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あやかしと神様の恋の枷

6☆阿闍梨と八尾比丘尼の記憶

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 ついに夏休み前日、終業式になってしまった。

「早く、瑠香くんと仲直りしなさいよ!」
 久美は事情を知ってるから怒る。
「う、うん…」
 もう、あの時の感覚は薄くなったのに、ギスギスした関係が深くなって、そっちのほうが今や困ってる。

「あんたたちは人を羨ましがらせるバカップルのほうが丁度いいんだから!」

 カップルじゃないけど、前の関係に戻りたいと葛葉子は思っているのは確かだ。
 だけどきっかけがないと無理だった。
 そのきっかけすらつかめないでいまに至る。

「ありがとう……久美。
 心残りといえば、いろんなお店教えて欲しかったよ。
 喫茶店にも行きたかった…」

「心残りって、言わないで、ずっと友達なんだから!」

 もう違う学校行くと知らされてるから別れがたい。

「今日は友達と遊んできていいよ。葛葉子。」
 東から許可がでたのでクラスの仲良しみんなで街に繰り出すこと急遽決定した。
 良い気晴らしになればいいとの計らいだ。

「東殿下も一緒に行きましょう!」
 女子たちが群がる。

「面白いミステリースポットがあれば行くよ?」
 もう、このクラスでは東の悪癖は知れ渡り受け入れられていた。

「うーん…探しておきますね!」
「楽しみにしているよ」

 女子たちは葛葉子を連れて遊びに行ってしまった。
 それを見送って、東は部下二人に予告する。

「瑠香と臣は八尾比丘尼の現れそうな場所さがしだからね」
「はい…畏まりました」
 瑠香はそういいながら、楽しく女子たちと出かけていった方向を眺める。

「葛葉子のこと気になる?」
「はい……でもたまには葛葉子のしたいようにさせてあげたい…東殿下が羨ましいです。」

 葛葉子の行動範囲や行動を決める権限は中務の宮である東にある。瑠香にはない。
 東を守る同じ部下だから。
 眷属として使えるといえど今は無理だった。
 普通の会話すらできてない…

「アハハ。そう言われると気分がいいね。」



 夏休みの計画として、まず始めに八尾比丘尼を探そう!という計画を東は、説明する。

 八尾比丘尼が訪れた場所は椿が咲き誇ってるらしいよ。
 八尾比丘尼自ら植えたという伝説がたくさんある。

「夏に椿ですか?」
「沙羅なら咲いているけどね」
 東が探して求めている目印は冬椿。
 夏は白い花びらの椿、沙羅と言われている。

「なんで、そんなに八尾比丘尼にこだわるのですか?」
 葛葉子はたずねる。
 最近になって八尾比丘尼の話題をちらほら入れてくる。

「君たちには、
 信じてもらえると思うけど、八尾比丘尼と出会ってから阿闍梨としての記憶が蘇ったんだ。」

 川で足を滑らせ川に沈んだところを、尼の格好をした美女に助けられた。
 体調が戻るまで八尾比丘尼と二日すごした。
 そのときは、自分は…自分じゃない感覚。
 前世の阿闍梨になる前の少年のような感覚だった。
 感覚は少年だったけど、阿闍梨になった人生まで物語を読む感覚で蘇った。
 前世でその年には尼に恋をしていたことがわかった。

「子供だったから良かったよ。今だったら関係持たされてたかも……」
 と苦笑して
 僕を心配してくれる人たちが心配で椿生い茂る尼寺をでた。
 八尾比丘尼は
「いつかまたお逢いしましょう。そのときはきっと……」

 愛し合いましょう……

 川の流れが激しくて皆を心配させてしまって、テレビでも話題になるほどだったけれどひょっこり無事に帰ってきた事件を起こした。

「僕の前世の記憶を辿ると、阿闍梨は幼いながらも、助けてくれた彼女のことを好きだった。
 修行の旅にでて、そっちのほうが楽しくなっちゃって、女である八尾比丘尼にあうことはできなくて、心がすれ違ってしまって、時もすれ違ってしまってそのまま会えず、恋は終わってしまったはずなんだよね…今の世でもよくある男女の話だよね?」

 ちらりとわざと、葛葉子と瑠香を見る。

(ま、まだ、終わってないですし…)
 瑠香は少し焦る。

「ということで、最近夢の中で彼女がよぶんだよ。」
 今日も見た夢のことを思い出す。
「彼女は僕のことをまだ好きみたいなんだよね。」
 一旦、お茶を飲んで喉を潤す。

「東殿下も八尾比丘尼を好きなの?」
「分からない。好きだったのは前世のことだからね。」
ニコニコ微笑んでいう。
自分と前世は違うと割りきっている。
「今の世で好きになっても結ばれるはずないのに毎晩毎晩このごろ僕を呼ぶんだよね。」

 少し不服そうに頬をふくらませる。子供みたいだ思わせる。
 ふだんなら、ニコニコ笑顔で感情を表さないけれど、心許している護衛で部下で学友の前だから表情が豊かで、その心許されていることが三人は、光栄で嬉しい。

「だから、呼ばれるなら、こちらから探してあげようと思ってね。」
 ニッコリ微笑んで、

「こんな楽しい人生にしてくれたお礼も言いたいし。ほんとに助けてくれたのかも今や夢みたいなものだから確かめたいしね」

 オカルト好きな変わり者の中務の宮としてはこっちが本心だ。
 不思議なものは大好きだし見たいし調べたいし、そのことで困っているなら人助けをしたいというのは阿闍梨の記憶の性か己自身の趣味か…
 とにかく、この計画を楽しみにしているというのは伝わる。

「君たちみたいな不思議な力を持った者たちが護衛なのも心強いしね!頼りにしてるよ」
「はっ!有りがたき幸せ」
 頼りにされるのも、嬉しい。

「それにね…僕の記憶ではすれ違っていくのは辛いことだから後悔しない人生、恋をしたほうがいいよ。」
 二人を見て言う。

「まぁ、これは僕の経験じゃないから、厚みはないけどね。」

 いつもラブラブの二人を見てそう思ってた。
 いいかげん、仲直りして欲しくて釘を差した。

 八尾比丘尼とは前世でもそんな気持ちなって別れてしまった。

 ずっと、すれ違った思いを持って。あの人は生きてきたのかなぁ…
 それは八尾比丘尼に聞かなきゃわからない事だけど…
 前世のことを、東は思いを馳せた。
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