憑かれて恋

香前宇里

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第四章

親友 其の十三

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「――っ、父さん! 父さん俺だ、宗近だよっ」
 正近くんがお父さんに向かって叫ぶ。

 ……違う。中に入ってるのは宗近くんだ。

「正近……急に何を言い出すんだ」
「違う、身体は正近だけど中身は俺! 宗近なんだよっ」
「あ! ほらさっき言ってた怪我の話っ!あれって俺があのでっかい神社の大木に登ろうとして落ちた時の話だろっ」
「ああ、宗近から聞いていたのか。お前たち、仲が良かったからなぁ……」
「違うってっ、だから俺が宗近なんだってっ!! 俺、父さんことずっと誤解してたけどっ、今は俺のこと思ってくれてたんだって分かって嬉しかったんだっ、だから!」
「そうか、ありがとうな正近。宗近のフリをして慰めてくれようとしてくれてるんだな」
「でもな、誤解させたままあいつを母親の元に逝かせてしまった。私は最低な父親だ」
「違う……違うっ! そうじゃない……そうじゃないんだ……っ」
「あっ、宗近くんっ!!」
 正近くんの身体から抜け出した宗近くんは、そのまま外へと飛び出して行ってしまった。
 部屋に残された二人の姿を眺めながら、私はどうしたら気持ちを伝える事ができるのか考えていた。


 きっとお父さんは幽霊とか信じないタイプの人。だから今のお父さんに何を言っても信じてもらえない。

 でもこのままだと三人はわだかまりを残したまま離れ離れになって、もう気持ちを伝える事もできなくなってしまう。


(何か方法はないの……なにか……)


 私は口に手をあてながら家の中を移動する。
 部屋から部屋へと壁をすり抜けながら考えていると、ベッドと机が左右にセットで置かれている部屋へと辿り着いた。
(ここって……宗近くんと正近くんの部屋?)
 一方の机の上は綺麗に片づけられており、もう一方は雑誌や漫画などが散らばっていた。
(あーこれ、宗近くんの机だろうなぁ)
 悪いと思いつつ近くで確認してみると、雑誌の間から履歴書らしき用紙が半分出ており、その氏名の欄を見てみると、お世辞にも上手いとは言えない宗近くんの名前が書き込まれていた。
(宗近くん、就職活動しようと思ってたのかな)
 彼は彼なりに考えてたのに、事故で亡くなって……。
 何も伝える事もできないまま……。


(伝えること……伝える手段……)


「――!」
 そっかっ、この方法ならっ!
 私はすぐに宗近くんの元へと向かう。
 彼は家を囲む塀の上に座りながら夜空を見ていたが、すぐに私に気づき笑顔を向けた。
「あー…ごめんね、変なとこ見せちゃって。俺もう死んでんのに、何しようとしてんだか」
「諦めちゃだめだよっ! まだ方法はあるからっ‼」
「え?」
「とりあえず斎堂寺へ戻ろうっ!!」
「え、ちょっと……ユミちゃん!?」




 私は宗近くんの腕を引っ張って、栄慶さんの元へと戻った。
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