自虐と許し

カルトン

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 わたしは彼を知っていた。知っていた、と言っても名前と存在とある場所における彼だけだが。
 四条優希。それが彼の名前だった。
 彼のことをクラスメイト誰も知らない。否、彼を知っていながら関わらない。彼と他のクラスメイトとの間にはマリアナマリアナ海溝より深い溝があるみたいだ。
 クラスメイト皆、彼を静かで大人しくて何もしなくて面白くなくてつまらないやつだと思っているだろう。実際、教室にいる彼はその通りだ。だが、彼は図書室に行くと違ったのだ。彼の居場所はそこみたいで、そこの彼は生き生きしているように見えた。
 彼を慕う後輩・同級生・先輩。そこにいるメンバーは全員個性的だった。図書室のいつもの指定席に座っている彼は、まわりから「委員長!」と呼ばれ楽しそうに笑っていた。
 図書室にいる間、彼は持っている知識知恵を披露していた。たびたび事件が舞い込んでくる図書室で彼は動いているのだ。彼がしているのは案をだすだけ。実質的な動きはまわりのメンバーがしていた。指令をだせば動いてもらえる信頼があるのだろう。
 漫画・小説、その他に関しても彼は知識があった。たしかテストでは毎回上位者だったはずだ。しっかり勉強しているのだろう。
 わたしは彼を少しだけ凄いと思っていた。そして、彼と少し話してみたいとも思っていた。
 二学期末試験も終わり、特別時間割りになりだした今日の昼。わたしの席の前に突然彼が立ちました。どうしたのだろう、と首を傾けます。
 彼は力を振り絞るようにして国を開いて言いました。
 「俺と…………友達になってください」
 「え?」
 わたしは驚いて傾ける首を反対にしました。
 「……え!?」
 彼が突然顔を赤くしてびっくりしたような声をあげました。
 「えーと、」
 こちらから声をかけてみます。ですが、
 「ごめん!」
 そう言って彼は逃げだしてしまいました。まわりの友達のなんだったんだろうね、という笑い声はわたしの耳には届きませんでした。かなり動揺していたからです。
 いきなり謎の彼に声をかけられたことにも、いきなり謎の彼に逃げられたことにも。
 わたしはとても不思議に思いました。だから、わたしは決心しました。
 
 
 
 
 
 
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