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10☆鵺

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「ぅぅぅゔぅ……」
 不気味な唸る声がぐるぐると空間が回るように響き渡る。
 声が止まったかと思うと、ガサっと晴房の背後の木々が揺れて巨大な人のような真っ赤な皮膚した巨大な顔が闇から現れる。
 丸い金に光る瞳に真っ黒の瞳孔が一周ぐるりと回って晴房をじっと見つめる。
 晴房は後ろを向いているのでわからないが、その様子を間近で目撃した瑠香と葛葉子はゾッとした。
 その顔は鋭い牙の生えた口を大きく開け晴房を飲み込もうと顔を林から勢いよく出して襲いかかる。
 咄嗟に、葛葉子は晴房を抱えて、化物の口から晴房をまもった。

「痛っ!」
 
 葛葉子の腕から牙が腕にかすった時の傷が流れた。
「お前、大丈夫か?痛くないか?」
 晴房は葛葉子の傷を心配する。
「大丈夫だよ。ありがとう」
 葛葉子は感謝の気持ちを込めてぎゅっと晴房を柔らかな胸に抱きしめた。
 晴房は血の繋がりを感じてぎゅっとその胸に顔を寄せた。
 母から当然のように本当ならもらえた柔らかさから慈愛を感じた。
「それより……」
 化物からかなり距離を取る。
 木々の暗闇から、巨大な顔に虎の足が現れ、だんだん闇からその姿を表す
 頭は猿、手足は虎、体は狸の尾は蛇、体長三メートルほどある鵺という化物だった。

「襲われた獣たちの体が集まってできてる……」

 葛葉子はそのバケモノを見てそうつぶやいた。
 さっき、死んだタヌさんの尻尾に似ているし、虎といっても消えたトラ猫さんだ。
 東の方位では蛇が一匹消えたとか聞いたし、猿は、宮中にはいないので元の媒体かもしれないと思う。
 得たいのしれない化物……
 それを昔の人は『鵺』といった。
 そんなバケモノが近頃宮中の獣を襲っていた犯人だったのだ。

「こんなあやかしハルの力なら!」
 小さな手を鵺にかざせば光の粒子が集まるはずなのに集まらない。

 晴房は神の無意識に力を使うが、瑠香に先ほど封印されて使えない。

 「このっ!」
 と葛葉子も狐火を出そうとしたが、やはり審神者の影響か大量に出てこない。
 二人は瑠香を睨む。
 気配を消して様子を窺っていた瑠香は、
「オレがやればいいのか?」
「当たり前だ!」
 瑠香はやれやれと言った感じで余裕だった。

 瑠香は体から煙をゆらめかす。
 重いお香の匂いが漂い、葛葉子を捕らえたような大きな揺めき現れる。
 このような形を取るのは、暴れん坊の晴房を捕まえるのに便利だったからだ。
 代々血脈に繋がる不思議な呪力を神の依代の力に乗せて使う。
 すると、晴房が狸を消した時のような光の粒子が神々しく夜闇に輝く。
 瑠香の力は基本、悪さをする神を見極め封印する審神者の力と香茂家独特の異能の力。
 瑠香の場合は香を、煙を出して操る力を授かったが、父は紙を操る力を持つ。
 先祖は『宇宙人』ではないか?という言い伝えが正しければ、この力に不思議はない。
 不思議な能力のもう一つもそれを促す力もあるのだが、その力は今は使っても意味がない。
 瑠香の瞳は審神者の証である青い瞳を煌めかせ、自らの手を伸ばし光の香の巨大な手を操り鵺を簡単に捕らえた。
 光の香は晴房の力と同じで『生命あるものを消滅させ御霊のみにさせる』
 御霊は生まれ変わることになる。
 あやかしは幽霊と違い肉体生命があるといわれているが….
 瑠香の顔色が曇る。
「こいつ、生命も、御霊もない!」
 生命がなければ霊的に生まれ変わらせる力は無意味だった。
「それならば握り潰すのみ!」
 ぐぐっと、鵺を握りつぶすように具現化した巨大な手のひらを操るが、鵺は力強く、巨大な手のひらは鵺に破かれ散り散りにされた。
「グァっ!」
 瑠香の手のひらから大量の血が噴き出した。
 指もおかしな方向に曲がっている。
「瑠香!」
「瑠香!だいじょうぶか!」
 余裕の様子の瑠香を信頼していた二人は予想外の結果に驚き怪我を負って悶える瑠香にかけよる。
 晴房は瑠香に手をかざしできる限りの光を集める。
「まさか、オレを消す気か?」
 瑠香はぞっとする。
 神の力を封じたとしても、晴房は神の化身そのものの生まれ変わりなので少しの力は使えるようだ。
「違う!逆だ。なんか知らないけどできるようになった!」
「私の傷も治してもらったよ」
 葛葉子は傷ついた腕を見せて綺麗に治っているの見てホッとしているうちに瑠香の手は綺麗に治っていた。
「よくやった。よく成長したな!」
 その手で晴房の頭を撫でる。
「この女のおっぱいが柔らかかったからそこでなんか新たな力の使い道が生まれたんだ」
 えへん!と晴房は胸を張る。
 その意味のわからない開発に葛葉子は胸を押さえて顔を赤くする。
「……オレも葛葉子の胸を揉めばその力は得られるのかな…試してみようか?」
「な、ど、どすけべ!ふた柱め!そんなアホなこと言ってないで!」
 鵺は殺気を込めてこちらを睨み突進してきた。
 三人はとっさに避けるが、
「うわっ!へびがっ!」
 晴房は鵺の、尻尾の蛇に胴体を巻きつけられて威嚇されてビビる。
 晴房はとらえられてしまった。
 鵺は何を思ったか、動きを止めて空を見て止まり助走をつけて飛ぼうとしている。
「まさかっ!」
 葛葉子は素早くかけて飛び跳ねて、鵺の頭にの飛び乗って髪の毛を引っ張る。
「行かせないんだから!晴房を離せ!」
 鵺は頭の上で暴れる葛葉子を虎の前足ではらおうとする。
 猿の手なら簡単に取れたかも知れないが、虎の足では難しいようだ。
「よし、また縛り上げて、朝日が登るまで縫いとめてやる!」
 瑠香も再び手がもし、なくなったとしてもチャレンジする。
 あやかしとの戦いなんて今日が初めてで、非現実的なことでありながら、自らの力も神の力も審神者の力もこのようなものを抑えるためにあると思うと興奮してきた。
 審神者なのだから陛下の庭であやかしを入れたのは不名誉だ。
 審神者のプライドにかけてこの化物を倒すと強く思う。

 さらに実感として、晴房の力みたいにすべてを消す事は自分にはできないと確信した。
 晴房は破壊的な力だが、瑠香は受け身な力だ。

 ただ今できるのは……
 鵺をとらえて、動かさないようにする。
 このまま……
 朝日が来るまで待つしかない。

 瑠香は己の持つ故に過信していたのだ。
 持っていたとしても、所詮だ、非力だ。

 非力だからと諦めるつもりはさらさらない。
 この化物を抑えるだけではなく、早くに消す方法はないだろうか?

 一発で浄化させる、やっつける力なんか自分には無い…ないのならば…出来ることをするのみだが……
「そうだ…」
 人の身ではない、あやかし者を使うことはできるのではないだろうか……?
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