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第五章
加茂倉少年の恋 其の六
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庫裏の玄関から外に出てみると、宗近くんが言った通り、本堂の前に私服姿の少年が立っているのが見える。
やはり私ではなく栄慶さんに用事があるのだろう、入口の木製扉に手を掛け、嵌めこまれた桝格子のガラス部分から中を窺うような仕草をしている。
だけどそこはすりガラスになっている為、中を確認できなかった少年は深い溜息を付いていた。
そんな姿を見て、私は足早に少年に近づき声を掛けた。
「ねぇ君、斎堂寺に用事があるのかな?」
「えっ……」
背後から聞こえた声に少年は驚き、振り返る。
そして私の顔を見た途端、顔を真っ赤に染め上げた。
「あ……、ああ……あのっ、あの時は、そのっお世話に……な、なりまして……」
少年は何故か目を泳がせながらモゴモゴと答えている。
(え、私?)
世話なった……?
私、この子に何かしたっけ?
そう思いつつ、顔を赤らめる少年の顔をマジマジと確認する。
(そう言えば、この子どこかで……)
会った気がする、と口に手を当てながら記憶の糸を手繰り寄せていると、少年は私の視線に耐え切れなくなったのか、下を向き
「あのっ……前にっ……この近くの廃病院でっ」
と、途切れ途切れに答え、私はハッと思い出す。
「もしかして……俊介くん!?」
顔を上げた少年を見て、私は確信する。
そうだ、俊介くんだ。
私が初めて取材をしに行った廃病院、恵奏会病院で出会った少年の一人。
友達の様子がおかしくなったと慌てふためく少年達の代わりに中に入り、病院二階奥の個室に居たのが、憑依されていた俊介君だった。
「あの時の子供か」
栄慶さんも思い出したのか、私の隣にきて視線を向けると、少年は緊張したように背筋を伸ばし頭を下げた。
「あの時は助けて頂きありがとうございましたっ。お姉さんも、俺のこと助けようとして来てくれたのだと友達から聞いてますっ、本当に……ありがとございましたっ!!」
そう言って私にも深々と頭を下げる俊介君を見て
「私はほとんど何もしてないから気にしないで」
と明るく声を掛ける。
良かった。
私が目が覚めたときには少年達の姿はもうなくて、栄慶さんからも帰ったとしか聞いてなかったら心配していたのよね。
「それにしても俊介君、憑依されていた時の事は覚えていたの?」
「いえ……、俺……あの時の事ほとんど覚えてなくて、奥の病室に入ってから急に意識が遠退いて、それからは何も……」
「あとは……その……気付いたら……」
「ベッ……
ベッドの上で……お二人が……」
「――っっ!!」
「ちがっ、あれはっ……何かしようとしてたわけじゃなくてっ」
私は慌てて左右に手を振って訂正する。
「へぇ~~~~~~~~、ベッドの上で、ねぇ~~? 一体エージと何してたのー~?」
俊介君の頭上で頬杖をつきながら、宗近くんが探るような目を向けてくる。
「な、何もしてないってばっ!! あれは栄慶さんが私の事からかっただけなんだからっ」
(キスは……したけどっ)
「そ、そうですよね、あんなとこで何かするわけないですよねっ」
俊介君はホッとしたように笑みを浮かべる。
「そ、そうよっ、そうに決まってるじゃないっ! ね、栄慶さんっ!!」
「ああ、さすがに視姦プレイは……」
「栄慶さんっ!!」
子供の前で何言おうとしてるのよっ、と遮るように叫んでから私は慌てて話題を変える。
「そ、そんな事よりっ、今日はその事でここに来たわけじゃないのよねっ?」
「あっやし~~~~~~~~」
「ちょっと黙っててっ!!」
「えっ、あの……?」
俊介君は自分に向けられたと思ったのか、一瞬ビクリと身体を揺らす。
「あっ、俊介君に言ったわけじゃないからね?」
「え? は、はい……」
俊介君は不思議そうな顔をしながら返事をすると、少し間を置き
「あの……俺、今日はご住職に相談したい事があって来たんですっ!」
と、困ったように眉を寄せて答えた。
やはり私ではなく栄慶さんに用事があるのだろう、入口の木製扉に手を掛け、嵌めこまれた桝格子のガラス部分から中を窺うような仕草をしている。
だけどそこはすりガラスになっている為、中を確認できなかった少年は深い溜息を付いていた。
そんな姿を見て、私は足早に少年に近づき声を掛けた。
「ねぇ君、斎堂寺に用事があるのかな?」
「えっ……」
背後から聞こえた声に少年は驚き、振り返る。
そして私の顔を見た途端、顔を真っ赤に染め上げた。
「あ……、ああ……あのっ、あの時は、そのっお世話に……な、なりまして……」
少年は何故か目を泳がせながらモゴモゴと答えている。
(え、私?)
世話なった……?
私、この子に何かしたっけ?
そう思いつつ、顔を赤らめる少年の顔をマジマジと確認する。
(そう言えば、この子どこかで……)
会った気がする、と口に手を当てながら記憶の糸を手繰り寄せていると、少年は私の視線に耐え切れなくなったのか、下を向き
「あのっ……前にっ……この近くの廃病院でっ」
と、途切れ途切れに答え、私はハッと思い出す。
「もしかして……俊介くん!?」
顔を上げた少年を見て、私は確信する。
そうだ、俊介くんだ。
私が初めて取材をしに行った廃病院、恵奏会病院で出会った少年の一人。
友達の様子がおかしくなったと慌てふためく少年達の代わりに中に入り、病院二階奥の個室に居たのが、憑依されていた俊介君だった。
「あの時の子供か」
栄慶さんも思い出したのか、私の隣にきて視線を向けると、少年は緊張したように背筋を伸ばし頭を下げた。
「あの時は助けて頂きありがとうございましたっ。お姉さんも、俺のこと助けようとして来てくれたのだと友達から聞いてますっ、本当に……ありがとございましたっ!!」
そう言って私にも深々と頭を下げる俊介君を見て
「私はほとんど何もしてないから気にしないで」
と明るく声を掛ける。
良かった。
私が目が覚めたときには少年達の姿はもうなくて、栄慶さんからも帰ったとしか聞いてなかったら心配していたのよね。
「それにしても俊介君、憑依されていた時の事は覚えていたの?」
「いえ……、俺……あの時の事ほとんど覚えてなくて、奥の病室に入ってから急に意識が遠退いて、それからは何も……」
「あとは……その……気付いたら……」
「ベッ……
ベッドの上で……お二人が……」
「――っっ!!」
「ちがっ、あれはっ……何かしようとしてたわけじゃなくてっ」
私は慌てて左右に手を振って訂正する。
「へぇ~~~~~~~~、ベッドの上で、ねぇ~~? 一体エージと何してたのー~?」
俊介君の頭上で頬杖をつきながら、宗近くんが探るような目を向けてくる。
「な、何もしてないってばっ!! あれは栄慶さんが私の事からかっただけなんだからっ」
(キスは……したけどっ)
「そ、そうですよね、あんなとこで何かするわけないですよねっ」
俊介君はホッとしたように笑みを浮かべる。
「そ、そうよっ、そうに決まってるじゃないっ! ね、栄慶さんっ!!」
「ああ、さすがに視姦プレイは……」
「栄慶さんっ!!」
子供の前で何言おうとしてるのよっ、と遮るように叫んでから私は慌てて話題を変える。
「そ、そんな事よりっ、今日はその事でここに来たわけじゃないのよねっ?」
「あっやし~~~~~~~~」
「ちょっと黙っててっ!!」
「えっ、あの……?」
俊介君は自分に向けられたと思ったのか、一瞬ビクリと身体を揺らす。
「あっ、俊介君に言ったわけじゃないからね?」
「え? は、はい……」
俊介君は不思議そうな顔をしながら返事をすると、少し間を置き
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と、困ったように眉を寄せて答えた。
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