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第一章
インテリ住職 其の六
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あの時の少女の笑顔を思い出しながら、私は目の前に座る彼に伝える。
「――あの後ガイスト編集部に配属になって、最初は嫌々仕事してたんですよ」
「でも……ふと思ったんです。私がこんな体質なのも、この部署に配属されたのも、何かの巡り合わせじゃないかって」
私は座卓に置かれた雑誌に目を向ける。
「読者からの投稿の中には幽霊に助けられた、守ってくれたって書いてくる人もたまにいるんですよ。でも雑誌の特質上そんな話は記事にできなくて……」
「でもあんな体験をして、こんな話も記事にできたらなって、すべての霊が悪意を持っているわけじゃないって事を少しでも知ってもらえたらって思うようになったんです」
「だから今の部署でもう少し頑張りたいんです」
そう言ってから、私は再び彼に視線を戻した。
だけど栄慶さんは何も答えてくれず、考え込むように視線を下に向けていた。
しばしの沈黙が続く。
「ま、まぁ~新人の私じゃ、まだ記事すら書かせてもらえないですけどねぇ~」
その空気に耐え切れなくなった私は、あはは、と笑って誤魔化すと、彼は
「――――いいんじゃないか? そんな考えを持った者が一人いても」
と、ポツリと呟き、私は目を見開いた。
(てっきり馬鹿にされるかと思ったのに……)
「お前がそうしたいのなら……そうすればいい」
そう言って彼は私の視線を逸らすかのように再び苦いお茶を啜り始める。
私もまた……火照った顔を隠すためにお茶を飲むフリをした。
あともう一つ……私がこの仕事を続けたいと思う理由がある。
あのあと遅刻しそうだった私は、彼の名前も、どこに住んでいるのかも聞かずにその場を去ってしまった。
オカルト編集部に配属されて、憑かれる日々に疲れる毎日。
結局彼を探せないまま数週間が過ぎた頃、編集長に溜まっていた曰く憑き品達を斎堂寺に持って行くよう頼まれ、そこで彼と二度目の再会を果たしたその瞬間。
(これって運命!?)
なんて思ってしまった。
栄慶さんが少女に向けた、あの微笑みが未だに忘れられない。あの暖かくて優しい顔が、本当の彼なんじゃないかと思う。
思い出すたび胸が熱くなるのを感じた。こんな気持ち初めてだった。
(いつか私にも向けてくれる日がくるのかな)
なんて事を考えつつ……チラリと表情を窺うと、ジッとこちらを凝視する彼と目が合い、息を呑んだ。
私に向けるその真剣な眼差しに、頬が熱くなるのを感じる。
「お前……」
「な、なんですか……?」
彼は両端の口角を上げ、ニヤリと笑う。
「欲求不満みたいな顔してるぞ。何なら煩悩も祓ってくか?」
「結構です――――っ!!」
前言撤回!! この意地悪な笑みが素だわ! いや、そもそも記憶が美化されてるのよ! そんな気になったのは気のせいだわ!! そうだ、きっとそうに違いない!!
私は心の中でそう反芻しながら寺をあとにした。
「――あの後ガイスト編集部に配属になって、最初は嫌々仕事してたんですよ」
「でも……ふと思ったんです。私がこんな体質なのも、この部署に配属されたのも、何かの巡り合わせじゃないかって」
私は座卓に置かれた雑誌に目を向ける。
「読者からの投稿の中には幽霊に助けられた、守ってくれたって書いてくる人もたまにいるんですよ。でも雑誌の特質上そんな話は記事にできなくて……」
「でもあんな体験をして、こんな話も記事にできたらなって、すべての霊が悪意を持っているわけじゃないって事を少しでも知ってもらえたらって思うようになったんです」
「だから今の部署でもう少し頑張りたいんです」
そう言ってから、私は再び彼に視線を戻した。
だけど栄慶さんは何も答えてくれず、考え込むように視線を下に向けていた。
しばしの沈黙が続く。
「ま、まぁ~新人の私じゃ、まだ記事すら書かせてもらえないですけどねぇ~」
その空気に耐え切れなくなった私は、あはは、と笑って誤魔化すと、彼は
「――――いいんじゃないか? そんな考えを持った者が一人いても」
と、ポツリと呟き、私は目を見開いた。
(てっきり馬鹿にされるかと思ったのに……)
「お前がそうしたいのなら……そうすればいい」
そう言って彼は私の視線を逸らすかのように再び苦いお茶を啜り始める。
私もまた……火照った顔を隠すためにお茶を飲むフリをした。
あともう一つ……私がこの仕事を続けたいと思う理由がある。
あのあと遅刻しそうだった私は、彼の名前も、どこに住んでいるのかも聞かずにその場を去ってしまった。
オカルト編集部に配属されて、憑かれる日々に疲れる毎日。
結局彼を探せないまま数週間が過ぎた頃、編集長に溜まっていた曰く憑き品達を斎堂寺に持って行くよう頼まれ、そこで彼と二度目の再会を果たしたその瞬間。
(これって運命!?)
なんて思ってしまった。
栄慶さんが少女に向けた、あの微笑みが未だに忘れられない。あの暖かくて優しい顔が、本当の彼なんじゃないかと思う。
思い出すたび胸が熱くなるのを感じた。こんな気持ち初めてだった。
(いつか私にも向けてくれる日がくるのかな)
なんて事を考えつつ……チラリと表情を窺うと、ジッとこちらを凝視する彼と目が合い、息を呑んだ。
私に向けるその真剣な眼差しに、頬が熱くなるのを感じる。
「お前……」
「な、なんですか……?」
彼は両端の口角を上げ、ニヤリと笑う。
「欲求不満みたいな顔してるぞ。何なら煩悩も祓ってくか?」
「結構です――――っ!!」
前言撤回!! この意地悪な笑みが素だわ! いや、そもそも記憶が美化されてるのよ! そんな気になったのは気のせいだわ!! そうだ、きっとそうに違いない!!
私は心の中でそう反芻しながら寺をあとにした。
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