憑かれて恋

香前宇里

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第四章

親友 其の十五

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「とりあえず癒見の魂を先に戻すぞ」
 照れ隠しなのか、栄慶さんは早口でそう言うと、横たわる私の元へと移動する。
 促されるように私も近づき、上から覗きこむように自分を見下ろした。
 ピクリとも動かない私の身体……。
(も、戻れる……よね……)
 不安を覚える私に、彼は「大丈夫だ」と安心させるように笑みを浮かべた。
 栄慶さんがいてくれるから大丈夫。
 私は恐る恐る自分の身体と合わせるように横たわり、それを確認してから彼は両手首に巻きつけていた数珠を外した。
 一瞬スッ……と身体が沈む感覚がしたかと思うと、私はパチリと目を開け、身体をゆっくりと起こした。
「言った通りだろう?」
 栄慶さんはそう言うと、私の頭を優しく撫でてくれた。
「も、もぅっ、子ども扱いしないで下さいよっ」
 思わず赤面してしまった私は、誤魔化すように口を尖らせる。
「だったら大人扱いしてやろうか?」
 栄慶さんは手を頬に移動させ、親指で私の口を拭った。
「――~っ」





「まーた俺のこと忘れてるー」
「わっ、忘れてない忘れてないっ!!」
「お前はもう少し待ってろ」
「はーい」
 栄慶さんは私から手を離すと、一度部屋を出ていき、箱のようなものを手にしながら戻ってきた。
「私が普段手紙を書く時に使っているものだ。好きに使えばいい」
「分かった」
 彼は漆塗うるしぬりの文箱ふばこを座卓に置くと、準備ができたとばかりに正座をしながら宗近くんを仰ぎ見る。
「じゃあ……身体借りるな」
 足を浮かせながら待っていた宗近くんは、栄慶さんの前に降り立つと両手を伸ばし、ゆっくりと自分の顔を彼に近づけていった……
 ――が、なぜかその途中で固まったように動きを止めてしまった。


「どうしたの?」
 少し離れた場所に座って見ていた私は、指先だけを動かしながら躊躇する宗近くんを不思議に思い、声を掛けた。
「いや……その……さ……、今までは相手が俺に気づいてない状態だったから入りやすかったんだけど……、こうやって 気づいてる相手に近づくのってなんだか……ね」
「キスするみたい?」
「言わないでよっ!!」
「癒見……」
 微かに頬を赤らめた宗近くんに対し、栄慶さんは眉をひそめながら顔を背ける。
 その姿を見て私は慌てて彼に伝える。


「あ、私は大丈夫だから気にしないでっ! 早く栄慶さんに入れさせてもらって!!」


「その言い方も危ないからっ!!」


「癒見……わざとだろ」


「そもそもエージが俺のこと意識するから駄目なんだよっ」


「誰がするか」


「じゃあ目ぇつぶってよ」


「断る」



 しばらくそんな二人の攻防が繰り広げられてる中……



(背後からいけばいいのに)



 と、一人冷静に突っ込んでいた私だったが、二人の掛け合いが面白……微笑ましくて何も言わずに温かく見守り続けた。





 ――結局、痺れを切らした宗近くんが「あー、もうっ!!」と叫びながら栄慶さんの身体に飛び込む事で事態は収束した。




 ――――――





 ――――――





「――……宗近……くん?」
 私は確認するように彼の名前を呼んでみる。
「俺……今、エージの身体に入ってんだよね。なんか凄く変な感じ」
「ユミちゃん見て見て、どう、どう?」
 宗近くんは栄慶さんの身体を使い、腰や頭に手を当てながらポーズを取って私に見せつけてくる。


(なんか……)



(栄慶さんが……)



(チャラい)


 中身が変わるとこうもイメージが変わるのかと、私は呆気にとられながらしばらくその様子を眺めていると、宗近くんは急に何かを思いついたのか、嬉しそうに私に近づいてくる。
「ねぇねぇユミちゃんユミちゃん」
「ん? どうかした?」
 そして彼は私の両手首を掴んだかと思うと……



「気持ちいい事しよっか?」



 そのまま私を押し倒した。
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