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第一章
インテリ住職 其の十七
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…………。
…………。
…………。
……………?
……………???
こ、来ない?
すぐ間近で気配はするのに……何もして来ない。
しばらくその状態のまま固まっていると、急に両腕を拘束していた手が離れ、体に掛かっていた重みが消える。
「やっぱりやめた。帰るぞ」
「――ふへっ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げバッと上半身を起こすと、袈裟を直す栄慶さんの後ろ姿が見えた。
(な…ななな、何で――!?)
状況が飲み込めず……ただ唖然としていると、彼はニヤリと口角を上げながら振り返る。
「視 姦 プ レ イ は好きじゃないんでな」
「え……?」
「しか……プレイ???」
次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは……頬を赤らめ、視線を泳がせながら立ち尽くす俊介君と……
夕闇の中、こちらを凝視する……無数の霊達の顔だった。
「ひぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!!」
「うるさいぞ」
近所迷惑だと言う彼の言葉を最後に、私は意識を手放した。
◇◇◇◇
のちに近隣を取材して分かった事だけど、ここ最近あの廃病院は不良の溜まり場になっていたらしい。
少年の言っていた 『騒いでた人達』とは、恐らく彼らの事だろう。通りでベッドに埃が積もってなかったわけだわ。
このまま放っておくわけにはいかないと、あの敷地の管理会社に鉄門や扉が壊れている事、不良の溜まり場になっている事を伝えると、早急に対処するとの事だった。
そしてそのあと編集長にあの日体験した事、あの写真を載せると場所が特定されてしまうので使いたくない事を伝え、辞退を申し出たが……
「だったら君の体験談として、読者に伝えたい事を書けばいいよ」
と言ってくれて、何とか記事を完成させる事ができた。
見出しは
『とある女性編集者の不可思議体験』
記事の最後には、むやみに心霊スポットへ行ってはいけない事、眠っている霊達を呼び起こす行為は危険だと言う事を付け加えておいた。
さすがにオカルト雑誌でそれを書くのは……と思ったが、編集長は意外にもOKを出してくれた。そして私は息つく間もなく、部屋の片隅に置かれた段ボールの確認作業へと入る。
今回執筆に時間を取られてしまい、編集部に届いた荷物が溜まりに溜まってしまっていた。
急いで宛先を確認しながら、雑誌宛ての物と個人宛ての物とを仕分けていく。
「……ん?」
これ…私宛の郵便物だ…。
定形サイズで送られてきた白い封筒の表書きには、整った綺麗な筆文字で
〝高羽出版ガイスト編集部 心霊写真係 室世癒見様〟
と雑誌に載せている読者の投稿先と、私のフルネームが書いてあった。
高羽出版に入社してまだ一ヶ月ちょっと……そもそも雑誌に私の名前が載ってるはずもないのになぜ?
疑問に思いながら裏に書かれた送り主を確認すると……
(斎堂寺……永見栄慶!?)
な、なんで栄慶さんが投稿してきてるのよっっ
私は慌てて中を確認すると、写真が一枚だけ入っていた。
「――――――!!!?」
「栄慶さ――――んっっ!!!!」
「……何だ、騒々しい」
本堂の入口を掃除していた彼の目の前に、私は写真を突き付ける。
「な、何なんですかコレ――っ!!」
彼が送ってきた写真には、ひっくり返った蛙のような恰好をして気絶する私の姿と、それを囲むようにしてカメラ目線で映る沢山の霊達が写っていた。
「ああ、それか」
「お前のことだ、あの病院の写真は使わないだろうと思ってな。上手く撮れたんで代わりにと送っておいたんだ」
「え? それって私の為……」
「掲載されると謝礼が出るのだろう?」
…………売られた。
500円の謝礼の為に、私の恥ずかしい写真売られたよ……。
(このっ、守銭奴が――――っっ!!!!)
…………。
…………。
……………?
……………???
こ、来ない?
すぐ間近で気配はするのに……何もして来ない。
しばらくその状態のまま固まっていると、急に両腕を拘束していた手が離れ、体に掛かっていた重みが消える。
「やっぱりやめた。帰るぞ」
「――ふへっ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げバッと上半身を起こすと、袈裟を直す栄慶さんの後ろ姿が見えた。
(な…ななな、何で――!?)
状況が飲み込めず……ただ唖然としていると、彼はニヤリと口角を上げながら振り返る。
「視 姦 プ レ イ は好きじゃないんでな」
「え……?」
「しか……プレイ???」
次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは……頬を赤らめ、視線を泳がせながら立ち尽くす俊介君と……
夕闇の中、こちらを凝視する……無数の霊達の顔だった。
「ひぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!!」
「うるさいぞ」
近所迷惑だと言う彼の言葉を最後に、私は意識を手放した。
◇◇◇◇
のちに近隣を取材して分かった事だけど、ここ最近あの廃病院は不良の溜まり場になっていたらしい。
少年の言っていた 『騒いでた人達』とは、恐らく彼らの事だろう。通りでベッドに埃が積もってなかったわけだわ。
このまま放っておくわけにはいかないと、あの敷地の管理会社に鉄門や扉が壊れている事、不良の溜まり場になっている事を伝えると、早急に対処するとの事だった。
そしてそのあと編集長にあの日体験した事、あの写真を載せると場所が特定されてしまうので使いたくない事を伝え、辞退を申し出たが……
「だったら君の体験談として、読者に伝えたい事を書けばいいよ」
と言ってくれて、何とか記事を完成させる事ができた。
見出しは
『とある女性編集者の不可思議体験』
記事の最後には、むやみに心霊スポットへ行ってはいけない事、眠っている霊達を呼び起こす行為は危険だと言う事を付け加えておいた。
さすがにオカルト雑誌でそれを書くのは……と思ったが、編集長は意外にもOKを出してくれた。そして私は息つく間もなく、部屋の片隅に置かれた段ボールの確認作業へと入る。
今回執筆に時間を取られてしまい、編集部に届いた荷物が溜まりに溜まってしまっていた。
急いで宛先を確認しながら、雑誌宛ての物と個人宛ての物とを仕分けていく。
「……ん?」
これ…私宛の郵便物だ…。
定形サイズで送られてきた白い封筒の表書きには、整った綺麗な筆文字で
〝高羽出版ガイスト編集部 心霊写真係 室世癒見様〟
と雑誌に載せている読者の投稿先と、私のフルネームが書いてあった。
高羽出版に入社してまだ一ヶ月ちょっと……そもそも雑誌に私の名前が載ってるはずもないのになぜ?
疑問に思いながら裏に書かれた送り主を確認すると……
(斎堂寺……永見栄慶!?)
な、なんで栄慶さんが投稿してきてるのよっっ
私は慌てて中を確認すると、写真が一枚だけ入っていた。
「――――――!!!?」
「栄慶さ――――んっっ!!!!」
「……何だ、騒々しい」
本堂の入口を掃除していた彼の目の前に、私は写真を突き付ける。
「な、何なんですかコレ――っ!!」
彼が送ってきた写真には、ひっくり返った蛙のような恰好をして気絶する私の姿と、それを囲むようにしてカメラ目線で映る沢山の霊達が写っていた。
「ああ、それか」
「お前のことだ、あの病院の写真は使わないだろうと思ってな。上手く撮れたんで代わりにと送っておいたんだ」
「え? それって私の為……」
「掲載されると謝礼が出るのだろう?」
…………売られた。
500円の謝礼の為に、私の恥ずかしい写真売られたよ……。
(このっ、守銭奴が――――っっ!!!!)
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