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第三章
母と子 其の九
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(栄慶……さん……)
走馬灯のように彼の姿が脳裏を過った。
意地悪な栄慶さん……優しい栄慶さん……。
沢山の彼の姿が脳裏を駆け巡っては消えていく……。
最後に私に向かって手を伸ばし、助けてくれようとする彼の姿を思い浮かべながら、ゴボッと口の中から息を吐き出す。
(もう……駄目……)
全身の力が抜け、意識が遠退いていく。
そしてゆっくりと目を閉じ意識を手放そうとした次の瞬間、ふいに伸ばしていた右手首に強い力が加わった。
(――――!?)
ハッと目を開けると、すぐ目の前に会いたかった彼の姿が映る。
そして視界が遮られたかと思うと、噛むように強く口づけされた。
(んぅっ……)
空気が送り込まれ、途切れかけた意識を取り戻すと、彼は一瞬微笑み私を上へと連れ戻す。
「っぷはっ、ごほっ、げほっ……」
海面から顔を出した瞬間、一気に器官に空気が流れ込み、激しく咽る。
「全く、世話の焼けるやつだな」
そしてすぐ側で、飽きれたような彼の低い声が聞こえた。
「栄……慶……さん……?」
(助けに来てくれたの?)
本物だよね? と、恐る恐る身体に手を伸ばし、彼の体温を感じると、感情が一気に溢れ出した。
「栄慶さんっ! 栄慶さんっ!!」
彼の背中に両手を回し、確かめるように何度も名前を呼んだ。
栄慶さんはそんな私の首筋に唇を寄せた後、もう大丈夫だと耳元で優しくささやいた。
彼は片腕で私を抱きとめながら岸へと移動し、岩場に上がる。
私は足がつくと同時にその場にヘタリと座り込んだ。
「ここは遊泳禁止だ。来る途中、立て看板があっただろう?」
「え? 看板……?」
(……気が付かなかった)
だからこっちに泳ぎに来る人いなかったんだ。
「この場所は流れがきつくて慣れた者でも気を付けないと溺れてしまう」
「……まぁ、それ以外で溺れる事もあるだろうが……」
(それって……)
「栄慶さん、私以外に女の子を見かけませんでしたか……?」
急に消えた中学生くらいの女の子。
今思えば、あの子は波に揺られてなかった。
『立っていた』
と言う方が正しいのではないだろうか。
「……お前以外、近くに〝生きた気配〟のする者は居なかったが?」
神妙な面持ちで答える彼の姿を見て、ゾッと背筋が凍りつく。
(もし、栄慶さんに助けてもらわなかったら今頃……)
思い出した途端、再び恐怖が押し寄せ、私は祈るように握った両手を口に当てながら身体を震わせる。
そんな私の両肩を、栄慶さんはそっと掴む。
左右から伝わる彼の温もり……、何も言わなくても彼の優しさが心に沁みていくようだった。
そして私の鼓動は……
別の意味で加速し始めた。
走馬灯のように彼の姿が脳裏を過った。
意地悪な栄慶さん……優しい栄慶さん……。
沢山の彼の姿が脳裏を駆け巡っては消えていく……。
最後に私に向かって手を伸ばし、助けてくれようとする彼の姿を思い浮かべながら、ゴボッと口の中から息を吐き出す。
(もう……駄目……)
全身の力が抜け、意識が遠退いていく。
そしてゆっくりと目を閉じ意識を手放そうとした次の瞬間、ふいに伸ばしていた右手首に強い力が加わった。
(――――!?)
ハッと目を開けると、すぐ目の前に会いたかった彼の姿が映る。
そして視界が遮られたかと思うと、噛むように強く口づけされた。
(んぅっ……)
空気が送り込まれ、途切れかけた意識を取り戻すと、彼は一瞬微笑み私を上へと連れ戻す。
「っぷはっ、ごほっ、げほっ……」
海面から顔を出した瞬間、一気に器官に空気が流れ込み、激しく咽る。
「全く、世話の焼けるやつだな」
そしてすぐ側で、飽きれたような彼の低い声が聞こえた。
「栄……慶……さん……?」
(助けに来てくれたの?)
本物だよね? と、恐る恐る身体に手を伸ばし、彼の体温を感じると、感情が一気に溢れ出した。
「栄慶さんっ! 栄慶さんっ!!」
彼の背中に両手を回し、確かめるように何度も名前を呼んだ。
栄慶さんはそんな私の首筋に唇を寄せた後、もう大丈夫だと耳元で優しくささやいた。
彼は片腕で私を抱きとめながら岸へと移動し、岩場に上がる。
私は足がつくと同時にその場にヘタリと座り込んだ。
「ここは遊泳禁止だ。来る途中、立て看板があっただろう?」
「え? 看板……?」
(……気が付かなかった)
だからこっちに泳ぎに来る人いなかったんだ。
「この場所は流れがきつくて慣れた者でも気を付けないと溺れてしまう」
「……まぁ、それ以外で溺れる事もあるだろうが……」
(それって……)
「栄慶さん、私以外に女の子を見かけませんでしたか……?」
急に消えた中学生くらいの女の子。
今思えば、あの子は波に揺られてなかった。
『立っていた』
と言う方が正しいのではないだろうか。
「……お前以外、近くに〝生きた気配〟のする者は居なかったが?」
神妙な面持ちで答える彼の姿を見て、ゾッと背筋が凍りつく。
(もし、栄慶さんに助けてもらわなかったら今頃……)
思い出した途端、再び恐怖が押し寄せ、私は祈るように握った両手を口に当てながら身体を震わせる。
そんな私の両肩を、栄慶さんはそっと掴む。
左右から伝わる彼の温もり……、何も言わなくても彼の優しさが心に沁みていくようだった。
そして私の鼓動は……
別の意味で加速し始めた。
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