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あやかしと神様のお山修行

1☆二人きりの山修行

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 六月梅雨入り前。
 自分の未熟さを実感した瑠香は葛葉子とともに山で修行することにした。
 修験者の衣装を着て、錫杖を持つ。
 陰陽師といえど、修行するなら格好からというポリシーを瑠香は持っていた。
 葛葉子にも同じ格好をさせた。
 それに山は登るだけでも霊力は上がるし、幼い頃から神の依代と言っても、陰陽師、香茂家の威信として霊力を高める修行をさせられていた。
 葛葉子も阿倍野家で巫女修行をして瑠香と同じ環境にいたから不平はない。
 むしろ今の葛葉子にとっては楽しいピクニックだ。
 狐に戻ったら山を駆け回ってみようと楽しみにしている。
 内掌典さまには文でお許しを頂いた。
 瑠香も伝統衛士の仕事の自分のシフトの夜の見回りはしっかり滝口臣に任せることにして、一泊二日のお山修行に旅立った。

 目的は狐を従える呪法の札を手に入れる事。
 陰陽寮長の父曰く、山の祠にある仏の札を手に入れれば、白狐の葛葉子に対しての審神者として力を操れるはずだということだった。
 さらに、神を見定める審神者としては蓄積した歴史の呪力を探ることも重要だと改めて思う。
 それは、陛下のためでもあるからだ。
 というのは正直言って建前で、
 白狐の葛葉子の妖力を抑えきれなかったことがとても悔しかった……
 いや、情けなかったからだ。
 香茂家の能力と神の依代で審神者という三つの力を特別に持っていることを過信しすぎた。
 瑠香は神の力と審神者を瑠香は連動して使うことがあるが、ルカの親神は意地悪をする。
 人の身である瑠香を試すことがある。
 力をもっと貸し与えてくれれば、簡単に鵺を倒せたかもしれないのに、半分以下しか力を貸してくれなかった。

 それは、《己の甘さを悔いろ》と言っているのだ。
 審神者だからルカの神の忠告だって聞くことができるのに、何も言わず試練を与える…意地悪だ。
 それに、葛葉子との幸せな未来を見せたのもルカの神だ。
 なんの意図があるのかわからないがその未来を実現させたいとも思わせる。
「いや、実現したい…させてやる!」
 と密かに言霊に出して自分を鼓舞する。
(本気で葛葉子を可愛いと思ってるから……)
 手を出して自分のものに,自分だけ見ていて欲しいと、再開してその思いが毎日募って逆に辛い……
(頭の中が葛葉子にしたいやりたいことだらけで一日中埋まってしまう…これではいけないのだ…煩悩を捨てねば….)
 と、葛葉子に会う前のクールビューティーの自分に戻りたいとも思うほど煩悩に追い詰められていることは,同じテレパシーを使える父の陰陽寮長のみ知る。
「山にでも行って札を取りに行くついでに煩悩を捨ててこい,バカ息子」
 と、ありがたい命令だった。
 だが、煩悩の原因である葛葉子も連れて行くとは…と、呆れられた。
「煩悩を遂げるなよ……可愛いバカ息子でも容赦はしないからな…」
 と鋭い殺気を帯びた瞳で睨まれ本気の脅しをされた。

☆☆☆

 朝早くから登りやっと昼になったばかりで山を半分登っていた。
 瑠香も葛葉子も流石に息を切らせて山を登る。
「葛葉子、大丈夫か?キスするか?」
 葛葉子が陽を浴びても大丈夫のようにキスをしたが魔法が切れないか,わざと心配する。
「キスは大丈夫だよ…でも……」
 虫が葛葉子の周りを飛んでいて不愉快そうだった。
「なんで、お前だけ刺されないんだっ!」
「虫除けのお香を身にまとってるからな。うらやましいだろ?」
 よくみると、瑠香の周りに煙がまとわりついていた。
「わたしにも!そのお香を分けてくれ!」
 葛葉子は、イラつきながら懇願する。
 分けることはできるが、それではつまらない。
 葛葉子の腕を引っ張ってそっと、抱き寄せる。細い腰を支える。
 そして、葛葉子にも煙を纏わせる。
「これで、お前も蚊に刺されないだろ」
「う、うん。」
 顔を赤くして、瑠香に寄り沿いながら山を登る。
(瑠香のそういう優しいところ、側にいてくれるところが好き…かも…)
 恋心とは違う素直な気持ちだ。
 テレパシーで心を覗くとそうと思ってるらしく、もっと葛葉子を愛しくおもう。
(わざと意地悪してるのに…この、かわいい女狐めっ!)
 と内心萌える。
 葛葉子を連れてきたのは邪魔が入らず、なおかつ不自然に思われずベタベタしたいだけかもしれない。
(こんな、煩悩だらけのままじゃ修行にならないな…)
 瑠香は自分の愚かさに溜息を密かに吐いた。

 ぽつぽつ、ザーッ!

 と、突然雨が降ってきた。
 山の天気は変わりやすい。
 とりあえず、近くに洞穴があったので一休みだ。
 とりあえずリュックの中の非常時用の焚き火をセットする。

「葛葉子、寒くないか?」
 梅雨入り前で暖かくカラッとした天気がつづいていたため、少し薄着だったかもと後悔する。
「うーん。寄り添っていれば、寒くないでしょ?」
 何気なく瑠香の腕に葛葉子の腕を絡め寄り添う。
 瑠香の肩に頭を寄せてくる。
 その行為は自然で当然のことで懐かしい感覚に感じるが、その感覚よりも……
(かわいいし、愛おしいし、どうにかしてやろうか!)
 と完全な青少年思い体がその場で固まる。
「うーん……」
 瑠香は考え込む。
 それが煩悩だというのに、葛葉子は実は煩悩の修行を強化させるために仏の神が遣わした女狐なのではと思ってみても、ルカの親神が、
《お前が連れてきたんだろ…》と冷静に審神者である瑠香にツッコミを入れる声が聞こえた。
「うーっ…る、瑠香…」
 ぎゅっと、葛葉子は、さらに腕を絡める。何かに怯えてるように。
「どうした?」
「なんか嫌な空気を感じないか?」
 葛葉子は怪訝な顔をし、耳がすでに狐になっていた。
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