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あやかしと神様の恋の枷

11☆八尾比丘尼の呪い

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 前世の東は僧の阿闍梨まで登りつめた。
 仏に帰依をしようと思ったのは幼い頃助けてくれた、美しい尼僧が、あやかしだったから…
 彼女は人魚の肉を食してし、人魚に呪いをかけられ、あやかしとして、生き続ける。
 
 八尾比丘尼は人間になるために救いを求める為に仏に帰依した。

 そんな八尾比丘尼は清く正しく美しく、憧れる存在だったが、
 一七を迎える頃には恋に変わっていった。
 それは、八尾比丘尼もそうだった。
 お互い好き同士だったのに、愛しい男に人魚の肉…自分の血肉を食べさせれば、ともに、あやかしになり同じ時を過ごせるはずなのに、愛しているからそれはできなかった。
 前世の東は修行のたびに出て行ってしまった。
 始めは八尾比丘尼の呪いを解くはずだったのに、修行に夢中になってしまった。
 僧は女人禁制、仏に帰依する心のために素直になれなくなった。
 そのまま、すれ違っていって、男女の仲は終わった…


 仏に帰依すれば人になれると思ったのに人に戻れなかった。
 八尾比丘尼の人魚のあやかしの事は気になっていた、
 年をとった阿闍梨の夢の中で仏はおっしゃった。

「涙を流せず悲しむ八尾比丘尼に、涙を流すこと。
 人としての感動を胸に熱く灯すこと…
 それが彼女を人に戻す唯一の術だと。
 人生の最後、心残りだったことを伝えられて満足に天寿を全うした。
 その手紙を最後に前世で魂の縁は途絶えた。

 すれ違ったままで終わられても良かったのに……
 最後にもらった御文に嬉しくは思うものの涙は溢れなかった。

 ならば、輪廻で生まれ変わりである東さまと、
「今再び、恋で燃え上がろうぞ。」



 赤い椿に敷きしめられた畳に、布団に寝かされた東を愛おしげに見つめて、頬を触れる。
 真っ白の単衣に着替えさた胸元も触れる。
 若く、皇子の東はなめらかな肌をしている。
 眠っていても気品がある。
 どんな女も東に惹かれることだろう。
 八尾比丘尼も単衣になり、髪を隠していた布を取れば、うねる美しい長い黒髪は気品の上に色気を醸し出す。
 東に覆いかぶさり、見つめて、眠る東に口づけをする。

 女性自ら深いキスをされるのはプライドがゆるさない。
 東から八尾比丘尼に舌を情熱的に絡ませる。
 
 それは、前世でなしえなかった望みを叶える行為でしかない。
 前世の記憶を蘇られるこの異界での影響だとわかってる。

 息を継ぐために唇を離すと、東は悲しげに微笑んで、

「…ごめん、君と恋に落ちることはできない。
 今の僕は、皇族に生まれたなら、皇族らしく、人の見本であるのが努めだから…」

 東は前世は前世、今世は今世と割り切っている。
 八尾比丘尼を愛おしいと思うのも前世で、東の人生には不要なものだった。

「私はあなたを好いて、思って生きてきたのに…待っていたのに…」
 今にも泣きそうな顔をする美しき八尾比丘尼には涙があふれる気配はない。
 美しいが怒ってるようにしか見えない…哀れなあやかしだ。

「……君が思ってるほどいい男じゃなかったんだよ。
 前世の僕は…今もだけど」

 好きな女のために人生を捧げられるほど深い愛情を持ち合わせてない性分だった。
 ただ、心残りだったから、手紙を送っただけだ…

「結局自分勝手な人間だった。
 そんな魂に今度は勝手ができない宿命の枷に繋がれた人生に生まれ変わってしまったんだよ」
 そう、東は悟る。
 
「それにね、最近は思うんだ。
 枷にはめられた範囲で与えられた恵みのみ自由。
 それは人生の終わりもそう。
 生きている限り自由で環境の枷で生かされているんだよ」
 まるで、説法のようだなと思いながら八尾比丘尼にいう言葉ではないなとも思う。

「私は生かされ続けられるだけはもういやなのです……」
 泣けない八尾比丘尼は、東の胸に顔を埋めて訴える。
 声はかなしげで泣いている。
 でも熱い灯火は灯らないから涙は流せない…辛い。
 涙は心の辛さを緩和させてくれる作用があるのに、胸にこもるばかりで辛い…
 その辛さが伝わり、東は哀れに思い頭を背を、優しく撫でる。
 宥めるように優しくされれば、結ばれないなら尚更辛い。

 寂しく辛い…
 愛するものばかり自由を謳歌して、死に行く…
 見届けるだけ……
 元は人でも海に住むあやかしの属性だからか涙が溢れないから、心にこもる。

 優しくされると東を愛しく思う。
 前世も今世の魂も愛した男そのものだから……
 ずっと待っていた焦がれてた人だから
 自分のものにしてしまいたい…
 私一人だけの愛しい男したい。
 八尾比丘尼は、自分の腕を食い破る。
 ぶちりと破けた腕の血肉を見て東はぞっとする。

「ずっと、生かされ続けられるならともに、あなたも…」
 滴る八尾比丘尼の肉を東の口に押し付ける。
 八尾比丘尼は血が滴る唇を微笑ませているが、目は笑ってない。
「同じあやかしになれば、枷などはずせるのに…!」
 怒りを吐き出すように言い、無理やり血肉を食わせようとする。
 
「東殿下!!」


 障子をバンッ!と瑠香は勢い良く開けると、臣がいつも懐に持っている小刀の大きさの桃木の木刀を気合を込めて振るとあやかしを斬る風が、八尾比丘尼の背中を斬った。
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