憑かれて恋

香前宇里

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第五章

加茂倉少年の恋 其の一

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「…………み……」


 声が……聞こえる。



「ゆみ……」



 私を呼ぶ……男性の声。



「ん……っ」



 この声……誰だっけ?




 仰向けの姿勢で眠る、私の耳に聞こえてきたこの声は……。



「ん……栄慶さ……」




「ゆみ……」









「ユミちゃん」



(──ゆみ……ちゃん?)



 栄慶さんは私のこと、〝ちゃん付け〟で呼ばないよね。
 じゃあこの声って……!?
  まどろみの中から意識を覚醒させた私は、ハッと天井を仰ぎ見ると


「エージより、俺の夢見てほしいんだけどー」


 腰に手を当てながら浮かぶ、宗近くんと目が合った。
「――っっ!?」
「んなななななっ!?」
 慌てて上半身を起こした私は、すぐさま周りを確認する。



 こ、ここって……私の部屋……だよね!!



 見慣れた部屋、見慣れた家具、朝の光がカーテン越しに室内を淡く照らしている。
 ここは私の住むアパートの一室に間違いない。
「もうっ! ずっと呼んでたのに全然起きないんだからっ! しかもエージと間違えてるし!」
「まっ、間違えてるしじゃないでしょ――っ!! 何で私の部屋に宗近くんがいるのよっ! 幽霊でもやっていい事と悪い事ぐらい分かるでしょ――っっ!!」
「うっ……だって……」
「だってじゃなーいっ!!」
「……ご、ごめんなさい」
 本気で怒っているのが分かったのか、宗近くんは小声で謝り、シュンと肩を落とす。


 ぐっ……そんな親に叱られた子供みたいな顔されると、ちょっと可哀そうに思っちゃうじゃないっ。
「こ、今度部屋に入ってきたら許さないからねっ!」
 少し声を落としながら怒ると、宗近くんはコクリと頷いた。
 もうっ! 私の方が年下なのに、彼を見ていると弟が出来たような気分になってしまう。
 だけど女性の部屋に無断で入るのは弟であっても許される事ではない。
 そう、たとえ幽霊でもっ!
「分かったのなら早く出て行って! 次、勝手に入ってきたら今度こそ許さないからねっ!」
 諭すようにそう言うと、宗近くんはチラリとこちらを窺うような仕草をする。
 その表情は何か困ってるような、悩んでいるような……そんな感情が見て取れた。
 そして少し間を置いてから、モゴモゴと独り言のように話し始めた。
「いや……その……俺もユミちゃんの部屋の中に入る気はなかったんだよ?」
「でも……」
 その先の言葉を飲み込み、彼は眉を顰める。


 その表情は硬く、何かあったのだろうという事は察した。


 もしかして、栄慶さんの身に何か?


「宗近くん?」
 私はゴクリと喉を鳴らし、先を促すように彼の名前を呼ぶと


「あれ……早く何とかした方がいいと思って」


 と、彼は私から顔を逸らし、それとは逆方向にあるの台所を指差し答えた。


(あれ?)


 意味が分からないまま指差す方へと視線を移動させた、その瞬間




「ひゃああああああああああああっっっ!!!」




 視界に入ってきたありえない光景に




 私は高々と悲鳴を上げた。
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