー!』っと猫のように威嚇していた。
『……ご主人をイジメるな』
『その姿……あんた人獣ね』
花蓮と白髪の女の子の視線が正面から衝突しすると、目に見えない火花を散らしていた。
『『あんた! ・ ご主人!』』
二人は同時に俺の腕を掴むと江戸時代に行われていた牛裂きのように二方に引っ張った。
『二人とも落ち着け……このままじゃ俺……避けちゃ……』
『『離しなさいよドロボー猫! ・ 離せーーこの怪力女!』』
最近運動不足のせいか関節がポキポキっと鳴ると二人は驚き手を離すと俺はその場に倒れ込んだ。
『ご主人……? ど、どうしよう……そうだ! ばっちゃん連れてくるから待ってて』
今『ばっちゃん』って言ったか?
俺は起き上がると白髪の女の子の後を追った。
『ちょ、ちょっと、あんたまで何処行くのよ』
祖母が使っていた和室の部屋に行くと、仏壇の前に白髪の女の子が座っていた。
『ご主人……ばっちゃん死んじゃったの?』
『あぁ……一年前、俺が高校に入学してすぐ亡くなった』
ぽたぽたと大粒の涙が溢れ落ちた。
『あたし……あたし……』
白髪の女の子を抱き寄せ頭を撫でた。
『……ご主人?』
『ばっちゃん見てるか? あの小さかった子猫がこんなに大きくなって帰ってきたぞ……おかえりミーニャ』
俺の服が涙でびしょ濡れになる頃、ミーニャは泣き疲れ俺の胸の中で眠ってしまった。
一部始終を見ていた花蓮は口を尖らせ不機嫌そうに言う。
『あんた、その子と親しいみたいだけど……どうゆう関係なの?』
『ミーニャは中学生の頃、うちで飼っていた子猫なんだ』
『子猫? どう見ても人獣じゃない』
『俺にも何がなんだか分からない。だけど、この子は間違いなく子猫だったミーニャだ』
『目が覚めてから事情を聞くとして、そのままだと風邪を引いちゃうからとりあえず私の部屋に連れてきて』
初めて花蓮の部屋に足を踏み入れた。
部屋の中はきちんと片付けられていて、三面鏡のドレッサーの上には化粧品やマニキュアなどが置かれ、壁には沢山のアクセサリーが飾られていた。
ベットの上にはぬいぐるみ、オレンジ色のカーテン……すっかり女の子の部屋になっていて俺の部屋だった面影はなくなっていた。
『あんまりジロジロ見ないでくれる? 普段あんたなんか絶対に入れたくないけど今回は特別なんだからね』
ここは俺の家だ! ……なんて言えないよなぁ……。
しかし、思ってたより綺麗に使ってるな。それにいい匂いがする……。
『ちょっと聞いてるの!』
『あぁ、あまりに部屋の様子が変わってたからビックリして……』
『まったく……その子、ミーニャだっけ? 私のベットに寝かせて、さっさと出て行って』
ミーニャを静かにベットの上に寝かせ、
『ありがとな花蓮』
『ふんっ! あんたのためじゃないんだから勘違いしないでよね』
『分かってるよ。 おやすみ』
ーーと言うと俺は部屋を後にした。
『……竜一の馬鹿』
翌朝、ドタバタと騒がしい音に目が覚めると花蓮の部屋に寝かせたはずのミーニャが俺の隣で、すぅすぅと寝息を立てて眠っていた。
バンッ!!と部屋のドアが開くと花蓮が入ってきた。
『居ないと思ったら、何でこいつの部屋で寝てるのよ! ほらっ! 起きなさい』
ミーニャのほっぺたをむにゅ~っと引っ張る花蓮。
『痛い痛い、 離してよ怪力女ーー!』
『誰が怪力女なのよ! まったく油断も隙もないんだから……』
『あたしは、ご主人とずっと一緒に寝てたんだから別にいいじゃん』
『言い訳ないでしょ! それは、あんたが猫の時の話でしょ! とりあえずこっち来なさい!』
『ご主人~助けて~』
ミーニャは花蓮に襟を掴まれ引きずられ俺の部屋を出ていった。
『……やはりここだったか』
その声に振り向くと俺の部屋の椅子に生徒会長が座っていた。
『生徒会長!? ここで何して……じゃなくてどうやって入ったんですか!?』
『無礼なのは百も承知だ。 悪いがそこの窓から入らせてもらった』
『ちゃんと玄関から入ってくださいよ……それでどうしたんですか?』
『お前も分かっていると思うがミーニャの事だ』
生徒会長の話を聞くと、子猫だったミーニャには人獣の血が流れているらしい。
ミーニャは生まれつき体が小さく病弱だったらしく、生まれてすぐ両親に捨てられたミーニャは、人間社会で生き抜くため人獣としての生きる道を捨て、動物になってでも生き延びようと子猫の姿になったミーニャは街をさまよってるところを俺に助けられたらしい。
猫として生きてきたミーニャは、人獣としての本能が少しずつ戻りかけていたのを狐の人獣である生徒会長が感じ取り騒ぎになる前にミーニャを連れ去った。
生徒会長はミーニャの親代わりとして人獣としての生きる道を教え、人間の姿を保てるまで人前に姿を晒さないようにしていたという。
『でも、まだ人獣の姿のままみたいですけど……』
『そ、それはだな……コホン。 私がうっかりお前の話をしてしまってな』
それでミーニャのやつ飛び出してきたのか。
だけど、ミーニャにそんな辛い過去があったなんて……。
『それで生徒会長はどうしたいんですか?』
『ふむ、ミーニャは猫として生きてきた期間が長く人間でいうところの十六歳だ。 見た目は大人でも中身はまだ子供のままだ。だから、ここに居てはミーニャのためにならないから連れて帰る』
『生徒会長の話は分かりました。 だけど、ミーニャは俺の家族なんです! 勝手に連れて帰るとか……』
『お前の気持ちは分かる。 だが、お前に何が出来る』
『……それでも家族なんです』
『話にならんな。 ミーニャは連れて帰る』
そう言うと生徒会長は立ち上がりミーニャを探しに部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
『……待ってください……待てって言ってるだろ! 確かに生徒会長の言う通り俺には何も出来ないかもしれない、それでもミーニャは俺の大事な家族なんだ! 勝手な事ばかり言ってんじゃねーよ!』
『お前の方こそ……』
その時だった俺の怒鳴り声に駆けつけたミーニャが部屋のドアを開けた。
『ご主人どうしたの!? あれ……静姉どうしてここに?』
『ミーニャ! 姉さんは心配したんだぞ! この男に何か変な事はされてないか?』
生徒会長はミーニャに抱きつくとデレデレとしていた。
『静姉くすぐったいよ~♪』
『もしかして生徒会長……シスコン?』
生徒会長はミーニャに抱きついたまま固まった。
『ミーニャが居なくなると寂しいから……とかないですよね』
『な、何を言ってるんだお前は?』
めちゃくちゃ目が泳いでるよ……。
あの生徒会長にこんな裏の顔があったなんて知らなかった。
『ミーニャそろそろ帰ろう。 あまり長居してると迷惑がかかるからな』
『静姉……あたし帰らない。 もうご主人と離れたくないの!』
『そ、そんなの姉さん絶対に認めないぞ! 馬鹿な事言ってないで早く帰るぞ!』
ミーニャは手を振りほどいた。
『静姉には感謝してる……だけどこれからはご主人と一緒に暮らしたいの』
『生徒会長……さっきは怒鳴ってすみませんでした。 俺からもお願いします』
『くっ……私は認めない……だが、ミーニャの悲しむ顔はもう見たくない……一つだけ条件がある……その……たまにミーニャの様子を見にきてもいいか』
『はい! いつでも来てください!』
『そうか……ミーニャこの男に何かされそうになったらすぐに言うのだぞ』
『静姉……今までありがとう。 静姉大好き!』
抱き合う二人、まるで本当の姉妹のように俺の目に映った。
こうしてうちにまた一人家族が増えた。
ーーその夜
『今日は疲れたし風呂に入って寝よう……』
お風呂場のドアを開けるとミーニャがシャワーを浴びていた。
小さな体に透き通るような白い肌……恥ずかしがる事なくこちらを見ていた。
『……ご主人も一緒に入りたいの?』
『えっと…あの』
背筋がゾクゾクっとすると背後に恐ろしい殺気を感じた。
『『あんた・お前』』
『ち、違う……って生徒会長までどうしてここに?』
『妹の……貞操の危機を感じたんでな、大事な妹のあられもない姿を見たのだ……覚悟は出来ているだろうな』
『あんた、やっぱりド変態でロリコンのクズ野郎ね』
俺は花蓮と生徒会長に全力でぶっ飛ばされた。
今回の登場人物
高峰竜一(たかみねりゅういち)、16歳(高校二年生)
本作の主人公。
勉強も運動もそこそこの平凡な学生。
炊事洗濯が得意で、幼馴染の小百合に恋をしている。
両親は、仕事で海外にいっており、一軒家に一人暮らしをしている。
獅子駒花蓮(ししこまかれん)、17歳。一話~三話までは16歳(高校二年生)
ライオンの人獣。茶髪に小麦色の肌。
周囲を寄せ付けない態度を取っていて、周りからはヤンキーっと誤解されている。
言葉使いは悪いが、優しい性格の持ち主。
ミーニャ、16歳
猫の人獣。白髪に透き通るような白い肌。
生まれつき体が小さく病弱だったため両親に捨てられ一度は人獣として生きる道を捨て猫として生きる道を選ぶ。高峰竜一に助けられ、それ以降は稲荷静代に人獣として生きる道を教えられる。
好奇心旺盛で、高峰の事を『ご主人』っと呼んでいる。
稲荷静代(いなりしずよ)17歳(高校三年生)
狐の人獣。普段は黒髪だが人獣の姿になると金茶色の髪に変わる。
高峰の通う高校の生徒会長。
女子からのファンも多く、人望が厚い。
ミーニャに人獣として生きる道を教え、ミーニャのお姉さん。(妹愛が強い)
ミーニャからは『静姉』と呼ばれている。
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『半獣じゃない人獣なんだから!!』を読んで頂き、ありがとうございます。
次回、『第六話 満月と人獣』をお楽しみに!
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