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第二章
Curry du père 其の三
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悔しい! と私は彼を睨みつけてみるが、涼しげな表情で返されてしまう。
「まぁそう怒るな、おあいこだ」
「それより……この辺で美味い店はないのか? 昼食を取らずに帰ってきたんで腹が減ってるんだ」
「え? あ、あります!」
私は思わず手を挙げ、嬉々として答える
「ちょうど私も遅めのランチしようかと思ってたんです。良かったら案内しますよ?」
「そうか、ならお言葉に甘えようか」
お前が選ぶ店なら間違いないだろうと言う彼の一言で、私の機嫌はすぐに直ってしまう。
(んふふ~)
我ながら単純だなと思いつつ、栄慶さんとそのお店へと向かった。
◇◇◇◇
飲食店が並ぶ通りからさらに奥まった場所にある【洋食亭サン・フイユ】
一軒家の一階を改装して作られたこのお店は、60代のご夫婦が営む洋食屋さん。
「そこのカレーが凄く美味しくて、学生の頃よく通ってたんです」
いつも一人カウンターで食べる私に、奥さんは楽しい話を沢山してくれて、オーナーも頼んでいないのにデザートを出してくれたりと、とても可愛がってくれた。
嫌なことがあると、よくここに来ていた。
オーナーは無愛想だけど、私の話を嫌な顔ひとつせず頷きながら聞いてくれて、奥さんはいつも笑顔で励ましてくれた。
就職してからは忙しくて来ることが出来なかったけど、私の事……覚えていてくれてるかな?
(栄慶さんを連れて来たらびっくりしちゃうかもっ)
ふふっ、と笑みをこぼしながら歩いていると、見覚えのある古いレンガ調の建物が見えてきた。
昔と変わらないその佇まいに懐かしさを覚えながら、カランカランと音を鳴らし中へと入る。
「いらっしゃいませ」
「え?」
出迎えてくれたのは一人の若い男性。歳は栄慶さんと同じくらいだろうか。
「お二人様ですね、お席へご案内致します」
「は、はいっ」
戸惑いを感じながら、案内された窓際のテーブル席に座る。
男性がカウンターの中へ入ったのを確認してから店内を見渡すが……オーナーも奥さんも見当たらない。
お店の名前も、中の内装も昔と変わらないのに……
「どうした?」
「あ……いえ……」
「息子なんじゃないか?」
私の疑問を栄慶さんが代わりに答えてくれる。
そうかもしれないけど……何だろう、胸がザワザワする。
私は水とメニューを持ってきた彼に聞いてみる事にした。
「あの……オーナーと奥さんは……」
おずおずと聞いた私に、彼は「ああ……」と顔を少し曇らせて答えた。
「母は、1年前に病気で……。父も……半年前に後を追うように亡くなったんです」
(え……?)
一瞬思考が停止する。
嘘でしょ……?
でも彼の表情はそれが事実だと語っており、しばらく呆然とする。
二人とも亡くなっていたなんて……。
「――っ」
胸に後悔の念が押し寄せる。
忙しくても会いに行けばよかった。
私の事、娘ができたみたいだって言ってくれてたのに……。
いつか二人に恩返しができたらって思ってたのに……。
「まぁそう怒るな、おあいこだ」
「それより……この辺で美味い店はないのか? 昼食を取らずに帰ってきたんで腹が減ってるんだ」
「え? あ、あります!」
私は思わず手を挙げ、嬉々として答える
「ちょうど私も遅めのランチしようかと思ってたんです。良かったら案内しますよ?」
「そうか、ならお言葉に甘えようか」
お前が選ぶ店なら間違いないだろうと言う彼の一言で、私の機嫌はすぐに直ってしまう。
(んふふ~)
我ながら単純だなと思いつつ、栄慶さんとそのお店へと向かった。
◇◇◇◇
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「そこのカレーが凄く美味しくて、学生の頃よく通ってたんです」
いつも一人カウンターで食べる私に、奥さんは楽しい話を沢山してくれて、オーナーも頼んでいないのにデザートを出してくれたりと、とても可愛がってくれた。
嫌なことがあると、よくここに来ていた。
オーナーは無愛想だけど、私の話を嫌な顔ひとつせず頷きながら聞いてくれて、奥さんはいつも笑顔で励ましてくれた。
就職してからは忙しくて来ることが出来なかったけど、私の事……覚えていてくれてるかな?
(栄慶さんを連れて来たらびっくりしちゃうかもっ)
ふふっ、と笑みをこぼしながら歩いていると、見覚えのある古いレンガ調の建物が見えてきた。
昔と変わらないその佇まいに懐かしさを覚えながら、カランカランと音を鳴らし中へと入る。
「いらっしゃいませ」
「え?」
出迎えてくれたのは一人の若い男性。歳は栄慶さんと同じくらいだろうか。
「お二人様ですね、お席へご案内致します」
「は、はいっ」
戸惑いを感じながら、案内された窓際のテーブル席に座る。
男性がカウンターの中へ入ったのを確認してから店内を見渡すが……オーナーも奥さんも見当たらない。
お店の名前も、中の内装も昔と変わらないのに……
「どうした?」
「あ……いえ……」
「息子なんじゃないか?」
私の疑問を栄慶さんが代わりに答えてくれる。
そうかもしれないけど……何だろう、胸がザワザワする。
私は水とメニューを持ってきた彼に聞いてみる事にした。
「あの……オーナーと奥さんは……」
おずおずと聞いた私に、彼は「ああ……」と顔を少し曇らせて答えた。
「母は、1年前に病気で……。父も……半年前に後を追うように亡くなったんです」
(え……?)
一瞬思考が停止する。
嘘でしょ……?
でも彼の表情はそれが事実だと語っており、しばらく呆然とする。
二人とも亡くなっていたなんて……。
「――っ」
胸に後悔の念が押し寄せる。
忙しくても会いに行けばよかった。
私の事、娘ができたみたいだって言ってくれてたのに……。
いつか二人に恩返しができたらって思ってたのに……。
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