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あやかしと神様の恋縁(こいえにし)

14☆父との再開

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「おばさんたち、どこに連れて行くんだ?」
 途中まで楽しく他愛のない話をしてたのに気配の怪しい廊下を歩き始めると会話がなくなり、不安が葛葉子を襲う。

「直接、お父様に聞いた方が宜しいでしょう。」

「えッ…」
 叔母たちが振り向くと、カラスの頭になっていた。


 案内された部屋の襖が開くと、西洋風の広い部屋で、ダークブラウンの家具が上品良く配置されているが、闇を思わせる。
 その部屋の真ん中に、待っていたように、灰色を基調したスーツ姿の父が椅子に座っていた。
 髪は白髪混じりだが、背は高く端正な顔立ちで娘の葛葉子も自慢だった。
 そんな父、威津那は微笑み、葛葉子に歩み寄る。

「葛葉子、久しぶりだ、会いたかったよ…」

 愛しい娘の頭を優しく撫でる。
頬にも優しく両手で触れて顔を確認する。

「と、父様…」
 葛葉子は怖さのあまりギュッと瞳を瞑る。
 ぞくりと、怖がるのは魂に入っている白狐が嫌がる、怖がる。
 昔に尻尾を八本も取られた恐ろしさを思い出したのか。
 葛葉子に警告するように鼓動が激しくなる。

 抱きしめられると、優しい父様を思い出す。
 ホントは優しくて大好きだった。
 葛葉子も思わず父の背に手を回し包容する。
 狐と同化してこの温もりを忘れていた。
 けれど父は娘の耳元に口を近づけ、

「晴房を…どうして連れて来なかった?
 ……あの子は新たな皇にふさわしい神の化身なのに」

 葛葉子は、父の胸を突き飛ばし距離を取る。
 恐怖ではなく、怒りだ。
 陛下を侮辱する、謀反する言葉は許せない。

「晴房は皇にならない!
 神誓いをした皇守る神なんだから!私だってそうだよ!陛下を悪くいうことは父様でも許さないよ……!」
 声を荒げて指を指し宣言する。

『それは今言ってはいけなかったのに…』
 白狐が心で悲しげに呟く。

(えっ…)

 突然、父は悲しい辛い表情をする。
 絶望の黒い霧のようなオーラが部屋を占める。
 その感覚が地震のように足元を揺らす。
 ここはジジ様の異界ではなく、威津那の異界だ。
 阿倍野家全体がそうなのだ。
 全ては父様の心次第の空間。

「なら、ほんとに、死んでしまったのだね…
 また宮中の掟に苦しめられ娘は葛葉子は死んだんだね……」
 父の瞳から涙があふれだす。
 それを見ると心が痛い。

「でも、生きてる!死んでない…お願いだから、皇室を陛下を嫌わないで!」

「娘二人も殺されて、憎しみが湧かないわけ無いだろう!
 陛下には直接関係なくても、陛下を敬愛して皇室を支える巫女になり死んだことには変わりない!」
「それは、私が望んだこと!皇室を陛下を敬愛してるから…」
「そんなのはお前の本心で愛してるわけではない!
 阿倍野の九尾の狐の血筋定めた呪いだ!」
 総断言して頭を抱え、膝を折

アアァァァァ!!

 と泣け叫ぶと更に屋敷が揺れる。
 本気で悲しそうに泣く、その心が葛葉子にも心を裂くように痛い。
 自分を思っての悲しみだからなおさらだ。
 けれど、心とは逆に頭は冷静に、父は完全に狂ってると思う…

「守ってやれなかった!愛しい娘を!死した直前、悲しかっただろ?辛かっただろう?」
 よろよろと、葛葉子に近づき手を伸ばす。
 その手を葛葉子は、無意識に避けるため一歩さがる。

たしかに、辛く苦しかった…

「でも、蘇った私は幸せだよ!
 いろんな人に出会えた!
 とても好きな人、結婚したい人にも逢えたんだよ!」

 その言葉に、威津那はピクリと眉の端が上がった。
 いつの間にか赤い瞳で葛葉子を見る。

「…その男は心からお前に愛の言霊を言えるような男か?」

「それは言えない…私も言えない」
 たがいに陛下を愛すると神誓したから…

「でも同じものを愛しく思うことは同じ思いと同じだよ…」
 威津那は苦笑する。

「母さんと同じことを言う…
 私は言えなかった、最後まで、橘を愛していたのに…」

無念だけが魂を痛める…

「いつも、いつも、私は後悔を抱く…先が見えるのに。
 未来が見えるのにどうして、後悔しか残らない?」

 未来は明るいなんて嘘だ…信じられなくなった…
 目の前に映る葛葉子の未来も妻と同じだ…命短し宿命…
 しかも、『先見』の目には葛葉子が愛しく思う男が命を奪う…
 その男は鵺を放った時に葛葉子を眷属にした神の化身……

「それは今を見てないからだよ。
私を、見てよ…
 父様…私、幸せなんだよ。」

 葛葉子を、じっと見つめる赤い瞳は今を見ていない。
 先を見ている。
 未来を映している。

「葛葉子は母さんに本当に似ているね…狐を宿してから更に…
 好きになる男も、運命も、宿命も、何もかも…」

 瞳の色は黒に戻る。
 今までの殺伐としたオーラも消える。
 優しく微笑み葛葉子に近づき、抱きしめる。
 父様の瞳を見てから体が金縛りにあって動かない。

「呪いの輪廻からはずさせてあげる。
 いとしい娘のために…」

 いきなり父様に唇にキスされる
「んっ!んっ!つっ!」
 息を喉に吹き込まれ、舌をからまされる。

 息ができない、意識が遠のく。

 いやっ!やめて!
 なにか黒いものが流れ込んてくる!
 なにか嫌なものが!魂まで絡もうもとするように。

瑠香!助けて!

「うっ!ぐつ!」
 キラキラとした煙が威津那の喉を縛り葛葉子の口を離させる。

「このまま、霊的に生まれかわらせてもいいのですよ……」
 光る煙を引いて、仰向けに威津那を引き倒す。

「瑠香っ!」
「葛葉子!」
 瑠香は葛葉子をぎゅっと抱きしめる前に、浄化するようにキスをする。
 狐になって構わない。
 深いキスを繰り返す。
 だけど、狐に戻ることはなかった…最初に吹きかけられた息が狐の力を封じたのかもしれない。
 ぎゅっと抱きしめれば、やっと瑠香は落ち着く。

「と、父様なんかダイッキライ!!ジジ様と一緒で変態だ!馬鹿ァァァ!」
 あまりのことされて、罵倒せずにはいられなかった。

「ふっ、おまえのファーストキスは生まれた時から奪ってある。
 いまさらだよ…」
 よろめきながら苦笑して二人を見る。
 威津那は喉をわざとらしくさすりながら瑠香を睨む。
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