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死後の世界と真紅のドラゴン

心を開ける鍵の在処

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消えたら敦也はもう生き返れない。飛鳥はもう敦也と会えなくて、喋れなくなるのか。
そんなのは嫌だ!!
「だったら、わたしも『閉ざされた世界』に行きます。敦也を助けるために、敦也と生き返るために!」
飛鳥は絶望の中からそんな答えを口にしていた。
『閉ざされた世界』に行ったら敦也と会えるという想いも込められていた。
「飛鳥ちゃんは閉ざされた世界を舐めてるよ。わたしはイージーゲームは嫌いだ。飛鳥ちゃん一人が来て何が変わるって言うんだい。それに飛鳥ちゃん、閉ざされた世界に来る、即ちは死ぬってことだよ。飛鳥ちゃんには生きてて欲しい、それを敦也くんだって望んでいるはずだよ」
そうだ、『閉ざされた世界』に行くということは死ぬということ。飛鳥は自殺するということなのだ。
「それにさ、閉ざされた世界に来るには条件が必要なんだよ」
「条件?」
飛鳥はミサトから条件を聞き出そうと、前のめりになってミサトに近づく。
「そう条件……って教えないよ絶体に。飛鳥ちゃんに教えたら本当に来そうだから」
ミサトはうっかり口を滑らせないよう口を強く閉じた。
「うぅー」
唸りながら飛鳥は引き下がることしかできなかった。
「それに、飛鳥ちゃんはまだこの世界ででやらなきゃいけないことがあるんだよ」
「やらなきゃいけないこと?」
ミサトが口を開いたので、期待して聞いてみればわけが解らなかった。
「そ、飛鳥ちゃんはちゃんと敦也くんの死の真相を知るべきだと思うよ」
敦也の死の真相……。
敦也が死んだのは、日頃の矢沢先輩の暴力で敦也の身体がぼろぼろになって死んだのが真相じゃないのか。
「そ、なんでそのうざい先輩は敦也くんに暴力を振るったのかね」
「むしゃくしゃしたとかじゃないの?」
飛鳥の返事にミサトは真面目に答える。
「正解はCMの後で!」
「……え?」
ミサトが指で飛鳥をさしながら言った言葉にわたしは首を傾げることしかできなかった。
「ま、冗談だ。知りたければ自分で知るんだ。神がすべてを教えてくれるとは限らない」
冗談だというのに安心してミサトの続きを聞く。
「飛鳥ちゃん自身に起きたことなんだ、自分の眼と耳そして想いで知りなさい。飛鳥ちゃんには命があるんだから」
飛鳥には命がある。
わたしは生きているんだ。敦也が生き返るのを待って生きていればいいんだ。そのとき伝えるんだ、敦也の死の真相を。
飛鳥の心の絶望は消え、明日から敦也の死の真相を探しだそうとする決意が心に広がった。
「わたしは頑張るよ!」
飛鳥は『閉ざされた世界』にいる敦也に向けて宣言した。飛鳥は生き抜いてみせる。敦也がいないこの世界でも。
ミサトはまるで閃いたように手を打ち、口を開いた。
「心を開ける鍵の在処は自分の心にしかないんだよ!」
決め台詞のようにそれを飛鳥を指でさしながら言った。
その決め台詞を最後に飛鳥の視界は光でいっぱいになり、飛鳥は光の眩しさに耐えきれず目を閉じた。





目を開き身体を起こした飛鳥は、ミサトとの会話は全て夢であること理解しました。
目を覚ました場所は眠ったときと同じ自分の部屋だった。学校の教室でも和室でもなく。
いつも通りの部屋で起きて、飛鳥はまず壁に立て掛けられてある時計に目を向けた。
時刻は六時。学校に行くまで全然余裕がある。
飛鳥はやってなかった宿題をやろうかと考えたが、起きたばっかで頭が完全には回ってなくて宿題をやる気にはならなかった。
朝食まで時間があるので、夢でミサトが言ったことをまとめることにした。
まず、敦也は生き返ろうとしている。
彼女にとってはそれが一番衝撃だった。
昨日敦也の心臓が止まって、彼とはもう会えないと思った飛鳥には絶望の二文字しか頭には無かったと言っていいほど心は崩壊していた。
飛鳥と敦也は今まで近くで一緒に生きてきた。
敦也が死んでから飛鳥は気づいてしまった、彼女は彼が大好きだということに。
大切なものは失ってから気づくと誰かが言っていた記憶がある。
大好きな人を失ってから気づくとそれはもう手遅れではないか。
飛鳥は敦也にこの想いも伝えたかった。だから敦也には生き返って欲しい。
たとえ結果が悪いとしても敦也に好きだって伝えたい。自分の想いをしっかり伝えてから敦也とは仲良くなりたい。今も仲はいいけど。
敦也と一緒にいたい。隣にいたい。支えあいたい。笑いあいたい。楽しみたい。ずっと他愛のない会話をしていたい。
敦也と一緒に写った写真を眺めながら飛鳥は彼に対する想いを再確認した。
夢でミサトが飛鳥に言ったもう一つのこと。
敦也の死の真相を探しだすこと。
飛鳥も敦也の死の真相については知りたいけど、そんな探偵みたいなことが自分にできるのかと不安になる。
飛鳥は敦也の死に関係している人物から考えていこうとした。
まずは矢沢先輩だろう。実際、敦也を毎日ぼろぼろにした張本人だからだ。矢沢先輩の暴力に敦也の身体が限界を越えてしまい敦也は死んでしまった。敦也の死因についてはこれでいいと思う。
もともと友達の少ない敦也だから死に関係してくる人物は矢沢先輩以外でてこなかった。
じゃあなぜ、矢沢先輩は敦也に暴力を振るったのだろうか。
敦也がバスケが下手すぎてイライラして暴力を振るったなら理解したくはないが理解できる。次第に矢沢先輩の暴力も度を越えてしまっていったのだろう。
「ダメだ、部屋で考えていてもまったく解らない」
事件は現場で起きているんだとかテレビで言っていた気がする。
学校で詳しい情報を探さなければいけないと解った。現状の知識では捜査がまったく進展しないのも解った。
学校に行く準備をしようとクローゼットを開くと飛鳥の制服の隣に男子のブレザーが掛けられていた。
昨日飛鳥が病院で眠ってしまっていたあいだに傘山先輩が冷えてしまうだろうと思って、掛けてくれたのだろうブレザーである。
先輩の制服なのだから汚れていないか確認しようと、ブレザーのあちこちを障っていると折り畳まれた紙がひらひらと床に落ちた。傘山先輩がポケットにしまっていたものだろう。
飛鳥はその紙を拾い上げ、中を見てしまうのは悪いことだと解っていてもつい折り畳まれた紙を開いて中を見てしまった。
その紙に書かれてあった内容は幸いに飛鳥宛の手紙だった。始めに飛鳥の名前が達筆な文字で書かれていたのですぐに解った。手紙には今夜六時に生徒会室で会おうと書かれていた。
傘山先輩と二人だけで会うのは嫌だが敦也の情報をもしかしたら知っているかもしれないので、いちおう行ってみようと考えた。傘山先輩のブレザーが汚れていないことを確認してからバックに畳んで詰め、わたしは制服に着替え朝食を済ませ学校に向かった。
お母さんから今日ぐらい休んだらと言われたが、飛鳥には家で休んでなんかいられない理由があるから学校を休むわけにはいかなかった。
飛鳥の家は敦也の昔の家とは隣で、彼が住んでいたアパートとも近くだ。
高校には歩いて十五分の道を毎日友達と歩いている。そろそろ後ろからどーんっと来てもおかしくはない。
そう考えていると、
「おっっっはよー、アス元気かい!」
友人が後ろからどーんっと背中を叩いてから、前に回り込んできた。
「おはよう、陽子。今日も相変わらず元気だね」
飛鳥はいつも笑顔な陽子に負けないように笑顔で挨拶した。
彼女は小学校からの付き合いの東野陽子。三番目ぐらいにわたしのなかでは仲が良い友人だ。一番は敦也で二番目は敦也のお姉さんだ。
「ごめんアス。昨日ことでまだ。テンション高すぎてごめんね」
陽子が急に暗い顔をして謝罪してくるので、飛鳥は明るく陽子の肩を叩く。
「そんな心配しないで大丈夫だよ。大変だったら学校休んでるでしょ」
「そうだよね。うん、そうだよわたしがアスを明るくさせる番だからね。いっつも助けてもらってるからさ」
「わたしがそんなに凹んでいるように見える?」
「うん、なんか無理しているような気が……直感だけどね」
さすがは陽子だ。わたしのことをよくしっている。陽子に無理していることがばれないよう振る舞っていたがすぐにばれてしまった。
ちなみにアスとは飛鳥のあだ名だ。陽子が勝手に付けて気に入った。飛鳥のあすを取った。アスってオスみたいで気合い入らない?、が始まりだ。
飛鳥と陽子のクラスは偶然同じクラスで、さらに偶然が重なり席も隣だ。
陽子は陸上部に所属していて、毎日朝練があるため学校に行くのが早い。飛鳥は早くに行く理由は無いけれど陽子が毎日一緒に学校に行こうと頼むのでそうしている。
実際、陽子が一緒に行こうと誘ってくれなければ飛鳥は一人で学校に行くことになっていたので、陽子と喋りながら学校に行く毎日も楽しかった。
学校に着いてグラウンドに行く陽子と別れたあと、わたしは体育館裏に向かった。
誰かと待ち合わせをしているわけではなく、体育館部活の見学でもなく、敦也が殺された現場を見に行く為だった。
体育館裏に着いた飛鳥はいきなり吐き気に襲われて体育館裏にしゃがみこんだ。なんとかそれを落ち着かせてから、体育館裏の地面に目を向ける。
飛鳥がいきなり吐き気に襲われたのはあれを見たからだと、初めてこのとき理解した。
目の前の地面にあったのは赤い血だった。地面に染み込んで、赤く地面を染め上げていた。
この血が誰のものか考えるまでもなかった。
「ここで敦也が……」
矢沢先輩に殴られ敦也の身体から出た血であることは間違いなかった。
……矢沢先輩?
敦也を殺してしまった矢沢先輩はどこにいるのだろうか。
昨日敦也が死んですぐの体育館裏で、傘山先輩と矢沢先輩が何か話していたがそのときの飛鳥は完全に外部からの関わりを断っていたため何も聞こえなかった。
敦也のことしか考えられなかった。絶望・憎悪・悲嘆・孤独それらの感情が彼女の中で暴れまわり彼女の感覚を鈍らせていた。
飛鳥は矢沢先輩のことを初めは普通にかっこいいバスケの巧い先輩だと思っていた。
でも、高校に上がってからの矢沢先輩は不良と化してしまった。暴力に暴力を繰り返し。ついには、人を殺してしまった。
今にでも気を一瞬でも抜いてしまうと、矢沢先輩への憎悪が心の底から沸き上がり、矢沢先輩を探しだして飛鳥が矢沢先輩を殺してしまいそうな状態だ。
飛鳥はとりあえず昨日敦也が死んでから何が起こったのか聞いてみようと職員室に向かった。
「失礼しました」
ぺこりと頭を下げて礼をしてから、職員室を出る。職員室に行くことは当たりだった。いっきにかなりの情報を得ることができたのだ。
飛鳥は教室に戻りながら、新しく手にいれた情報を整理する。
「矢沢先輩が自首した」
これが飛鳥にとって想定外のことだった。
彼女はてっきり逃げているのかと思っていた。
なぜ自首をしたのか。それは矢沢先輩にしか解らないこと何だろう。
矢沢先輩が刑務所にいるということは、飛鳥が矢沢先輩を殺そうと思っても殺せないということだ。だから、彼女がもし憎悪で我を失って矢沢先輩を殺そうとしても手段がないのだ。
敦也の死因はやはり矢沢先輩の暴力がたまり身体が壊れてしまった。
矢沢先輩の仲間は学校を停学になっているらしい。矢沢先輩の仲間から情報が得られるとは思っていないので、その件は置いておいて問題ないだろう。
「敦也の死の真相」
考えれば考えるほど答えは遠くなっていくような気がした。
「どうしたのなんか悩み?」
「陽子、朝練はもう終わったの!?」
階段を上がっていると、後ろから声をかけられてびっくりする。
「どうしたの、そんなびっくりして」
「急に陽子が話しかけるからだよ」
「えー、わたしのせい」
陽子は頬を膨らませ飛鳥をツンツン突っつく。
「ちょと陽子くすぐったいよ」
「やっぱ、大好きな人を失っちゃうと悩んじゃうよねー」
「大好き?」
ジト目で飛鳥を見る陽子の言葉に首を傾げる。
「うん、アツのこと」
アツとはアツヤのことだ。
「アツヤにLike?」
「のん、アツヤにLovんっ」
陽子の口から大変なことが言われる予感がしたので、陽子が言い終わる前に顔を赤くしながら口に手を当てて止めさせた。
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