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あやかしと神様の狐の嫁入り

2☆審神者と萩姫狐の心

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 少し熱気を帯び始めた朝方、葛葉子はこの時間にいつもキスを強請るのに来ないことにしびれを切らした瑠香は、となりの葛葉子の寝ている部屋に入る。
 昨日、意地悪言ったことを気にしているのかとも思った。
 少し悪い気がして、どうせ朝早いのだから出来る限り一緒に勉強しようとも思っていたが……

「今日はしなくていいのか?」
「な、何をすると、言うのですか?」

 なぜか、ぎごちない言い方だし、肌掛けを被ってこちらを向かないし。
 本気でふて寝していると思った。

「オレから言わせたいのか?」

 瑠香は少し困った表情をするが、アイデアを思い付き不敵に微笑む。
 覆い被さってるなら、はぎ取るまでだ。

「それっ!」
 勢い良く剥ぎとった為、葛葉子の体は転がる。
「キャッ!」
 剥ぎとっても更に丸まってふるふる震えている感じで腕で顔を覆う。

「な、何をするのですか!?」
「だから、キスに決まってるだろ?」
 いつもの売り言葉に買い言葉の雰囲気になったと嬉しく思うが、

「キスとは?何ですの?」

ですの?

 なんか、言葉遣いがおかしい。

「こっちを向け。くちづけできないだろ?」
「い、嫌でございます!破廉恥な!」
「はれんち?」

 スケベとは何度もいわれたが破廉恥!は初めてだ。

 面白くなって苛めたくなる。
 頑としてこっちを向かない葛葉子に男の力でわざとこちらに向かせる。
 上半身を覆い被せて、いつものように手首を掴んで離さない。
 もっと逃げられないように指を握りこもうとするが、拳を作って阻止された。
 こんなに拒否されるとは正直傷つく……
 先に傷つけたの自分のは方だけど……
 お互いに瞳を見つめると葛葉子はビクリと緊張した。

 そして、瑠香が掴んだ手首はだんだん細くなり皮膚に獣毛の感覚。
 瑠香はぎょっとする。
 日に当たると獣から戻れなくなる。
 と葛葉子自ら言っていたことを思い出す。

「だから、早くキスをしろと言っただろ!」
 瑠香は焦った。
 仮の契約をしているから多少の時間は大丈夫なものだと思っていた。

 それでもキスを嫌がる葛葉子の頬を両手ではさみ固定して真剣にキスをしようとした時、

「あーっ!瑠香が浮気してる!」
「浮気?」
「それ、葛葉子じゃないぞ!狐だぞ!」

ボムっと!

 煙が出ると着物を着た狐が現れた。
 白狐で神秘的な目の周りに葉っぱの様な紅が指してある。

「バレてしまっては、正体を明かさねばなりません」

 【見たなの法則】というものがある。
 あやかしでも神でも正体をバレると本当の姿に戻るというものだ。
 しかも、神の化身にバレては効力は即効切れる。見つめられただけでも変化の術が切れそうになった。

「お前は何者だ?」

 瑠香は狐の足を離さず掴んだまま笑顔で凄んで、萩姫狐は本気で怯える。

「動物は優しくしなくてはダメだぞ!瑠香。葛葉子が言ってた!」

 そう言われて、取り敢えず、手は離すが、審神者の瞳を煌かせ、一瞬足りとも目を離さない。
 狐の姫で、結婚が嫌で出てきた?
 では、葛葉子は?

 萩姫狐は堪忍して泣きながら話す。
「私の代わりに結婚することになっております。」
 そして、私の呪術はその時に行動するパターンも入れ替わるというものでした。
「まさか、陰陽寮が葛葉子殿の棲家だと思わず……
 しかも、神の化身二柱もいらっしゃるなんて、恐れおののいていたのです。」

「でも、正体がバレたら契約は無効だろう?」
 さっさと葛葉子を開放しろと思う。
 萩姫狐は首を横にふる。

「契約した内容はテストが終わるまでなので、今はお山を越えた先に輿入れされている事でしょう……」

「あのメギツネ!なんて契約をしてるんだ!」
 心配のあまり瑠香は怒鳴る。

「いえ、むしろ、私が無理やり交わしたのです。それ程嫁ぎたくなかったのです」

 お互いのやりたくない事が理が一致して呪が結ばれたらしい。

「向こうでもバレたらどうするんだ?」
「同じ狐なら誰でもよろしいのではないでしょうか……
 嫁がわたくしでなくも………」
 萩姫狐は悲しげに俯いて言う。
(あの方は私を好いていたわけでもないし、私もあの方を本気なのかわからなくなった)
 瑠香は警戒のあまり萩姫の心を読み腕組んでため息を吐く。

「オレは葛葉子以外の女は認めないけどな。」
 そんな自信たっぷりな瑠香に苦笑して、
「葛葉子が羨ましい。でも葛葉子はあなたが思うほど思ってはいませんよ」
 図星を突かれてムッとする。

「これからだんだん好きになって貰えればいい……」
 けれど、だんだん思いが募っていくのは瑠香の方だった。
 好きなのに、自分の思いほど振り向いてほしいというのはわがままなのだろうか……

 一人考え事をしている、萩姫狐も瑠香の考えを読んで自分の思いと少し似ていると感じた。

「とりあえず私と葛葉子の契約を解消させるには、テストとやらをうけさせてくださいませ。」
 もしかしてこの狐はテストというものも知らないのかもと思った。
 勢いで葛葉子と入れ替わったなと感じる。
 勢いがあるくせに臆病な白狐なのだろう……

「そういえば、お前は日の光を浴びても大丈夫なのか?」

「由緒ある神狐なら大丈夫ですが?普段人には見えないし、あまり昼には活動はしないだけで……」
「そうなのか……知らなかった」
 葛葉子は白狐と契約してあやかしになったのだから正式な神狐とも言えない。
 ほんとうに『あやかし』であり『白狐の神狐』に憑かれた人間。

 そのために太陽に弱く儚い存在になったことを思うと胸が痛く、葛葉子がそばにいないと思うと何故だが苦しくなる。
 最近はそばにいると思うからこんな思いを感じなかった。
 あやかしになった葛葉子と再開し少しの間離れたとき以来の苦しさだ……

 早く葛葉子を助けに行きたいと心が焦るのだった。
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