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あやかしと神様の恋縁(こいえにし)

7☆父の許し

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 いつものように、売り言葉に買い言葉の喧嘩ではなく本気で孫まで作りそうな雰囲気についに、いたたまれなくなった陰陽寮長は前から考えていたことを言い渡すことにした。

「二人は、阿倍野にいって許しを得てこい。」
「え?」
 阿倍野家はいまや陛下を恨んで何か計画をしているような危険な場所に直接行かせることを言い出す。
 だけど、個人的な事情なら別だ。
 さらに、瑠香だけにテレパシーで
《阿倍野を探ってくる口実になる》
 と抜け目ない。

「お前たちは結婚したいんだろ?」
 未成年なら親の許しが必要だ。
 日和国は男女十七歳で結婚できる。
 二十歳が成人なのでやはり親の許可同意は必要だった。
「……帰りたくないです…」
「そんな不条理は許しません。」
 今回は陰陽寮長は甘くなかった。
「だけど、父は皇室を恨んでる。憎んでる。嫌です。」
 葛葉子は頑なだった。

 それは、狐の恐怖。イズナに会いたくないというのは尻尾を封印された恐ろしい過去のせいだとわかる。

「それに、阿倍野のジジ様からも文が来てるのだよ」
「ジジ様が?」
「葛葉子のジジ様は私の祖母の兄だぞ。」
 ほんと阿倍野と香茂は親戚だ。

 文には

余命幾ばくもないので逢いに来てほしい。
イヅナの代わりにわしがお前たちの仲を取り持ってやる。

「ジジ様……」
 葛葉子は、優しいジジ様に会いたくなる。

「阿倍野殿が狂ってしまったのは分かる。だけど、娘が幸せだと分かれば少しは気が変わるかもしれん。」
 心揺らぐ、葛葉子の肩に手を置き陰陽寮長は、

「大切な娘が、実家に帰らないのは、不安が募るものだ。
 一度、帰ってみるのもいいだろう。」
「は、はい。わかりました…」
 葛葉子宛の手紙を胸にぎゅっと抱きしめた。

「瑠香よ、責任を持って葛葉子を守れよ。結婚する気ならな」
「ああ。当然だ。許しがなくても妻にするし」
 陰陽寮長は瑠香の頭を殴る。

「陰陽師たるものが儀式、儀礼、礼儀を、おろそかにするな!香茂の御曹司が結婚もせずに子供ができたとか世間に恥ずかしいだろ。」
「たしかに…」

 瑠香は顎に手を当てて考える。
 ハルの神がいうには、阿倍野殿との対峙は宿命だとかいっていたから、いい機会かもしれない…
 どんな宿命か、わからないけれど…
 葛葉子を妻にするには最初の試練なのは間違いないと思う。
と考えていたら、
 東が陰陽寮に訪れる。
 顔はワクワクが滲み出ている。
 何か楽しい物を見つけたように目がキラキラしている。

「上司としても挨拶しなきゃかな?」
「ダメです」
 陰陽寮長は即答だ。

「陛下からのお許しは出てないのでしょう」
 鋭い瞳をさらに釣り上げて忠言する。
 そう言われることもわかっていたのか、東は、あはは…と頭を掻いて諦める。

「じゃあ、不安がたくさんあるなら、御札何枚か持って行って、僕だと思って。」
 二十枚ほど手渡される。
 一番上に祝言と書かれてるし。
 葛葉子達が帰ってくるまでおとなしく、宮に閉じこもって御札を大量生産しておいたらしい。
 いや、もしも許しが出て阿倍野の屋敷をご訪問するときのために大量生産した。

「ありがとうございます!」

 東の札の力はすごい事は河童の異界を封じたことを見ればわかる。
「ん?臣に聞いた?阿倍野の屋敷のこと……」

「秘密は厳禁だよ。」
 人差し指を口元にあてて、ニッコリと微笑む。

 さすが、シラスの力は何でも知らすどころか知ってしまうらしい。
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