主婦と神様の恋愛事情

花咲マイコ

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雪と東殿下と学校七不思議

7☆音楽室のピアノ

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 十三階段があると言われていた階段を通り廊下を抜けて音楽室へ向かいの校舎に行けた。

 音楽室につく前に東殿下は音楽室の学校の七不思議の噂を楽しげに話す。
 ベートーヴェンやモーツアルトの目が光るのは画鋲を刺されたからだとか、天井から落ちる血の滴りでピアノが弾かれているとか、ありとあらゆる噂があるという。
 エリーゼのためにを四回聞いてしまうと死んでしまうとか…

「雪は他に音楽教室の噂知ってる?」
「知らないです。むしろ、私、音楽苦手なので……」
 雪は楽譜を読むことが苦手だった。
 音楽の授業は苦痛とも感じることがある。
 小さい頃は読めていた気もするが……
 一人考えてたら嫌なことを思い出した。
 施設のピアノを弾いていたら、下手だとか、聞きづらいとか馬鹿にされた。
 そのピアノは今は亡きお母さんに教わったものだったが……
 それ以来音楽が苦手になったと……
 一人、ずーんと、暗い雰囲気を醸し出していた。

「二宮くんは知ってるよね?」
 もう確定的に聞く。
 仮面を貼り付けたような笑顔の二宮はうーんと顎に手を当てて
「そうだね…四回エリーゼのためにを聞くと死んじゃうとか…それじゃつまんないよね……せっかく遊べる友達できそうなのに」
 二宮くんも自分の正体を隠してない。
 突然、音楽室から
 バンバンバンジャンバンバンバン!
 と、ピアノを壊しそうな騒音が聞こえて、
「うわっ!」
「っ!」
 あまりの騒音に東も雪も耳を塞ぐ。
 二宮くんは音楽室の扉を開けると、耳を塞ぐ透けたベートーヴェンとモーツァルトがいる。
 ピアノのひどい演奏に困っているようだ。
 ピアノがROCKの音楽をするが如くに暴れている。
「あー。このピアノはもと生徒だよ」
 ふふっと笑う。
「え?それはどう言う……?」
「本来、エリーゼのためにを奏でないとこの音楽室の楽器にされられて生徒自身忘れ去られてしまうんだけど……」
 二宮くんはそのピアノの生徒の記憶を辿るように語る。
「彼はピアノも弾けないが、昼休みとか、クラシックロックミュージシャンとかいうのを目指している生徒が使ってるから魂が夜な夜な叫び出すように鳴り出すんだよ」
「どんな、設定なのよ!」
 取ってつけたような、設定に雪は突っ込む。
「自分の存在を忘れられないように、このように乱暴なピアノの化け物として暴れているんだよ、それで今では地獄を思わせるほど下手くそなピアノ演奏を四回聞いたら死ぬという噂が最近たったね」
 そりゃ死ぬわ……と思うほどの酷さが響けば、嫌でも噂がたつわ……と雪は思う。
 正直これ以上聞きたくない。
「この、ピアノの生徒は生きているの?」
 東殿下は二宮に聞く。
「まぁ、行方不明になったのが一ヶ月前だから、まだ命に余裕はあるよね」
「どうやって彼を救うことができるんだい?」
 東殿下は神妙な顔つきになる。
 東殿下のポリシーにはまだ救える人間ならば無事に救いたいという純粋な気持ちが、お化けを追い求める心と同じに存在している。

「この、七不思議の主のベートーヴェンとモーツァルトに聞いてみればいい」
「とりあえず、素晴らしいピアノ演奏を!」
「エリーゼのためにを奏でてくれさえすれば……」
 困惑気味の二人の音楽家の意志を持った肖像画から具現化したお化けはそういった。
 本物の音楽家の魂では無いが、絵には似たような魂らしきものが入り込んだ七不思議の番人のようだ。
「彼も無事に元に戻してくれる?」

バンバンバンバン!ドバンバン!

 そうしろというようにピアノは暴れる。
「そうしてあげていいよ、こんな自己アピールの強い人は迷惑だよ……」
 二宮はやれやれと言うように言った。
「約束は義務だからね、破ったらただじゃ済まないからね……?」
 と本気で東殿下は凄みをかけて二宮くんと指切りをした。
「この音楽家が納得するような演奏が奏でられたらね。」
 二宮くんは仮面の笑顔は変わらずにそういった。

 ベートーヴェンやモーツアルトのお化けは居住まいを正して、
《代表的な我らの楽曲を奏でなければ返さない!》
 と、今更脅してきた。
 白々しい空気が流れる。
「じゃ、僕が特別奏でてあげようかな。兄上の指導の賜物を聞かせてあげるよ」
 東殿下の兄の雅親王殿下は和洋どちらの音楽に対しても情熱的であられ、東殿下は雅殿下の愛弟子でもあることは皇族のご家庭内の秘密だ。

「さてと、最初エリーゼのためにでいい?簡単すぎるけど」
 といい、鍵盤に指を軽やかに載せられて楽譜も見ないで、奏でられる。
 最初、重めな音色からだんだん明るく可憐なそれでいて壮大で情熱的な悲壮感が漂う。
 まぶたの裏に情景が浮かぶ。
 明るいイメージのある東殿下のイメージでは無いが見事に奏でられた。
 ベートーヴェンは感動のあまり眉間のシワをなくして幸せそうな笑顔で消えた。
「じゃ、モーツァルトの曲も奏でちゃおうかな?」
 といい、東殿下らしい爽やかな明るいピアノソナタを奏でるとやはり昇天したと思えば、ほかの音楽家達まで出てきて奏でてくれという。

「これって、あらたな七不思議だよ……永遠に奏させる気?」
 と東殿下は一通り奏で終わると二宮くんに苦笑した。
 そして、ピアノは生徒になっていた。
「助けてくれてありがとな!俺も東殿下のお供するぜ!」
 この七不思議の異界のピアノのあやかしににされていたおかげで、東殿下と雪のお供というか無事に現世に帰るためについて行くことを決めた。
 彼は三年生で西ノ森本太にしのもりぽんたと名乗った。
 見た目、二宮と対局な雰囲気で明るいタヌキの尻尾のような形の金髪のリーゼント頭の不良少年だった。
 顔は目元に緑の縁取りをして自分の個性感を出していた。
 東殿下だけでも個性的なのにさらなる個性的な人物が増えるとは……と雪は呟いた。
「雪も可愛いくて、個性的だよ」と東殿下はウインクして言った。
「さあ、次は理科室かな?」
 お供を増やした東殿下は再び瞳を輝かせて理科室の方に指をさした。
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