63 / 109
第三章
母と子 其の二十一
しおりを挟む
その後、旅館に戻った私たちは、心配そうな表情をして待つ女将さんに出迎えられた。
そしてロビーに移動した私たちは、事の顛末を彼女に伝えた。
「そうですか……。一緒に……あの世へ逝くことができたんですね」
「本当はもっと早くにお願いするべきでした。でも……成仏してほしいと思う反面、幽霊でもいいから……もう少し娘と一緒に居たいと……そう思ってしまったんです」
女将さんは涙ぐみながら、旅館に出る幽霊の正体が娘ではないかと薄々感じていた事を私達に話してくれた。
片づけようとしていた物が気付くと元の場所に戻っていたり、朝になると玄関に新しい花が生けてあったり……。
きっと大浴場での事も彼女がしてくれた事なのだろう。
彼女は彼女なりに、最後の親孝行をしていたのかもしれない。
「あの子達……向こうで笑ってるかしら……」
「きっと、笑顔で女将さんの事、見てくれてますよ」
そう言うと、女将さんは人差し指の背で涙を拭いながら、そうね……と微笑んだ。
「ん~っ、今日はよく眠れそう!」
解決したという安堵と共に、昼間の遊び疲れもあってか、身体がすぐにでも休みたがってるのが分かる。
私は背伸びをしてから部屋のドアを開け、中へと足を踏み入れる。
そして思い出した。
二組の並べられた布団を。
(わ、忘れてたぁぁぁぁっ)
「だから入口で止まるんじゃない」
立ちすくむ私を急かすように、栄慶さんは私を部屋の中へと促す。
慌てて私は振り返り、部屋に入ってくる彼に声を掛けた。
「え、栄慶さん、お風呂っ! お風呂まだでしたよね!?」
「私ならとっくに入ったぞ?」
ぐっ、いつの間に!!
慌てる私とは違い、彼は表情を崩すことなく部屋に入ると、私に背を向けた状態で袈裟を外し、法衣を脱ぎ始めた。
(ひゃあっ)
突如始まったストリップショー……
じゃない、彼の着替えに、思わず私の目は釘付けになってしまう。
昼間水着姿の彼をたくさん見たはずなのに……。
「――っ」
背を向けたまま法衣を脱ぎ始めた栄慶さんは、白衣姿になると、シュルリと白帯を外し始める。
「――――~~~っ」
そしてゆっくりと白衣をはだけさせ、彼の引き締まった背中が露わになってく。
「――――~~~~~~っっっ!!」
その姿が……色っぽくて……艶っぽくて……
(ひぁあああああああああああっっ!!)
その光景に耐えられなくなった私は、白衣が足元に落ちると同時に窓際の布団へと潜り込んだ。
カチ
カチ
カチ……
時計の音がやけにうるさく感じる。
(ね、眠れない……)
身体は凄く疲れてるはずなのに……頭が冴えて眠れない。
栄慶さんに背を向け、布団の隅で身体を丸めるようにして寝ている私は、彼が寝入ったかどうかも確認できない。
(きっと……疲れてもう眠ってる……はずだよね?)
べ、別に様子が気になって眠れないわけじゃないからっ
眠れないのは……怖い目にあったからなんだからっ!
そ、そうよっ、だから眠るのが怖いだけっ!!
(怖いだけ……怖いだけ……)
何度も自分に言い聞かせる。
――――
――――
――――
「眠れないのか?」
「――!?」
急に聞こえた低い声に、ビクリと身体が反応する。
気づかないフリをしようとしたが、さすがに今の動きでバレてしまっただろう。
「怖くて眠れないんじゃないか?」
「そ、そそんな事ないですよ!!」
「声が震えてるぞ?」
からかうような彼の声。
「本当は怖いんじゃないのか? 何なら、こっちに入ればいい」
そう言って布団をめくる音がした。
「んなっ!? な、何言ってるんですかっ! 入りませんよ!!」
私は咄嗟に声を上げ、ギュッと自分の布団を掴む。
「そうか……」
彼は諦めたのか、再び布団を戻すような音を立てる。
私はホッとしたような、残念なような……そんな感情が渦巻く中、急に背筋に流れ込んだ冷たい空気でブルッと身体を振るわせた。
それは一瞬で。
再び包み込むような温もりが戻る。
温もりが……
温も……り……?
「――――っ!?!?」
「え、ええええ栄慶さん!?」
「ん? お前が来ないから来てやったんだろう?」
「――~~~~っっ」
背を向けている私の左腕に、彼の左腕が乗っかっている。
これって……
(だ、抱きしめ……!?)
「ほら、明日早いんだ。早く寝ろ」
(ね……っ)
(眠れるわけないでしょ――――っ)
そしてロビーに移動した私たちは、事の顛末を彼女に伝えた。
「そうですか……。一緒に……あの世へ逝くことができたんですね」
「本当はもっと早くにお願いするべきでした。でも……成仏してほしいと思う反面、幽霊でもいいから……もう少し娘と一緒に居たいと……そう思ってしまったんです」
女将さんは涙ぐみながら、旅館に出る幽霊の正体が娘ではないかと薄々感じていた事を私達に話してくれた。
片づけようとしていた物が気付くと元の場所に戻っていたり、朝になると玄関に新しい花が生けてあったり……。
きっと大浴場での事も彼女がしてくれた事なのだろう。
彼女は彼女なりに、最後の親孝行をしていたのかもしれない。
「あの子達……向こうで笑ってるかしら……」
「きっと、笑顔で女将さんの事、見てくれてますよ」
そう言うと、女将さんは人差し指の背で涙を拭いながら、そうね……と微笑んだ。
「ん~っ、今日はよく眠れそう!」
解決したという安堵と共に、昼間の遊び疲れもあってか、身体がすぐにでも休みたがってるのが分かる。
私は背伸びをしてから部屋のドアを開け、中へと足を踏み入れる。
そして思い出した。
二組の並べられた布団を。
(わ、忘れてたぁぁぁぁっ)
「だから入口で止まるんじゃない」
立ちすくむ私を急かすように、栄慶さんは私を部屋の中へと促す。
慌てて私は振り返り、部屋に入ってくる彼に声を掛けた。
「え、栄慶さん、お風呂っ! お風呂まだでしたよね!?」
「私ならとっくに入ったぞ?」
ぐっ、いつの間に!!
慌てる私とは違い、彼は表情を崩すことなく部屋に入ると、私に背を向けた状態で袈裟を外し、法衣を脱ぎ始めた。
(ひゃあっ)
突如始まったストリップショー……
じゃない、彼の着替えに、思わず私の目は釘付けになってしまう。
昼間水着姿の彼をたくさん見たはずなのに……。
「――っ」
背を向けたまま法衣を脱ぎ始めた栄慶さんは、白衣姿になると、シュルリと白帯を外し始める。
「――――~~~っ」
そしてゆっくりと白衣をはだけさせ、彼の引き締まった背中が露わになってく。
「――――~~~~~~っっっ!!」
その姿が……色っぽくて……艶っぽくて……
(ひぁあああああああああああっっ!!)
その光景に耐えられなくなった私は、白衣が足元に落ちると同時に窓際の布団へと潜り込んだ。
カチ
カチ
カチ……
時計の音がやけにうるさく感じる。
(ね、眠れない……)
身体は凄く疲れてるはずなのに……頭が冴えて眠れない。
栄慶さんに背を向け、布団の隅で身体を丸めるようにして寝ている私は、彼が寝入ったかどうかも確認できない。
(きっと……疲れてもう眠ってる……はずだよね?)
べ、別に様子が気になって眠れないわけじゃないからっ
眠れないのは……怖い目にあったからなんだからっ!
そ、そうよっ、だから眠るのが怖いだけっ!!
(怖いだけ……怖いだけ……)
何度も自分に言い聞かせる。
――――
――――
――――
「眠れないのか?」
「――!?」
急に聞こえた低い声に、ビクリと身体が反応する。
気づかないフリをしようとしたが、さすがに今の動きでバレてしまっただろう。
「怖くて眠れないんじゃないか?」
「そ、そそんな事ないですよ!!」
「声が震えてるぞ?」
からかうような彼の声。
「本当は怖いんじゃないのか? 何なら、こっちに入ればいい」
そう言って布団をめくる音がした。
「んなっ!? な、何言ってるんですかっ! 入りませんよ!!」
私は咄嗟に声を上げ、ギュッと自分の布団を掴む。
「そうか……」
彼は諦めたのか、再び布団を戻すような音を立てる。
私はホッとしたような、残念なような……そんな感情が渦巻く中、急に背筋に流れ込んだ冷たい空気でブルッと身体を振るわせた。
それは一瞬で。
再び包み込むような温もりが戻る。
温もりが……
温も……り……?
「――――っ!?!?」
「え、ええええ栄慶さん!?」
「ん? お前が来ないから来てやったんだろう?」
「――~~~~っっ」
背を向けている私の左腕に、彼の左腕が乗っかっている。
これって……
(だ、抱きしめ……!?)
「ほら、明日早いんだ。早く寝ろ」
(ね……っ)
(眠れるわけないでしょ――――っ)
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
【完結】孤独な少年の心を癒した神社のあやかし達
フェア
キャラ文芸
小学校でいじめに遭って不登校になったショウが、中学入学後に両親が交通事故に遭ったことをきっかけに山奥の神社に預けられる。心優しい神主のタカヒロと奇妙奇天烈な妖怪達との交流で少しずつ心の傷を癒やしていく、ハートフルな物語。
*丁寧に描きすぎて、なかなか神社にたどり着いてないです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる