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第五章
加茂倉少年の恋 其の十一
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──12時半を過ぎた頃。
私はバス停で降りた人達に混ざりながら、待ち合わせ場所へと向かっていた。
「この格好……変じゃないかな」
あの後、仕事に行く栄慶さんを見送った私は、一度アパートに戻る事にした。
というのも、斎堂寺で待つつもりだった私に、史真さんが
「ここで永見を待つより、癒見さんも現地で待ち合わせてはどうですか? その方がデートらしいでしょう?」
と、〝デート〟という言葉を強調して言われたせいで意識してしまったから。
(で、デート……そっか……デートなんだから、普段着じゃ……おかしいよね?)
とは思ってみたものの、普段仕事で着ていく服しか持ってきてなかった私は、いつ栄慶さんから連絡が入るか分からない状態で街へ買い物に行くわけにもいかず、結局アパートのクローゼットから着ていけそうな服を物色する事にしたのだった。
(スカートなんて久しぶり……)
普段もだけど、栄慶さんと海に行った時も動きやすいパンツスタイルだった。
スカートを履いた姿を見せるのは初めて。
薄ピンク色のそのスカートは、店員に勧められるがまま買ってはみたけれど、家で履いてみると思ったより丈が短くて、結局履く事がないままクローゼットの奥で眠っていたもの。
下がピンクのフレアスカートに上は白いニットの組み合わせは少し子供っぽいかもしれないけど……
(た、たまにはいいよね? こういう格好でもっ)
高校生の俊介くん達と行くわけだから、このくらいの服装の方がいいのだと自分に言い聞かせながら歩いていると、緊張した面持ちで待つ俊介くんを入場ゲート近くで見つけた。
「俊介くんっ」
「あ、お姉さんっ!」
手を振りながら近づく私に、彼はホッとしたような表情を浮かべる。
「早いね、いつ到着したの?」
「えっと……三時間くらい前、です」
「三時間前!?」
栄慶さんから連絡が入ったのが一時間くらい前。
という事は、連絡が来る前からすでに待っていたという事になる。
「家にいても落ち着かなくて……」
そう言って頬を赤らめる俊介くんを見て、私は思わず口元を緩ませる。
――が、自分もまた栄慶さんと初デートだと思うと、急に体が強張ってきた。
「き、緊張するねっ」
「そ、そうですねっ」
暫く短い会話を交わしながら二人でソワソワ待っていると、こちらに向かってくる人だかりの中に、ひときわ目立つ頭……じゃない、高身長の男性が目に入ってきた。
「待たせたな」
「――っ!!」
目の前まで来た彼を見て、私は声を失った。
(しっ……)
(私服姿の栄慶さんだ――っ)
紺色のデニムにワインレッドのVネック、その上に羽織ったベージュのテーラードジャケット。
コンタクトを付けてきたのか、眼鏡も掛けていなかった。
「どうした?」
「い、いえっ、何でもない……ですっ」
普段の凛とした姿とはまた違った雰囲気に思わず見惚れていると、栄慶さんそんな私を訝しんだのか、ジッと見つめ返してきたかと思うと、ゆっくり視線を上から下へと移動させる。
「あ、あの……?」
「いや、何でもない」
そう言うと、彼は眉をひそめながら私から視線を逸らす。
心のなしか頬が赤く染まっているように見えるのは気のせいだろうか……。
急に恥ずかしさがこみ上げてきた私もまた、顔を隠すように下を向いた。
「……」
「……」
しばらくの間、私たちは視線を合わさないまま無言でいると……
「しゅーんく~んっ」
「えっ、わぁっ!?」
顔を上げた私の目の前を長い髪が横切ったかと思うと、隣に居た俊介くんに抱き着くように人が飛び込んできた。
「えっ!?」
その嬉しそうに顔を上げた人物を見て、私は目を見開き驚きの声を上げる。
「俊くん、おまたせ♡」
(お……女の子!?)
私はバス停で降りた人達に混ざりながら、待ち合わせ場所へと向かっていた。
「この格好……変じゃないかな」
あの後、仕事に行く栄慶さんを見送った私は、一度アパートに戻る事にした。
というのも、斎堂寺で待つつもりだった私に、史真さんが
「ここで永見を待つより、癒見さんも現地で待ち合わせてはどうですか? その方がデートらしいでしょう?」
と、〝デート〟という言葉を強調して言われたせいで意識してしまったから。
(で、デート……そっか……デートなんだから、普段着じゃ……おかしいよね?)
とは思ってみたものの、普段仕事で着ていく服しか持ってきてなかった私は、いつ栄慶さんから連絡が入るか分からない状態で街へ買い物に行くわけにもいかず、結局アパートのクローゼットから着ていけそうな服を物色する事にしたのだった。
(スカートなんて久しぶり……)
普段もだけど、栄慶さんと海に行った時も動きやすいパンツスタイルだった。
スカートを履いた姿を見せるのは初めて。
薄ピンク色のそのスカートは、店員に勧められるがまま買ってはみたけれど、家で履いてみると思ったより丈が短くて、結局履く事がないままクローゼットの奥で眠っていたもの。
下がピンクのフレアスカートに上は白いニットの組み合わせは少し子供っぽいかもしれないけど……
(た、たまにはいいよね? こういう格好でもっ)
高校生の俊介くん達と行くわけだから、このくらいの服装の方がいいのだと自分に言い聞かせながら歩いていると、緊張した面持ちで待つ俊介くんを入場ゲート近くで見つけた。
「俊介くんっ」
「あ、お姉さんっ!」
手を振りながら近づく私に、彼はホッとしたような表情を浮かべる。
「早いね、いつ到着したの?」
「えっと……三時間くらい前、です」
「三時間前!?」
栄慶さんから連絡が入ったのが一時間くらい前。
という事は、連絡が来る前からすでに待っていたという事になる。
「家にいても落ち着かなくて……」
そう言って頬を赤らめる俊介くんを見て、私は思わず口元を緩ませる。
――が、自分もまた栄慶さんと初デートだと思うと、急に体が強張ってきた。
「き、緊張するねっ」
「そ、そうですねっ」
暫く短い会話を交わしながら二人でソワソワ待っていると、こちらに向かってくる人だかりの中に、ひときわ目立つ頭……じゃない、高身長の男性が目に入ってきた。
「待たせたな」
「――っ!!」
目の前まで来た彼を見て、私は声を失った。
(しっ……)
(私服姿の栄慶さんだ――っ)
紺色のデニムにワインレッドのVネック、その上に羽織ったベージュのテーラードジャケット。
コンタクトを付けてきたのか、眼鏡も掛けていなかった。
「どうした?」
「い、いえっ、何でもない……ですっ」
普段の凛とした姿とはまた違った雰囲気に思わず見惚れていると、栄慶さんそんな私を訝しんだのか、ジッと見つめ返してきたかと思うと、ゆっくり視線を上から下へと移動させる。
「あ、あの……?」
「いや、何でもない」
そう言うと、彼は眉をひそめながら私から視線を逸らす。
心のなしか頬が赤く染まっているように見えるのは気のせいだろうか……。
急に恥ずかしさがこみ上げてきた私もまた、顔を隠すように下を向いた。
「……」
「……」
しばらくの間、私たちは視線を合わさないまま無言でいると……
「しゅーんく~んっ」
「えっ、わぁっ!?」
顔を上げた私の目の前を長い髪が横切ったかと思うと、隣に居た俊介くんに抱き着くように人が飛び込んできた。
「えっ!?」
その嬉しそうに顔を上げた人物を見て、私は目を見開き驚きの声を上げる。
「俊くん、おまたせ♡」
(お……女の子!?)
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