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第一章
インテリ住職 其の十六
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静かな病室に、私の嗚咽交じりの声が響き渡る。
彼は何も答えない。
きっと困ってる。
そう思うのに……包み込む手の温もりを離したくなくて、強く握り続けてしまう。
しばらくそうしていると、小さな溜息が聞こえた。
間近で彼の気配を感じ、体が震える。
「手を離してくれないか?」
「――っ」
これでもう終わりだと……私はギュッと瞼に力を込めた。
「両手を拘束されているせいで、拭う事ができん」
栄慶さんはそう言うと……目尻に唇が落とす。
彼の唇が……左右の目尻、涙の筋へと降り注ぐ。
私はその行為に戸惑いながら、ゆっくりと目を開ける。
少しずつクリアになっていく視界。
その先に映り込んだのは……
微笑みながら私を見つめる、栄慶さんの姿だった。
ずっと見たかった、あの少女に向けたものと同じ……ううん、心なしかそれ以上に見える。
急激に上昇し始める体温を感じながら、私は呆然とそれを見つめていた。
そんな私を見て、彼はゆっくりと口を開く。
「迷惑だとは思っていない。お前と出会ってから、こうなる事は覚悟していた」
「それに前にも言ったはずだ。お前がそうしたいならそうすればいいと……」
「――で、でもっ、栄慶さん、電話口で怒ってたじゃないですかっ、自分の体質が分かっているのかって、憑かれやすい場所に行くなってっ」
そう反論すると、彼は一瞬間を置きバツが悪そうに目を逸らす。
「……あの時は、私になんの相談もなく行動したお前に少し腹が立っただけだ」
(それって……それって)
さらに上昇し続ける体温。
顔もヤバイくらいに赤くなってる。
そんな私に追い打ちを掛けるように、再び視線を落とした彼は言葉を続けた。
「お前は、お前の好きなようにすればいい。何かあれば私が守ってやる」
「栄慶……さん……」
彼の口からそんな言葉が出るなんて…
嬉しくて、恥ずかしくて。
私の心はもうキャパオーバーになりそうだった。
(え、ええと……な、なんて答えればいいの? お、お願いしますって言えばいいの?)
どう返答したらいいのか……しばらくグルグルと頭の中で考えていると、ある事に気付く。
「そ、それだと助けてもらってばかりで栄慶さんに見返りがないじゃないですかっ」
私を守る理由なんてないのに。
助ける必要なんてないのに。
私はそれだけの事をしてもらっても返せるものなんて何もないのに。
「報酬はキッチリと貰うさ」
栄慶さんはそう言うと、納得しきれない表情を向ける私の唇を、親指でなぞった。
「そ、それだったら……さっき……した、じゃないですか」
キスされた時の事を思い出し、私は電流が走ったかのように身体を震わせる。
そんな私を優しい眼差しで見つめながら彼は言葉を続けた。
「あれは子供のキスだろう? それに……それだけでは報酬分に足りていないと思うが?」
「――っ」
その意味が分からないほど子供じゃない。私は一度顔を反らし、少ししてから彼に視線を向ける。
それを同意と受け止めた彼はベッドに体重をかけ始め、私は身体が傾いてくるのと平行してベッドに仰向けになる。
「栄慶さん……」
急に恥ずかしさが込み上げてきて、思わず押しやるように彼の胸元に両手を置くが、彼はすぐさま左手で両手首を掴み、私の頭上に縫い付けるように抑え込む。
それはまるで拒否するなと言ってるようで……。
逃げるなと言っているようで……。
恥ずかしくて顔を反らそうとするが、彼の熱い眼差しに絡め取られ動かせなかった。
彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
私はそれを見つめながら数え始める。
あと5cm…。
4cm…。
3cm…。
私はゆっくりと目を閉じる。
あと2cm…。
1cm…。
彼は何も答えない。
きっと困ってる。
そう思うのに……包み込む手の温もりを離したくなくて、強く握り続けてしまう。
しばらくそうしていると、小さな溜息が聞こえた。
間近で彼の気配を感じ、体が震える。
「手を離してくれないか?」
「――っ」
これでもう終わりだと……私はギュッと瞼に力を込めた。
「両手を拘束されているせいで、拭う事ができん」
栄慶さんはそう言うと……目尻に唇が落とす。
彼の唇が……左右の目尻、涙の筋へと降り注ぐ。
私はその行為に戸惑いながら、ゆっくりと目を開ける。
少しずつクリアになっていく視界。
その先に映り込んだのは……
微笑みながら私を見つめる、栄慶さんの姿だった。
ずっと見たかった、あの少女に向けたものと同じ……ううん、心なしかそれ以上に見える。
急激に上昇し始める体温を感じながら、私は呆然とそれを見つめていた。
そんな私を見て、彼はゆっくりと口を開く。
「迷惑だとは思っていない。お前と出会ってから、こうなる事は覚悟していた」
「それに前にも言ったはずだ。お前がそうしたいならそうすればいいと……」
「――で、でもっ、栄慶さん、電話口で怒ってたじゃないですかっ、自分の体質が分かっているのかって、憑かれやすい場所に行くなってっ」
そう反論すると、彼は一瞬間を置きバツが悪そうに目を逸らす。
「……あの時は、私になんの相談もなく行動したお前に少し腹が立っただけだ」
(それって……それって)
さらに上昇し続ける体温。
顔もヤバイくらいに赤くなってる。
そんな私に追い打ちを掛けるように、再び視線を落とした彼は言葉を続けた。
「お前は、お前の好きなようにすればいい。何かあれば私が守ってやる」
「栄慶……さん……」
彼の口からそんな言葉が出るなんて…
嬉しくて、恥ずかしくて。
私の心はもうキャパオーバーになりそうだった。
(え、ええと……な、なんて答えればいいの? お、お願いしますって言えばいいの?)
どう返答したらいいのか……しばらくグルグルと頭の中で考えていると、ある事に気付く。
「そ、それだと助けてもらってばかりで栄慶さんに見返りがないじゃないですかっ」
私を守る理由なんてないのに。
助ける必要なんてないのに。
私はそれだけの事をしてもらっても返せるものなんて何もないのに。
「報酬はキッチリと貰うさ」
栄慶さんはそう言うと、納得しきれない表情を向ける私の唇を、親指でなぞった。
「そ、それだったら……さっき……した、じゃないですか」
キスされた時の事を思い出し、私は電流が走ったかのように身体を震わせる。
そんな私を優しい眼差しで見つめながら彼は言葉を続けた。
「あれは子供のキスだろう? それに……それだけでは報酬分に足りていないと思うが?」
「――っ」
その意味が分からないほど子供じゃない。私は一度顔を反らし、少ししてから彼に視線を向ける。
それを同意と受け止めた彼はベッドに体重をかけ始め、私は身体が傾いてくるのと平行してベッドに仰向けになる。
「栄慶さん……」
急に恥ずかしさが込み上げてきて、思わず押しやるように彼の胸元に両手を置くが、彼はすぐさま左手で両手首を掴み、私の頭上に縫い付けるように抑え込む。
それはまるで拒否するなと言ってるようで……。
逃げるなと言っているようで……。
恥ずかしくて顔を反らそうとするが、彼の熱い眼差しに絡め取られ動かせなかった。
彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
私はそれを見つめながら数え始める。
あと5cm…。
4cm…。
3cm…。
私はゆっくりと目を閉じる。
あと2cm…。
1cm…。
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