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6☆恋の呪い(まじない)

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 葛葉子は、一瞬何が起こったかわからず時が止まる。
 瑠香もハッと気が付くと顔を真っ赤にして葛葉子から離れる。
 香りに誘われた…そう言い訳しようかと思ったが、心から葛葉子がかわいいと思ったのも事実だ。
 葛葉子は気が付くと瞳を潤ませ青ざめる。
「巫女にくちづけるとは、け、穢がつくわ!いや、ついたわ!」
 思いっきり腕でゴシゴシ汚れを落とすように拭う。

「傷つくな……」

 瑠香はぽつりとつぶやく。
「初めては陛下からもらう予定だったのに!」
 それは無理があるからと瑠香は思う。
 神狐との誓いといえど、不敬だ。
 葛葉子を見ると耳と尻尾が消えている。
「元に戻ってる……」
 一目ぼれした巫女そのものに戻っていた。
 葛葉子は気が付かず怒っている。
「なんで!キスをしたのだ!しかも口に!」
「そのおかげで、人に戻っているぞ?」
 瑠香は葛葉子の耳と尻尾があった場所を指し示して言う。
「え?」
 確認すると尻尾も耳も消えていることに驚く。

「陛下の口づけじゃないと元に戻らないはずなのに……何者だ?お前……」

「神の化身で審神者だ」
 審神者は神の力を審査し力を抑えるもの。神の意思を伝えるもの。審査するもの。
 宮中においては清庭(さわにわ)皇居を清め守る者。
 今は荒ぶる神の力を抑える力のほうが中心だ。
「審神者の力が作用して人に戻れたのかもしれない。」
 けれど葛葉子の中にはまだ狐の力は内に感じる。
 この封印は一時的だ。
 神の化身で審神者の役割は晴房を監視するため皇を守る神から力をいただいた。
 もちろん陛下を一番に思っていなくてはできない。
 幼い頃、陛下、殿下にお目にかかり、即決で神の化身と審神者になる事を強く望み決めて、今に至る。
 その話を葛葉子は聞けば納得がいく。
 瑠香は家系だけではなく神に近い稀なる人。
 自分と同じ同志でもあるなと葛葉子は思った。
 同志といえど、唇を奪ったことは許せない。
 「お、お前は、初対面の女子に誰にでもキスするのか?」
「葛葉子が可愛いと思ってしまったら行動していた。お前にしか欲情しない」
 悪気も謝る気もなくそう淡々と瑠香は告げた。
 瞳は本気でもう一度キスをしそうな雰囲気をにじまされて戸惑う。
「か、かわいいだと⁉︎さらに欲情って!」
 真っ赤になって口をパクパクさせる。
 可愛いといわれたのは父以外初めてで、うれしいより恥ずかしい。
 それに加えて欲情なんて平気に口にする危険なやつだ。
「もう、私に近づくな!お前は危険だ!変態!」
 葛葉子は顔も真っ赤にして威嚇する。
 後退りするが、瑠香はぎゅっと葛葉子の手を素早く握り離さない。
「お前の狐の呪いは解けたが、オレの呪いは解けていない……」
「私は、瑠香に呪いなどかけた覚えはない」
「お前に恋の呪いをかけられた」
「はぁ⁉」
 そういう瑠香の瞳はが星が宿ったようにキラキラして熱を帯びている。
 瑠香も世界がうつしい物だと胸が躍るほどふわふわな幸せ気分である。
「神に恋の呪いをかけるとは、さぞかし力のあるお狐さまなのだろうな……」
 本気で惚れているのかキリリとした顔がゆるんで見える。
 瑠香も自分自身も、なぜだが恋に急いていると思う。
 今すぐ結婚して一緒になりたい勢いなほどだ。

 今はその理由が分からなかったが、のちに分かれば良き判断だと思うことになる……
 
 だから瑠香は恋心の焦燥感で葛葉子に、またキスをしようとする。
(一度したら二度も同じだ…いやむしろもっとしたい……)

 パシン!

 と、瑠香ゆるんだ顔を葛葉子に引っ叩かれた。

「このキス魔が!近づくな!」

 葛葉子は興奮してまたきつね耳が出てしまう。
 
 これは、やっぱり、陛下のくちづけでないと解けない呪い(誓)なのだと改めて実感した。
 けれど、迫る瑠香にドキドキときめいてしまったのも事実だった。

「今日は犯人を捕まえてやろうと思ったのに、力も半分消えてしまったし!もう帰る!」
 まだ握る瑠香の手を乱暴に振り解く。
「帰るってどこに帰る?」
「一応……内掌典の寮に部屋はもらってある……巫女として獣の穢で失格だがな……」
 葛葉子は自嘲していった。
 その顔は寂しそうで今にも泣き出しそうだった。
「巫女仲間も自分には近づかない…獣神は神ではランクは下なのだ。神の『眷属』なのだから。」

 眷属が確定すればあやかしではなく神使いという神の代行者にもなれる。
 朝を怖がることもない。
 ただの獣になることもなくなる。
 と、あやかしの四神の仲間が教えてくれた。
「お前は、誰かの眷属なのか?」
「祝皇の眷属になるのが望みだ。だから正式に寿ぎがほしい……」
 瑠香は葛葉子が意地でも陛下の口付けが欲しいだけなようにも感じる。
 陛下の口付けをもらえれば、見下す巫女にも見返すこともできるだろう。
(それで、あわよくば、側室でも狙ってるのか?絶対に無理だと思うが……)
 祝皇は神の化身に守られるほどの尊き方だ。
 眷属にするかしないかは別だか確かに口づけ一つで人に戻せるかもしれない。
 それほどの強い神気を宿していらっしゃる。祝皇になられたならば尚更だ。
 瑠香はハッと閃く。
 顎に指を当てにやりと葛葉子にバレないように微笑む。

(まだ、誰の眷属になってない神狐か……ならばオレの眷属にしてしまおうか……)
 そうすれば、こんな悲しい顔をさせることなどないのに……
 瑠香はまた無意識に葛葉子の頬に触れようとしたら、ガブ!と指先を噛まれる。
「っ!噛むことないだろ!」
「噛むようなことしようとするのが悪い!」
 うーーっ!と二人威嚇しあって、プッ!と笑いあう。
(あ、なんか楽になった……?)

 葛葉子は久々に瑠香と話せて気分が楽になったと気がつく。
 胸がトクトクワクワクする感じがした。その胸を葛葉子は無意識に抑える。
「あーあ、狐の力も半分になって飛んで帰ることも出来なくなってしまった….」
 ぴょんと飛んでも人が飛ぶ普通の高さしか飛べなかった。体が実態を持って重くなった気がする。
「じゃ、送ってやろうか?」
「狐は狼は苦手じゃ!」
 また襲われるかもしれないと思うと警戒する。
 葛葉子はべーっ舌を出し駆け出していった。
 瑠香はその後ろ姿を名残惜しく見送りながら、任務を続行し、晴房が待つ陰陽寮に帰った。
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