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あやかしと神様の夏休み(番外編)

3☆従兄弟の春陽

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 瑠香が葛葉子の服を持ってきてそれを着て一緒に下の広間のテーブルに照れながらつく。
 お母さんが子どもたちの分のかき氷を、テーブルに並べる。

 春陽が葛葉子を睨む。
「メギツネが…」
 春陽に睨まれボソリと呟かれた。
 春陽が来た時は狐ではなかったのに見ぬかれてるようだ。
 それに、何故か嫌われてしまったことにも困惑する。

 春陽をよく見れば、自分に少し似てると感じた。

 切れ長な瞳の一族的な香茂とは違い、瞳が大きく一見女の子に見える。
 どちらかというと阿倍野の一族に似てる…と葛葉子は思ったら、

「狐の一族と一緒にするな!」
 春陽に怒鳴られた。

「ご、こめん。」
 テレパシーが使えるのはやはり香茂の一族だと思った。

「そういえば、香茂の親戚っていっぱいいるの?」
 葛葉子は首を傾げて尋ねる。

「まぁな、父さんの兄弟八人もいるし、分家もたくさんある。」
「お母さんは、香茂の親戚の人?」
「母さんの家は両家と関係ない神職の名家だよ。」
「真陽と一緒で、そういうこと興味ないけどね。私のところも親戚たくさんいるわね。」
「阿倍野家の遠縁とも繋がりのあるものもいるよ。」
と陰陽寮長がにこやかに言う。
「阿倍野の従兄弟とはオレは親しいぞ。」
 瑠香は、昔遊んだ年上の従兄弟を思い出した。
 遠い血筋でも、何度か交わるというのは本当だったのかと葛葉子は、ワクワクする。

「うむ、春陽は香茂よりも阿倍野のほうが強いかもな。」

 陰陽寮長も葛葉子と同じことを言った。
 そう言われてムッとする。

「僕は、香茂の人間だし!狐の一族と一緒にされたくない!」
 何故か阿倍野の一族はコンプレックスらしい。

「瑠香にいみたいに、かっこ良く大人っぽくて、神々しい容貌になりたいんだ!」

 乱暴にかき氷にスプーンを入れて、氷を思いっきり散乱してしまった。

「もう、春陽は天性のどじっこだな!」
 瑠香は無意識に世話を焼く。
 瑠香のかき氷を春陽に譲る。

「えへへ。ありがとう瑠香ニイ」
 春陽は瑠香の優しさを知っているらしい。本当の弟みたいだと思った。
 晴房とは性格が違うから態度も違うのかな?と思う。

 いたずらっ子と甘えん坊。
 どちらも可愛いし、自分の子供が生まれた時を想像する。
 楽しい家族になりそうだなぁとうふふと微笑む。
 そんな葛葉子に瑠香は幸せを感じる。

 玄関の扉が開くと、ドサドサと多くの荷物を放り投げる音がする。

「ただいまー!まったく!荷物重かった!」

 やっと、真陽が帰ってきた。
 広間にいくと一人多いことに気づく。

「あら、春陽くん来てたんだー。」
「おじゃましてまーす!」
 キラキラした瞳で真陽に挨拶する。

「それにしても、荷物持ってくるの大変だったわ!」
 と叫ぶように言う。

 そういえば、真陽とかなり買物したことを思い出した。

「ごめん、真陽姉さん!置いていっちゃって!」
「瑠香のせいだからね!葛葉子ちゃんは被害者よ!」
《そういえば、子作りで来た?》
《春陽にじゃまされた…》
《ざまぁ》
 ドヤ顔して笑われる。
 ムッと瑠香は姉を睨む。

 春陽はクイッと真陽の腕を引き、
「真陽姉も誕生日迎えて、さらに、綺麗になったね」
「うふ。ありがとう。口も、うまくなったわね。」
 真陽はなんの気もなしに、春陽のおでこにキスをしたら、真っ赤になった。

 瑠香は心の中を覗くと、

(真陽姉、ほんと綺麗…恋人とかいるのかなぁ…)

 ふーん。真陽姉に気があるのか……葛葉子に好意を持ってなければ別にかまわないけど…


「お盆はみんなで集まるから先に阿倍野家におじゃまして、来てくださる方をきいてきてね。」
「はーい。」
 更にそうお願いされて、香茂家ともとから近い関係だと思うとうれしい。

「阿倍野家はみんなバラバラになっちゃったみたいだし…
 今や、私しか跡取りいないし。晴房はもう宮中の神様だし…」
そうなると、やっぱり自分が後を継ぐことになるのかと思う。

「そうか…その問題があるのか…」
 瑠香は葛葉子の頭を覗いて考える。

「でも、早く子供いっぱい作ってこの家みたいに温かい家庭をつくって、温かい阿倍野をとりもどしたい!そんな夢が新たにできたよ!」
 瞳を輝かせて言う。

「でも、葛葉子ちゃんはもう私達のお嫁さん決定だからね。」
とお母さん。

「孫を一応阿倍野の跡取りにしてもらえばいいんじゃないか?」
とお父さんの陰陽寮長。

「難しい問題じゃないわよねー。私婿もらうしー。
 瑠香が、婿に行ってもかまわないし!」
(なら、僕が婿になりたい…)
と春陽は考えるが複雑に思う。
 阿倍野は不吉という噂を鵜呑みにしてる。
 家族みんなに後押しされたので、

「瑠香、早く子供作ろうな!」
「あ、ああ。」
 瞳がさらに輝いてる。
 かわいいし愛しい。

「葛葉子の夢はなんでも叶えてやるよ」
 ぎゅっと抱きしめ合う。
 かき氷がさらに溶けてしまうほど熱い思いを込める。

(葛葉子は単純だなぁ。)
 そこが可愛いんだけど。
 正直、阿倍野殿に挨拶する事は気が重い。不安だ。

 でも幸せな家庭をオレと作りたいと言われると葛葉子の為に頑張ってやると瑠香の夢にもなった。

(瑠香は、ほんと純粋だわ。だから、神の化身できるんだわー)
と、呆れる真陽だった。

「僕だって純粋だよ!」

 突然話とは関係ないことを言い出したけれど、考えを読む香茂の人たちは普通のことで大抵なことは驚かない。
 春陽はテレパシーは聞こえてもテレパシーで会話できないらしい。

「でも、葛葉子ちゃんをいじめる純粋さは、いただけないわねー。」
 葛葉子を敵視してるのを真陽は、見抜いて言う。

「男の子は女の子にやさしくなきゃね!」
 つんと、春陽のおでこをつついて注意する。

「そうだぞ、瑠香!」
 さっき意地悪されたことを思い出して言う。

「葛葉子ちゃん、それ、フォローになってないから」
 と苦笑する。

「それにしても、どうして、葛葉子を敵視するんだ?
 阿倍野家抜きに言ってみろ」
「………大好きな瑠香にいを独り占めしてムカつく。きっと葛葉子から誘ったんでしょ狐なんだし!」
 自分の心正直に発する。
 心に迷いがないのも春陽の性格みたいだ。
 春陽はまだまだ若いゆえか決めつけるところがあるし、人の言葉を鵜呑みにするところがある。
 まだ十三才だから仕方ないが…
「なんで狐ってわかった?」
「僕は魂が見える能力に長けてるんだ。葛葉子の魂は狐に見えるし…普通じゃない感じがする。しょ、所詮、阿倍野だからな」
 ふんっと怒って言う。
「そうなんだ、すごいな。流石は香茂だな!」
 葛葉子も、素直に感心する。
 そう言われて悪い気はしないがバツが悪くなる。

「葛葉子を独り占めしてるのはオレだよ。」
 うんうんと真陽も頷く。
 一日、葛葉子を貸してくれたのは誕生日だったからだ。

 それでも信じたくないのか、春陽はムッとして、

「どんな色仕掛けで籠絡されたの!
 もっと、神々しく気高い楚々とした感じだったのに!雰囲気かわった!デレデレ顔たるんでる!」
 プンプン怒って言いたかったことを言う。
「た、たるんでない!失礼な!」
「確かにねぇ。たるんでるし。
もとから意地悪なのはかわらないけど、情熱的になったわよね」

 それは瑠香自身が一番そう思う。
 こんなに、余裕のない自分に戸惑う程に変わってしまったと……
さらに。
 つい最近両思いになったばっかりだ…
 仕方ないではないか。

 その、瑠香の考えを覗いて、

「やっぱり、阿倍野のメギツネ!お前の仕業だ!何か呪いでもかけたんじゃないのか!」
「か、かけてないよ!」
 そういえば、瑠香に白狐になって再開した時、瑠香に言われた言葉だと思い出した。
 瑠香は、にやりと意地悪を考えて、

「そうだな、恋の呪いかけられて、一生解けないんだよ。だから、責任とって、オレと今夜一晩ベッドで過ごそう」
「それは一晩過ごすだけで呪いが解けるの…?」
 なぜだか悲しい気持ちになる。
「ん?どうした?葛葉子?」
 その様子に気づき優しく聞く。
 …やな予感がすると瑠香は思う。
 呪いは冗談だとわかってるけど…

「一晩で、嫌われるということか?」
「ちがうよ!一生死ぬまで葛葉子と添い遂げても解けない愛の呪いだよ!
 いや、宿命だってわかってるだろ?」
 瑠香は、焦ってフォローする。

「わかってるけど…呪いっていわれるのいや…呪いでも解けるのもやだ…」
 矛盾なことを言ってポロポロと思わず涙する。
 キュンキュン瑠香は、胸が鳴って、更にぎゅーっ!と葛葉子を抱きしめる。

「呪いでも祝福でもお前と一緒にいられるのがオレの幸せなの!泣かないで…」
 キスするように唇で涙を拭う。

「私も瑠香と一緒にいるのが幸せだよっ!」
「葛葉子、オレもだよ」
 キスしまくる。
 葛葉子は家族公認だから恥ずかしくないらしい。

「はじまったな…まったく…」
 陰陽寮長は家では止めなかった。
 晴房はいないし、春陽は年頃だからキスぐらい見てもかまわないだろうと思ってる。

「…もう、接着剤で体くっつけてやろうか!」
 真陽も、あまりのラブラブぷりに暴言を吐く。

「そういうことは、自分のへやでやりなさい。」
 母は冷静に注意したけど孫がほしいし葛葉子の夢を後押ししたいから注意は柔らかだし案に既成事実化しろと言っている。
 お母さんに背中を押されて二人追い出された。
 真陽は、ため息を吐いて、

「こういう二人だから、春陽くんが何言っても無理だと思うわよ…なおさら煽るだけなんじゃない?」

 春陽は、むむむむっ!と眉間にシワを寄せて、

「しばらく、瑠香にいに、ふさわしい女か審査してやる!」
 権限もないのに勝手に決めた。
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