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あやかしと神様の黄泉がえり

16☆東の企み

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 東殿下は前日に葛葉子が現れた時の対策を兄たちに相談し決めていた。

「……というわけで、兄上たちにも協力してほしいんだ。」

 東は今までの葛葉子の経緯を話して兄たちに頼む。
 そして、皇太子であるあきら親王をちろっと上目遣いで伺う。
 精悍な顔をしていて体格がよく西洋の正装の軍服ふうな服装を普段好んで着るので軍人のようにも見える。
 そんな、景親王は腕を組み東をジロリと見る。

「我が国中枢に入れないで、今すぐ総動員して大妖怪なら消してしまえばよかろう。
 瑞兆にこだわることもあるまい。」
 あっさりそう切り捨てる事を言う事は分かっていた。
 皇太子の景親王は以前の宮職は舎人とねりの宮
 帝おそばをお守りする伝統衛士や舎人職員を、取り締まる宮をしていたので規律に厳しいところがある。
 舎人は両陛下、皇族をそば近くにお守りする。近衛とも言う。
 日和皇族、宮中を護る宮廷警察と繋がる。
 宮廷警察の優秀で心から忠誠を誓う職員を選出しおそば近くで警護する者を選ぶ。
 伝統衛士職もその中に入る。
 皇室は伝統文化を重んじる。
 破魔矢や退魔の太刀も管理する。
 そして、密かに退魔の太刀操るものを駆使して無念を抱く者たちの浄化も管轄している。
 滝口臣もその一人だ。
 今の世はあやかしは信じられていない。
 それに命を奪われたとしても警察沙汰にならない。
 神聖な神と繋がる国ということはそういう者達の監視も怠ってはいけないということだ。
 そして、宮中にはどの世界よりもスペシャリストが集うのだ。さらに陛下への忠誠心がなくては日和国の宮中は出仕は許されない。
 だからこそ宮中に再び九尾の狐を入れて決着をつけようと東は思っていることを言った。

「瑞兆は私も見てみたいな。きっと素晴らしいでしょうね。
……でも、面倒くさくもありますね。
 こっちは宴の舞の準備で忙しいのに…」

 第二皇子みやび親王
 日和国の伝統をこよなく愛する。伝統文化を重んじる式部の宮職についている。
 皇太子とは真逆で柔和で優しいが、少しめんどくさがり屋な所がある。
 愛する雅楽や音楽にはうるさい。

 お互い管轄には口を出さないのが暗黙のルール。
 協力するところは快く協力し話し合いもとことんし、結論が出ればそれに従い動く。
 公務が重ならなければこのように会議をして陛下に中務の宮の東が奏上する。

「どうしてもなんだよ。
 兄上たちにも協力してほしいんだ……」
 感情なしで進めなければ意見は対立するものと分かっているが、東はことを丸く収めるためにも宮中で対決する計画を同意してほしい。

「それに、晴房のことは僕より知ってるでしょ?」
 東は景を見る。
「……ふん…」
 景は切なげな表情をして東の視線をそらす。
 ほんとうは一時的に景はハルの神の依代として房菊と一夜を過ごし晴房の父になるはずだった。
 世間には皇族とは認められなくても…
 側室制度はなくなったと言えど神のお告げだった。
 神に仕える祝皇は巫女の中から側室を選ぶことがあり、神の子を生むことがあった。
 時にその子が祝皇になることもあれば晴房のように神の力を持ちて陛下をお守りする現人神として日和国を守ってきた。
 それはごく稀のこと。
 神が日和国の宿命を見定めて使わす神の化身は日和国の伝統的神事なのだ。
 そのことを受け入れた景は房菊を遠目で見た時に一目惚れをしたのは事実であった。
 そして一度、ハルの神と偽って…いや、あの時はハルの神が自分に降りてきていた。
 房菊に恋をしていたから構わなかった。
 夜に一度宮中の中をデートらしい事をした。
 一生忘れられない初恋の思い出だ。
 そして景はあの事件が起きてから后を頑として迎えようとはしていない。
 心の整理がつくまではと思っていたが…

 それをどこで聞いたのか、シラスの力なのか知ってる景の事情を知っていた東が少し憎たらしい。 
 だしに使う気かと思う。

 今回の葛葉子という巫女は房菊と同じような不幸な目にあっていると思うと強く拒否することは出来なかった。

「……たしかに民をつかい皇室に災いを起こさせられるより宮中というエリアないなら対処のしがいはあるな…諸刃なことだがな」
 皇太子は大きくため息を吐くと
「よし、わかった。瑞兆となさないあやかしと判断したら、即座に太刀の一族を集めて討伐命令出すからな。」

 理解はあるが話し合いで解決しなければ武力を行使するということになった。
「で、私は何をすればいいのかな?」
「雅楽を使って瑞兆となった葛葉子を…白狐…を導いてください」
 雅楽は神を喜ばせる神聖な音色だ。
 あやかしから神格を高めて瑞兆になるには必要なことだと思う。
 それに九尾の狐が王を籠絡して滅ぼしていった国々の音楽が雅楽に集結されて日和国オリジナルになっている。
 九尾の狐もそうして良き護りの白狐として長く皇室を守ってきた。
 吉方に導きになるに違いない。
 
「おや、勝つ確信が強いね。」
 勝つこと前提で東は話を計画を勧めている。

「そうでなくては僕や学友、あの子を知る者達が辛い思いをする。
 それだけは避けたいのです。」
 そのことを思い東は苦笑した。
 負けることなんか考えてはいけないとも強がってもいると兄達はみぬいた。
 いつも覚って兄たちを孫のように微笑む東とは違っていて年頃の弟に見えてそれだけでも満足だった。

「陛下には報告したのか?」
 皇室に、国に、いや国民にも関わることは全て精査して報告申し上げるのも、中務の宮の役目。
 
「陛下も九尾と対決する気まんまんで……作戦としては陛下御自ら囮になってもらうのはやっぱりダメかな?」

「ダメに決まってんだろ!」

 兄二人に本気で怒鳴られた。



 そして、葛葉子は九尾の狐の大妖怪として最大限の結界の中に入った。

 正直、葛葉子を救えるかどうかなんてわからない……
 稀代の祈り姫宝子の予言一行の中にいろんな戦いが含まれるだろう…
 瑠香ですら操られているのだから…
 突然背中をバシン!と春子女王に叩かれる。
「東様!暗い顔してはいけませんわ!宝子様の日記は当たるんですから!」
「そ、そうだね。当たって欲しい…ううん、実現させなくちゃね。どんな事があっても」
 兄たちには弱音は吐かなかったのに春子には素の自分が出てしまう。
 緊張している東に春子は勇気をつけようと、

「それに、勝利の女神の現役の祈り姫である私がいるのですから、安心なさってくださいな!」
 元気よくGood Jobポーズを決める。
 だが、春子も少し緊張してるのか顔は真面目な顔をしていた。

「うん。君の祈りさえあれば、最良の方向に向かう気がしてきたよ」
 東は微笑んで春子をぎゅっと腕の中に抱きしめた。

「そういう元気なところ好きだよ」
 春子は突然なことに顔を真っ赤にしてのぼせて気絶した。
「こんな時に気絶するなんて…可愛いところもあるんだね」
 もっと春子のことを知りたいと東は思った。
 その為に葛葉子を無事取り戻し瑞兆として活躍してもらおうと強く心に決めた。
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