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第二章
Curry du père 其の六
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モヤモヤした状態のまま数日経った、ある日の午後。
「あれ? この画像……」
今、パソコンのディスプレイに表示しているのはオカルト掲示板。
全国のオカルトファンが集めてきた情報が地方別に書き込まれている。
何か雑誌のネタになるものはないか調べるよう言われ、とりあえず教えてもらった掲示板でそれを見つけた。
店の外観をアップで撮った、一枚の写真。
そこには窓際の席に座る栄慶さんらしき後ろ姿と、向かい合って座るモザイク加工された私らしき人物が写っていた。
らしき……と言うより、私達。サン・フイユに行った時のものだ。
店の名前は消され、書き込みは伏せ字を使って隠しているように見えるが、他の書き込みを見れば名前や場所が特定できてしまうものだった。
【なんだよ霊写ってねーじゃん】
【何で昼w夜撮れよww】
【でもさ、坊さんが来るって事はやっぱ出るんじゃね?】
【除霊すんのかよ、ひでー息子(笑)】
(何よこれ……霊とか、どういう事?)
他に同様の書き込みはないか、スクロールしながら確認していく。
――――
――――
――――
「気になるの?」
「ひゃはっ!!」
急に耳元で囁かれ、思わず変な声が出てしまった。
「編集長~っ」
耳に手を当てながら、ニコニコと笑顔を向ける彼を睨みつける。
「あ、ごめん感じちゃった?」
「感じてませんっっ」
もうっ! この人といい、栄慶さんといい、なんで耳元で喋ろうとするのよ!!
「ごめんごめん、真剣に見てたからつい、ね」
「それで? 室世君が見てるのって駅近くにある洋食屋かな?」
「知ってるんですか?」
「手作りカレーが人気の店だよね、何度か行ったことあるけどね……最近は幽霊が出るって噂になってるみたいだね」
「幽霊、ですか?」
「数か月前にオーナーさんが亡くなってね、今はその息子さんが後を継いだようなんだけど、その頃から〝オーナーの幽霊を視た〟って人が増えてるらしいよ」
オーナーの!?
「まぁ、単なる見間違いじゃないかと思うけどね。こういう掲示板に書かれるとやっかいだよ、すぐに噂が広まって見に行く人が増えちゃうから」
(じゃあ、あの日見た人達って、その噂を確認しに来た人って事?)
それにしたって……そんな噂が広まってしまうと、客足が遠のいてしまうんじゃないだろうか。
もし彼がこの事を知ったら……。
再度掲示板を確認すると、彼を中傷するような書き込みも見つかった。
【親父、息子に継がれるのが嫌で成仏できずにいるんじゃねーか?】
【かもなー。だいぶ嫌ってたって話】
【家出してホストやってたらしいぜ】
【えー、俺ムショに入ってたって聞いたけど?w】
【マジで? 最悪じゃんww】
(何よこれ、酷いじゃないっ!!)
沸々と怒りが込み上げ、否定コメントを打とうとキーボードに両手を置くと、編集長は私の手を強く握り、止めに入る。
「だめだよ、それじゃ火に油を注ぐだけだから」
「でも亡くなったオーナーはこんな事思ってるはずありませんっ!! 息子さんだって掲示板に書いてあるような人じゃなかったです!!」
思わず怒りの矛先を編集長に向けてしまう。
彼はそんな私をしばらく見つめていたかと思うと、考え込むような素振りを見せてから手を離し、微笑んだ。
「だったら取材して記事にしてみる?」
「この掲示板に書き込んでる子達って、結構ウチの雑誌を読んでるみたいだし、少しは鎮静化できるかもしれないよ?」
(記事に……?)
幽霊は見間違いだって……、息子さんはそんな人じゃないって分かれば……
「でも急いだ方がいい、校了まで10日切ってる。来月号に載せるなら……そうだね、待てるのはあと3日だよ」
あと3日……
「それと、本人の了承を得る事も忘れないようにね」
「分かりました! さっそく取材に行ってきます!!」
私は鞄を掴み、笑顔で見送る編集長に頭を下げてから、サン・フイユへと向かった。
「あれ? この画像……」
今、パソコンのディスプレイに表示しているのはオカルト掲示板。
全国のオカルトファンが集めてきた情報が地方別に書き込まれている。
何か雑誌のネタになるものはないか調べるよう言われ、とりあえず教えてもらった掲示板でそれを見つけた。
店の外観をアップで撮った、一枚の写真。
そこには窓際の席に座る栄慶さんらしき後ろ姿と、向かい合って座るモザイク加工された私らしき人物が写っていた。
らしき……と言うより、私達。サン・フイユに行った時のものだ。
店の名前は消され、書き込みは伏せ字を使って隠しているように見えるが、他の書き込みを見れば名前や場所が特定できてしまうものだった。
【なんだよ霊写ってねーじゃん】
【何で昼w夜撮れよww】
【でもさ、坊さんが来るって事はやっぱ出るんじゃね?】
【除霊すんのかよ、ひでー息子(笑)】
(何よこれ……霊とか、どういう事?)
他に同様の書き込みはないか、スクロールしながら確認していく。
――――
――――
――――
「気になるの?」
「ひゃはっ!!」
急に耳元で囁かれ、思わず変な声が出てしまった。
「編集長~っ」
耳に手を当てながら、ニコニコと笑顔を向ける彼を睨みつける。
「あ、ごめん感じちゃった?」
「感じてませんっっ」
もうっ! この人といい、栄慶さんといい、なんで耳元で喋ろうとするのよ!!
「ごめんごめん、真剣に見てたからつい、ね」
「それで? 室世君が見てるのって駅近くにある洋食屋かな?」
「知ってるんですか?」
「手作りカレーが人気の店だよね、何度か行ったことあるけどね……最近は幽霊が出るって噂になってるみたいだね」
「幽霊、ですか?」
「数か月前にオーナーさんが亡くなってね、今はその息子さんが後を継いだようなんだけど、その頃から〝オーナーの幽霊を視た〟って人が増えてるらしいよ」
オーナーの!?
「まぁ、単なる見間違いじゃないかと思うけどね。こういう掲示板に書かれるとやっかいだよ、すぐに噂が広まって見に行く人が増えちゃうから」
(じゃあ、あの日見た人達って、その噂を確認しに来た人って事?)
それにしたって……そんな噂が広まってしまうと、客足が遠のいてしまうんじゃないだろうか。
もし彼がこの事を知ったら……。
再度掲示板を確認すると、彼を中傷するような書き込みも見つかった。
【親父、息子に継がれるのが嫌で成仏できずにいるんじゃねーか?】
【かもなー。だいぶ嫌ってたって話】
【家出してホストやってたらしいぜ】
【えー、俺ムショに入ってたって聞いたけど?w】
【マジで? 最悪じゃんww】
(何よこれ、酷いじゃないっ!!)
沸々と怒りが込み上げ、否定コメントを打とうとキーボードに両手を置くと、編集長は私の手を強く握り、止めに入る。
「だめだよ、それじゃ火に油を注ぐだけだから」
「でも亡くなったオーナーはこんな事思ってるはずありませんっ!! 息子さんだって掲示板に書いてあるような人じゃなかったです!!」
思わず怒りの矛先を編集長に向けてしまう。
彼はそんな私をしばらく見つめていたかと思うと、考え込むような素振りを見せてから手を離し、微笑んだ。
「だったら取材して記事にしてみる?」
「この掲示板に書き込んでる子達って、結構ウチの雑誌を読んでるみたいだし、少しは鎮静化できるかもしれないよ?」
(記事に……?)
幽霊は見間違いだって……、息子さんはそんな人じゃないって分かれば……
「でも急いだ方がいい、校了まで10日切ってる。来月号に載せるなら……そうだね、待てるのはあと3日だよ」
あと3日……
「それと、本人の了承を得る事も忘れないようにね」
「分かりました! さっそく取材に行ってきます!!」
私は鞄を掴み、笑顔で見送る編集長に頭を下げてから、サン・フイユへと向かった。
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