あやかしと神様のジジ様の物語

花咲蝶ちょ

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明綛の事

桂と薫と野薔薇の異界探検★まとめ★

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1☆親戚集まるお正月
 お正月の一月三日に香茂と阿倍野の親戚みんなが集まる。
 空気は一月なので寒いが晴れやかで健やかな新年だ。
「野薔薇ちゃん!あけましておめでとう!今年もよろしく!」
 桂と薫は同時に声も高らかに挨拶をした。
 二人とも日和のお正月らしく紋付袴だった。
「あけましておめでとうでつ!桂くん!薫くん」
 野薔薇もお正月用の艶やかな振袖の着物と花の豪華な髪飾りをしてお辞儀をする。
「野薔薇ちゃんすごい!今年も綺麗だね!」
「えへへへっ、ありがとうでつ。真陽叔母さんがデザインして作らせて送ってくれたんでつよ!」
「僕たちのもだよ。香茂の家紋と名前が刺繍されてるんだ、狐の刺繍付きなんだ!」
 紺色の羽織に小狐ぽい白狐刺繍がされていた。
「すごいかっこいいでつ!まるで総長みたいでつ!」
 可愛い狐の刺繍もすごいが、野薔薇は今流行ってる暴走族のアニメを思いつきコスプレみたいだと思って興奮しているのが心を覗かなくてもわかった。
「総長って…」
 野薔薇は手を前に伸ばしてバイクのハンドルをにぎるジェスチャーをする。
「あ、ありがとう…」
 暴力的な不良が嫌いな桂は軽く凹んだ。

 お正月お盆は盛大に盛り上げると言うのが決まったのは桂が生まれてからのことだった。

 本来なら今や香茂家の資産家で本家と言えるお金持ちの兼頼大叔父さんの立派な家ではなく香茂瑠香と葛葉子の家で叔父さん達の生まれた屋敷で新年会を行うのだ。

 桂が生まれる十年前までは仲の良かった阿部野家と香茂家は絶縁状態だったらしい。

 それは祖父である威津那が皇室を呪っていたからだ。
 陰の気を溜め込み、宮中に九尾の狐を仕掛けて反旗を翻すが、それは新たな帝の陽の気を安定させるために必要な行為だった。
 心を闇に沈めてしまったのは確かだが、平和の時代を気づくために必要な宿命だったとジジ様は語った。
 そして、祖父の威津那は、妻である橘と黄泉にいかず陰陽の均衡を保つために特別な異界で神の魂として、鎮まり皇室と一族の安寧を願っているのだと言う。
 そんな二人のためにも陽の気が高まるお正月に最高に盛り上げて目には見えない異界にとどまる阿倍野の二人にも楽しんでもらいたいと言う思いがあるのだという。
 それは桂がもの心着く頃はお正月もお盆もみんな集まってわいわいがやがやと忙しい。

 家主の瑠香と葛葉子は毎年大変だけれど親戚みんな元気で仲良いことは新年早々嬉しいことであり、国歌斉唱して新年を祝うことも楽しみなのだ。
 父の瑠香の叔父五人と母の葛葉子の叔母三人とても元気だ。
 
 香茂の三男の叔父と阿倍野の三女の叔母はかなりの歳の差結婚し、その孫が阿部野野薔薇だった。
 桂と薫と野薔薇は血筋も年も近くお正月だけではなく小学校も一緒で喧嘩もせず仲良しなので姉弟のような関係なのだ。
 もし、桂と野薔薇が結婚するようなことがあったら阿部野家復活と思いきや二人とも好きなタイプじゃないという。
 阿倍野の家の再興はまだまだ、先送りになりそうなことを母の葛葉子は心配しているようだったが、曾祖父のジジ様は「なるようになるしかないの。」とのほほんと構えていた。
 阿倍野の本家再興ということは…

 娘はいつかまた白狐の化身を受け継ぐ器になる事を意味している。
 さらに、危険な運命も伴う…事になる。
 野薔薇の両親はそれは勘弁ということで、本家を継がないのだ。
 まだ幼い薫にいつか再興を願うしかない。
 母の葛葉子がそこをこだわっているのは、生まれ変わった時、また阿部野家と香茂家に生まれ変わり陛下をお支えして、父の瑠香とまた巡り会いたいという壮大でささやかな計画なのだ。
 母の寿命が短いからこその転生へのこだわりだとジジ様は悲しげに桂に諭した。

(気持ちはわかるけど、今を一番に大切にしてほしいな…してるけどさ…亡くなった後の事は考えないでほしい…)
 とモヤモヤする気持ちを桂は抱えるのだった。

2☆冒険のチャンス
 正午には親戚みんな集まって顔合わせして、わいわいがやがや、おせちを食べたりお酒を飲んだり大人たちは楽しく盛り上がっていく。
 異能の能力をもつ、祖父の高良や曾祖父のジジ様は毎年の出し物をこっそり考えてみんなに披露したり、陰陽師の知識で今年一年の運勢を伝える。
 桂たちよりも年上の人生の男女は興味津々で、恋愛相談を快くしてあげている。
 それは母の葛葉子も野薔薇の母の緑も参戦して楽しそうだ。
 年頃のお姉さんたちはキャーキャーわいわいしている。
 去年は桂たちに凧揚げとか教えてくれたお兄さんお姉さんは占いに夢中で遊んでくれそうにないので、桂と薫、野薔薇で外に出て遊ぶことにした。
 夜になったらみんなでジジ様特製福笑いや人生ゲームがまっている。


「わたし!このお屋敷の探検してみたいでつ!」
 野薔薇は瞳をキラキラしていった。
「………また迷子になるぞ」
 すかさず幼い薫に呆れるように言われた。
 野薔薇がとんでもない方向音痴ということをしっているためとんでもないことを言うな…と呆れられたのだ。
「なんで、探検したいの?迷子になるのに」
 桂も野薔薇の迷子に呆れるように困るように尋ねた。
 半年前に屋敷内の中で虫取り大会をして、野薔薇は迷子になった。
 みんなで探して、迷惑かけたのだ。
 探しているのに鬼ごっこや隠れんぼをしているかの如く見つけるのを苦労した。
 天才的な迷子だと親戚に称されてしまった。
「あの時は、変な道に迷い込んで、黒狐様に助けてもらって現世に出れたのでつ!でもその人は出てこれなくて、もう一度その道を探して黒狐様にお礼をいいたいのでつ!いえ、むしろ一緒に現世に出て行きたいでつ!」
 約半年過ぎたこの正月にチャンスが来たので野薔薇は親の目をすり抜けられるチャンスとみて二人に相談をしたのだ。
「また、迷惑かけるんじゃないの?黒狐様に……」
 桂は親戚よりも野薔薇を連れてきてくれたあやかしに迷惑をかけるのではと思う。
「そんなことありません!黒狐様は現世に戻りたがっていたのでつ!」
 野薔薇はムキになって反論した。
「黒狐様は迷子になっているだけなんでつ。私にはわかるのでつよ…この屋敷のどこかに異界の道に続く入り口があるって聞いて…いつか助けてあげたいって、思って…うぇぇえ…」
 野薔薇は何故が胸が詰まって泣き出してしまった。
「野薔薇、泣いちゃダメだぞ。男は女の涙に弱いんだからな」
 薫は率先して涙を小さな手で拭いてあげていた。
「薫、手じゃなくてハンカチじゃなきゃダメだよ」
 桂は綺麗に畳んであるハンカチで野薔薇の涙を拭いて貸してあげたら鼻を噛まれた。
「……うん。それあげる」
 なんとも言えない野薔薇の行動はいつものことなので桂は怒らず現状を飲み込むのだ。
「ありがとうでつ。薫くん桂くん。ハンカチは新しいものを用意して返すでつ。なので、探検つきあってくれまつか?」
 もう、探検をする事は決定事項になってしまった。
「うーーーん……。まぁ、いいか。」
 桂は折れた。
「じゃ、うささんキーホルダーに伝言を頼んで異界探しにいこうぜ!」
 意外としっかり者の薫はそう提案して野薔薇の異界探しに付き合うことにした。
「俺も半妖だから、異界の道を作れるかもしれないってジジ様に言われてるから役に立つと思うぞ!」
 薫は半妖だと言うことを自負している。
「それは心強いでつ。私は多分現世では方向音痴でつけど、異界では道に迷わない自信がありまつ。夢のお告げで誰かに言われたのでつ。それに、『遊びに来てね…』って、初夢で言われたような…」
 野薔薇は昨日見た夢をふと思い出して口にした。
「ま、とにかく異界探検に行きませう!」

3☆即決行動
 子供達だけで広い屋敷、異界を探す。
 異界は人の目には見えないがそこにあるという。
 この世が光だとすると影に入り口があると、あやかしの世界を簡単に行き来できるジジ様が言っていた。
 ジジ様が連れていってくれれば簡単なのだがもう年なので無理をさせたくないという気持ちがひ孫たちにはあった。
 けれど、万が一迷子になったときの保険にうささんストラップ式神にジジ様に伝言お願いした。
 ジジ様は心配性の両親には黙って承知してくれた。
《いざって時にはわしが助けてやるから安心して遊んでおいで》
 と、伝言までもらった。
《ジジ様!ありがとう!大好きだよ!》
 ひ孫三人揃ってジジ様に伝言すると
《ひゃっひゃっひゃっひゃっ、嬉しいのぉ。本当にそう言われるのがいちばんうれしいのじゃぁ…》
 と、式神電話うささんが伝言してくれた。

 ということで、少し正午が過ぎた日の影を探す。
 一番あり得そうなところは大人が通れるくらいの小さな鳥居だった。
 祠もないところに宮中に向けて鳥居が立っているという。
 さらに、昔は香茂家と阿倍野をつなぐ橋があり、阿倍野殿の代理をしていた祖母の橘はここからあやかしを召喚していたという。
「この鳥居の影の中に入ったら意外にいけるかもしれないでつね」
「もっと探検したい!ここの他も探そうよ!」
 あっさり異界への道に繋がるだろうところを言い当てた野薔薇に不服な薫は抗議する。
「異界の中での探検の方が楽しいかもしれないでつよ!それに帰れる時間もわからないでつし早く入ってみませう!」
「野薔薇ちゃんは天性の方向音痴なのに何かを見つける感は鋭いよね。迷子にならないように目印があれば迷子にならないよね…」
「にーちゃん!ちがうよ!野薔薇は目的のものを見つけた後が帰って来れないんだよ、きっと!」
「そっか」
 桂は薫の明快の答えに納得した。
(そしたら,目的の黒狐様を見つけたら帰って来れないってことじゃ……)
「二人とも私の悪口言ってないで早く来るでつ!」
 野薔薇は地面に手だけ出して振る。
 その様子に桂は驚愕する。
 迷いなく入り込んでしまう野薔薇の行動力は知っているがいつも驚かされてしまうのだ。
「にーちゃん!早くいかなきゃ、野薔薇ともはぐれるぞ!」
 薫は本能的に異界の仕組みを知っているのか、狐耳と尻尾を出して、金の瞳でこちらを見る。
「わ、わかったよ!」
 桂は薫に引っ張られて影に足を踏み入れた。

4☆桂の内なる力
 影の中に入ると、真っ暗闇だった。
「野薔薇ちゃん!いる⁉︎」
 薫の手は引いているので無事なのはわかるが、野薔薇が見えない。
 気配もない。
「にーちゃん!野薔薇とはぐれたみたいだ!」
「ええええっ!」
 桂は青ざめ叫ぶ。
 こんな真っ暗闇で異界で野薔薇一人逸れてしまうなんてとんでもないことが起きてしまったと卒倒しそうになる。
 ジジ様曰く迷子になると一生出れなくなるかも知れないと言っていた。
 異界は薫くらいの時にジジ様に連れられウカ様の宴に招待された時以来だった。
 あまり記憶にはないけれど、夜だと異界は月の光が優しく異界を照らし、さらに浮遊する霊のようなものが通り過ぎたり、桂を脅そうと近づいたあやかし未満の存在がジジ様に瞬時に消されていたのを思い出す。
「とりあえず俺、狐火だして辺りを照らすっ!」
 ぼっ!と小さな手のひらから狐火を出しあたりを照らした途端、二メートルあるだろう巨大な半透明のゆらゆらと実態の無いお化けが、歪んだ顔をしてこちらを飲み込もうと大きな口を広げて二人の子供を頭から飲み込もうとして気づかれてピタリと、止まったようだ。 
「うわっ!スライムおばけだ!」
 薫はゲームのモンスターを連想して叫ぶ。
 それは小さい頃見た化け物だと桂は思った。

《小狐がおるようだなぁ…大きいやつに力を削がれたがこいつを食べれば我らは実態を持てるかも知れぬナァ!》
 そういって半透明で白い線だけの不気味な化け物は再び子供達を飲み込めるほどの大きな口を開けて襲いかかってきた。
 桂は人差し指と中指をくっつけて、
「ヒカリハナテキュウキュウニョリツリョウ」
 と唱えると五芒星を素早く描くと光り輝きあやかしを消滅させた。
「ふう、久しぶりだったけど、上手く力使えたかな?」
 桂は余裕だったが、大変な仕事をしたように額の汗を拭く仕草をした。
 普段は使わない内に秘めた力を上手く使えるようにジジ様に教わった。
 更にカッコよく見える能力の使い方をやってみた。
 桂は香茂と阿部野と黒御足の血筋をうまく混ざった桂にジジ様直伝を教わっている。
 能力も申し分ないほど三家の力を受け継いでいる未知の力を桂は秘めていた。
「にーちゃんずるい!俺もやっつけたかった!」
 薫は兄を尊敬するも自分もそのくらいできると自負している。
 薫は生まれながらにジジ様と同じ半妖だ。
 桂のように内に秘めるちからではなく、外見、能力そのもの妖狐である力を秘めている。
 桂もジジ様に能力の使い方そのものを伝授されている。
『わしの伝授したことが形見になってくれたら嬉しいの…そうしたら一生ワシのことを覚えていてくれるじゃろ?』
 と言っている。
「薫は狐火で辺りを照らしてくれてるからね、余計に力を使わせるわけにはいかないよ。でもいざってなったら助けてくれるよね?」
「うん!当たり前だよ!」
 優しい兄の言葉に満面の笑みだ。
「早く野薔薇ちゃんを探そう!」
 兄弟は手を強く繋いで、暗闇の中を歩き出した。

5☆黒狐さま
「か、桂くんと薫くんが迷子になってしまいました……」
 野薔薇の声は戸惑い焦っていた。
 暗い世界だとは想像をしていなかったようだ。
 初めて異界に入り込んだのは夕方ごろ。
 そのために、朝日が昇るように薄暗いが、灯りが照らされていた。
(だから怖くなかったのに……)
 一人になると心細くなってウルッと涙が出て来た。
「うぇっ……どうしよう…迷子でつ…迷子はやだヨォ……」
 いつも陽気で強気な野薔薇でも寂しいのは一番嫌なのだ。
 さらに一人ぼっちで行く道もわからなくて後悔に苛まれる。
「私のバカ!安易なこと言ってこんなことになるなんて!ほんっとばかやろうですぅうう!」
 と、独り言を叫ぶように癇癪をしていると、
「お前は女の子なんだから野郎ではないだろ」
「ふぇ?」
 声がした方を見上げると、頭上に灯りが照らされていた。
 手のひらから狐火を出し、癖っ毛の強い短い黒髪に狐の黒耳黒尻尾を生やした長身の男の人…野薔薇が探していた『黒狐さま』だった。

「まったく…つい、さっき送ったばっかなのにまた迷い込んだのか?」
 呆れた調子で前髪をかき上げて黒狐さまは、しゃがんで野薔薇の涙を優しく拭う。
「ふぇ?」
 野薔薇はまた同じ、言葉にならない音を再び発して首を傾げて黒狐さまをみつめる。
「……黒、狐さま?」
「また、迷ってきたのか?振袖を着てるな……お前の時間では半年過ぎたのか?」
 黒狐さまは顎に手を当てて考える。
「はい!もう半年経っているんですよ!」
 野薔薇は瞳をキラキラさせて言う。
 半年ぶりの再会に野薔薇は感動しているのだが、黒狐さまは複雑な顔をした。
「一時間もしない間に私はお前と再会してしまった……」
「え、そうなのでつか、感動の再会は私だけでつか……」
 野薔薇だけ感動していることにしゅんとする。
「いや、また逢いたいと思っていた…だから嬉しい」
 そう言って、ふっと笑い優しくポンポンと頭を撫でる。

「私もとっても嬉しいでつ!」

 野薔薇は満面の笑みをして、黒狐様の腕に遠慮なく抱きついた。
「で、今度こそ一緒に現世に帰りましょう!私一人だけ、じゃ、なくて……!はうっ!」
 野薔薇はだんだん青ざめる。
「どうした?」
「私、桂くんと薫くんを迷子にさせてしまったんでつ……」
「野薔薇の弟分のすごい従兄弟か?」
「はいっ!現世に黒狐さまを連れて帰る前に見つけ出さなくてはなりません!」
「そうか、その二人も野薔薇のように泣いてるかもしれんからな。早く見つけてやらねばな……」
 黒狐さまは野薔薇を抱き上げて真っ暗な異界を狐の金の瞳に輝かせて辺りを見回す。
 浮遊する形なきあやかしたちは見えるが、迷子の二人の姿はやはり見えない。
 いや、それどころか、野薔薇を再び現世に帰らせる術も実はない。わからないのだ。
 野薔薇を返せたのは野薔薇の異界を迷いなく歩ける能力のおかげだが、なぜだか黒狐さまだけ弾かれこのまま彷徨っている。
 理由はわかる。
 神誓いを失敗したせいだと……
 だが、幼い野薔薇にその事を告げてもわからないだろうと思い黙る。
「黒狐さま…?」
 不安な顔をしてじっと野薔薇はこちらを見つめてくる。
 これ以上不安にさせてはいけないと思う。
「大丈夫だ。お前たちだけは現世に帰らせてやるから…」
「黒狐さま、あそこ!光ってます!こっちに向かってきます!」
 野薔薇は白く光を放ち向かってくる何かを指差す。
「……白狐?」
 黒狐さまは不思議そうに…だが、希望の光のように感じた。

6☆夜闇に輝く阿部野屋敷
 光放つ白狐は二人の目の前に座り、じっと見つめる。
《やっと見つけたわ、叔父様、野薔薇ちゃん》
 白狐はそう口にして、一瞬光り輝くと、狩衣に赤い袴を穿き、狐耳と尻尾を生やした二十代の女性の姿になった。
 短髪の癖っ毛で目が大きくてイタズラっぽい面立ちは野薔薇そっくりだった。
「葛葉子叔母さん?」
 野薔薇は自分そっくりな目の前の女性を桂と薫の母にそっくりだと思った。
「ふふ、葛葉子は私の娘よ。桂と薫は孫。」
「そうだったのでつか!私たちが入り込んだ異界は桂くん薫くんのおばあちゃん、おじいちゃんが神様になって帝の世を見守っていると聞いたことがありまつ!」
 その、神様に会えるなんて思わなかったと言うか、夢を思い出した。
「夢の中で、私を待っていると告げましたか?」
『ええ、せっかくのお正月だもの、親戚みんなでワイワイしたいし、叔父様が子供達を引き連れて屋敷に来てくれる夢を威津那が見たと言うから楽しみにしていたわ』
 橘は尻尾を振って頬に手を当ててニコニコ明るく告げる。
「晴綛の娘か……よく喋るところ、似ているな」
 黒狐さまは、懐かしそうにそう言う。
『ふふ、よく言われていたわ。今はそっくりじゃないけどね………』
 橘はそっぽをむきため息を吐いた。
 誓いを破るとほんとうに、見るも無惨な妖怪狐耳ハゲチビエロジジイになってしまうとは……
 年だから色気なんか必要ないが、自慢の美男の父だったのでショックは大きい。
「でつよねージジさまに似てるって外見言われたら私なら寝込みまつ」
 野薔薇は正直に言う。
 生まれた時からあんな曾祖父ちゃんなのでガッカリ感はない。
「そうなのか………」
 晴綛を女にしたら…と、黒狐さまはもう少しで余計な事を言うところだったと思う。
『では、早速案内するわ。私の後をついてきて…』
「そうだ!桂くんと薫くんと逸れてしまったのでつ!早く見つけなきゃなんでつ!」
 野薔薇は橘の明るい安心させる雰囲気に呑まれて大変な事態を忘れかけていた。
『大丈夫よ、威津那が二人の孫を見つけて、屋敷に連れてきてくれたのよ』
「屋敷?」
『この異界を統べり守る屋敷よ。あなたたちを招待するわ』
 そう言うと、橘は翻り、狐の姿になって二人を屋敷に導いた。
 案内でたどり着いたそこは異界に引き込まれた洋館阿部野邸だった。
 真っ暗闇の中に屋敷中の灯りがついていてさまざまな色のついた窓からの光はステンドガラスから灯りが照らされたように明るく夜闇に光の影を彩って美しい。
「すごい!綺麗でつ!お正月よりもクリスマスにお邪魔したいくらいでつ!」
『ふふ、そうね、今度その日に誘ってもいいかもね。』
 野薔薇の喜びように橘は微笑み頭を撫でる。
 黒狐さまは、じっと屋敷を見上げて固まっていた。
「これは、私の生まれ育った屋敷だ…帰って来れたのだな……」
 そう言って一筋涙が頬を伝った。

7☆黒狐様の正体
 屋敷の中は和洋折衷バランスの良いお洒落な空間だった。
 案内されたところはロングテーブルと豪華なアンティークの木製の椅子に桂と薫はすわらされていた。
 ロングテーブルの上には白い布が被されて、端は刺繍レースになってオシャレだった。
 その白い布の上にちょこんと赤い瞳をしたカラスがこちらを見ていた。
「野薔薇ちゃん!心配したんだよ!」
 橘に案内されて広間に着くと桂が野薔薇に気づいて駆け寄っていた。
「怪我とかしてない?あやかしに襲われなかった?」
「だ、大丈夫でつよ!桂くんは心配性なんでつから!」
「にーちゃんずっと野薔薇のこと心配でそわそわしてたの俺にも伝わったぞ!」
 薫はあまり反省してない野薔薇の態度にそう言い放つ。
 「うっ……ご、ごめんなさいでつ……」
 薫のストレートの言葉でハッとして謝る。
「だが…野薔薇もお前たちのことを心配してたぞ。」
 黒狐さまは腕を組んで子供達を見下ろしながらそういった。
「あ!黒狐だ!ほんとにいたんだ!」
 薫は自分と同じ狐耳と狐の尻尾はえた黒狐さまに指差して興奮する。
「ほ、本当にいたんだね……」
 桂も黒狐さまをマジマジとみつめていった。
「ねっ!いたでしょ?」
 野薔薇は胸を張って鼻息荒く自慢した。
「私は、希少生物か、なにかか?」
 黒狐様は呆れていった。
「黒狐様はここが懐かしいと言っていたけど……それに、桂くん薫くんのおばあさまが、叔父様って言っていたけど……」
 なんとなくわかるようなわからない野薔薇は答えが欲しくなる。
 案内してくれた白狐の橘はいつの間にかどこかにいってしまって答えがわからない。
「黒狐様の名前はなんて言うんですか?」
 桂はまずは名前を知ることから始めなくてはとたずねる。
阿部野明綛あべのあきかせだ」
「じゃ、野薔薇と同じ苗字だな!」
 薫はそう言った。
「ジジ様と似た名前だね……ってもしかして…」
 桂は黒狐様の名前を聞いてピンときた。
 薫と喧嘩した時に、「わしもよく兄と喧嘩したわい。」と言っていた。
 お兄さんのことを桂は聞いたら、神誓いを失敗して異界を彷徨っていると聞いた。
 曾祖母の最初の夫で、野薔薇の本当の曾祖父……?
「ジジ様…阿部野晴綛のお兄さん?」
 
「ジジ様とは晴綛のことだったのか……?」
 あまり表情を表に出さなさそうな,黒狐さま、明綛は驚愕する。
「もう九十さいの曾祖父ちゃんでつ……でも……」
 野薔薇は改めて頬を染めてもじもじしながら、明綛を見つめる。
「野薔薇と本当に血が繋がった曾祖父が
(妖怪ハゲチャビンじゃなくてよかった)と、思ってしまったことに罪悪感を感じながら黒狐様との縁が繋がっていることに嬉しく思っていると、野薔薇の心が読める桂と薫は苦笑いをした。

8☆阿部野屋敷の異界の力
「そんなに、時が流れていたなんて……」
 明綛は現実を思い知り呟く。
 異界では時空など、まちまちだとは理解しているが、自分が歩んでいる異界の時間と現世の乖離の時の流れが早い……
 野薔薇と出会ってそのことを実感したが、弟が曾祖父と言われるまでの時が過ぎ去っているとは……

(これが神誓いを果たせなかった罰なのか?)
 明綛の感覚ではせいぜい三ヶ月彷徨っている感覚なのだ。
 本来の時間との乖離の絶望感は半端ない。
「……る、流花はまだ生きているのか?」
 生きていたらかなりのしわくちゃなお婆さんだ……尚更焦がれるほどに愛した女に会いたくなる……
 せめて、亡くなる前に……
 子供達は事情が飲み込めないまでも、顔を見合わせて桂と野薔薇は頷きあい、
「……ひいおばあちゃんは、かなり前に亡くなってわからないでつ。会ったこともないでつ……」
「そ…うか…」
 明綛は放心して、壁に背中をつけると、ずるずると座りこんだ。
 立っていることができなくなってしまった……歩くこともきっとできない……
 いつか、彷徨い歩き続ければ出口が見つかって流花に逢えると、僅かな希望を抱いていた。
 陛下よりも愛した女が亡くなった事が一番ショックだった…
 子供達は流花がどのように生きたかすら知らないのだ……それほどの時が経っている。
 まだ存命の晴綛に会えたなら話を聞けたかもしれないが……
 明綛は座り込み顔を膝に埋めて肩を振るわし、声を殺して泣く。
 その様子に感受性の強い子供達も涙が溢れてしまう。
 そんな明綛を慰める言葉をかけられない桂は、ぎゅっと袖の中で拳を握る。
(こんな辛い気持ちになんてなりたくない…ぜったいっ!)
 と、母が先に逝く想像をしてしまえば尚更だった。
「こら!子供達を泣かせないでよ!叔父様!」
「そうですよ、その気持ちは痛いほどわかりますが……」
 橘と威津那の夫婦神は手を繋いで暗闇から出てきた。
 橘は腰手を当ててプンプンと怒る。
 その妻の肩に手を置く。
「今日は特別に、母様もご招待したのよ。陛下の祈りの力を少しこちらに貸していただいてね」

 幸御霊と呼ばれその思いを祝皇、祈り姫は導き良き方に流れるように神にも祈るのだ。
 生前の威津那も無念の念を身に宿し浄化させるが、陛下の祈りによって浄化させ世に想いは巡っているのだが、年末年始に行われる国民にさまざまな災いが来ないように四方拝の儀式に挑む陛下を妬み恨む念も混ざり合わさり災いを起こそうとする荒御魂になる念も陛下の体を通して浄化させ世に巡らせる前に、威津那の御霊は荒御魂の念を神の力で昇華させ無害の念として世に巡り祈り姫の祈りに届き世の中に影響される。
 ただし、その不平不満の念は完璧には消えない。
 不平不満も世を導く祈りなのだ。
 不平不満もない世の中などよくならないのだから……
 そして、威津那によって昇華された思いは陛下の身を通り、国民の意識も良い方向へ変えようと向かうのだ。
 世にめぐるのは不平不満だけれはなく、残したものへの思いも願いも巡って世が良い方向になるようにも巡っている。
 残した愛しきものへの祈り願う巡る念の想いを縁に魂をこの世とあの世の境の阿倍野屋敷に招待することを神に近い御霊の威津那はできた。

「明綛……」
 声の方向を子供達と明綛は見る。
 薄暗い廊下の方から白い光がぼうっと現れると、美しい二十代後半の女性が現れた。
 腰までの長い青みを帯びた黒髪に、色白の肌に凛とした美しさに品のある色気の容姿に子供達も息を呑むほど美しいとおもうが、
「とーさんに似てる!眉毛は違うけど!」
 薫は興奮気味に流花に指差して叫んだ。
 男女の差はあるが、身近にいるものならば兄妹だと言われても納得してしまうほどだった。

9☆妻との再会、ひ孫と未来

「ほんとでつね……髪の毛長かったらでつけど….」
 野薔薇は宝石でも見るようにまじまじと観察する。
「でも、叔父さんはすごくイケメンでつ。オカマさんではありません!」
 野薔薇は流花と瑠香の違いを正直に口にする。
「ブハッ!子供は正直だね…野薔薇ちゃんは橘に似てるね!」
 威津那はツボに入って、肩を震わし腹を抱えて後ろを向く。
「そうね…でも、突拍子のないところはサキお姉ちゃんそっくりよ、ね、母様」
 橘は苦笑する。自分にそっくりと言えばそっくりだと思うが、三人姉の三番目のサキはおかしな人というイメージが強い。
 「そうね…あの子が一番、歳の差なんて関係なくて、生まれた時から運命の相手を狙っていて一途で強引。あなたに似たのかもね明綛…」
 流花は明綛に困ったように微笑みかけた。
「流花……本当に…」
 最後に会った時と変わらない姿だ。
 死んだものだとは信じたくないほどだが、明綛は立ち上がり、流花の手を取ろうとしたがすり抜けた……
「ああ……」
 この世のものではないと確信すると辛く涙が出た。
 流花も悲しい顔をする。
「私を愛したせいで異界を彷徨わせてごめんなさい……」
 流花はそのことが一番心残りでもあった。
 愛しき夫二人を置いて先に亡くなったことを……
 もう一度会いたいという気持ちがあり、ひ孫たちが明綛と縁を結び実現した。
「私も君と同じ存在になってもいいか?」
「だめよ…。あなたの未来はまだ続いているもの……」
 流花から明綛の手を握ることはでき、その力強さは言葉の意味を強くする。

「それに、私は晴綛を待っているから……」
 その言葉に明綛はハッとして、流花を睨む。
「晴綛は、約束破ったんだな…私と流花との誓を……」
「あなたとの娘三人と生きるため…晴綛の想いも受け入れたの…そして、橘が生まれた」
 橘は照れる。
 愛し合って生まれた存在と言われるのはいつまでも嬉しいものだ。

「晴綛は……ジジィになったと聞いたぞ…醜いジジイにな…私と流花との約束を破って…呪いを被ったのだな…ふふふふ…」
 明綛はせめて嘲笑う。
(あの姿は黒狐様の呪いだったのか!)
 子供達は驚愕する。
「……ええ、そうね。でも後悔はないわ…私にもあの人にも、きっとね」
 流花は自信たっぷりに微笑む。
 それに、晴綛のことをよく知っているように言う。
 それは人生を満足に全うしたからの自信の笑みだが、その笑みを見て明綛は胸に支えていたものが噴き出す。
「私にはある…後悔だらけだ…っ!」
 ポロポロと明綛は涙をこぼす。
「陛下よりも流花を思ってしまっていたなら潔く神誓いなど諦めて、流花と共に過ごしたかった!流花と、もっと幸せになりたかった…!
 生まれてくる子供達と幸せになりたかった!それを全て晴綛が叶っているなんてずるいだろっ!」
 明綛は胸に詰まっていた思いを吐き出す。
 いや、子供や人が見ている前で普段なら吐き出さないが、心の掃き溜めの空間なのだ。
 強い負の感情をむき出しになってしまうのだが、吐き出して仕舞えば浄化してスッキリしてしまうこともある。
 それゆえ、黄泉とも異界ともいえる不思議な空間なのだ。
 流花は涙し咽ぶ明綛を抱きしめる。
 明綛から抱きしめようとしても空を切ってしまう。
 もう交わることは叶わないと思うと尚更虚しくなる……
「ごめんなさい……私だけ幸せになって……でもあなたの事もずっと思ってた、忘れられなかった……初めて愛した人だから…夫婦の契りを交わした縁深い人だから…こうやって再開できただけでも幸せ…」
 流花も思わず涙する。
 だが、恋人や夫婦という者の愛おしさではない、親しい友に接する態度だと思う。
 もう、流花の心は陛下にではなく晴綛を素直に愛していると感じた。
「………幸せだったんだな……」
「ええ…幸せよ…私は幸せだった……」
 自分の人生を思えば幸せだった。
 けれど、流花が亡くなった後の晴綛はしばらく苦るしんだ……
 愛おしいものは自分を置いて先に逝ってしまったのだから……
 その苦しみも人生も労ってあげたいために転生の川を渡らないで、阿部野屋敷で留まらせてもらっている。
 阿部野屋敷の異界は記憶や心が伝わりやすく、その記憶が明綛に流れ込んで来て、腑に落ちた。
 追体験したわけではないけれど、本来己が辿るはずだったもう一つの人生だと思うと晴綛を羨むこともなくならないとは言わないが怒りはない。
「いつまでも双子ということだな……私の代わりに流花を幸せにしてくれたならば私も労ってやりたいな……」
 短い間に時は隔たれ、晴綛の人生はもうすぐ終わりを迎えるだろう……だからこそ最後は…と思った時、
「そうでつよ!だから一緒に今度こそ現世に戻りましょう!ひぃおじいちゃま!」
「ひいおじいちゃま…?」
 明綛は野薔薇の言葉にきょとんとする。
 流花は微笑む。
「あなたと私の間に三姉妹がいるの。その一人の子供の孫が野薔薇ちゃんよ」
 まだ、明綛は二十代後半…ひ孫だと言われても困惑するのだが…自分の血筋は流花に残せたということかと理解すると嬉しくなる。
「そうか……野薔薇と私の縁は繋がっていたんだな…」
 明綛は野薔薇を抱き上げて腕に抱っこする。
「これからは、そう呼んでくれ,野薔薇」
「はい!ひいおじいちゃま!」
「俺も抱っこしてほしい!」
 背の高い明綛の抱っこを羨ましく思った薫は無理矢理這い上り左腕の中に座る。
「薫!雰囲気を壊しちゃダメだぞ!」
 せっかくの本当の曾祖父との触れ合いなのにと思うと、自分もふわっと抱き上げられた。
「桂は僕が抱っこしていいかい?」
「威津那さんはやきもち焼きだから、ね。一番孫とお話ししたいし触れ合いたかったんだものね、私もだけど」
 この屋敷の主人でもある二人は桂に触れるらしい。
 暗い悲しい雰囲気は子供達がいたからこそすぐに明るくなった。
 子供達を呼んだのは、母と叔父の夫婦間の隔たりもみえていたが、子供達がいるだけで雰囲気が変わるということを橘は知っていたからだ。
 未来の縁を繋げて、いつまでも彷徨う明綛を救う事も目的で、未来の阿倍野殿として、必要なこととして宿命づけられていると威津那は未来を見た。
 そして…
「いつになったら日和は世界の悪意に晒されないですむのだろうか…」
 と、やれやれと威津那は言う。
「威津那さんにいわれてもねぇ……」
 橘は生前の若い頃を思い出して苦笑する。
「あははは、だよね。まぁ、なんとかなるよ。晴綛様の兄なんだから……」
 色々自分と重なる宿命を背負っているなと明綛の子供達に囲まれて楽しくこの空間を過ごそうとしているのを見て未来の希望を見出すのだった。

10☆お節料理の中に
「さぁ、お正月を楽しみましょう!」
 橘は雰囲気を明るく変えるために大声で号令をかける。
「では、皆様改めまして、あけましておめでとうございます!今年も良い年になるように陛下の御代の弥栄お祈りいたしましょう」
 威津那も橘と同じく明るく現世の弥栄を願う。
「すめらぎいやさか……」
 明綛は無表情でつぶやいた。
 神誓い失敗してこの異界に辿り着いたが、弥栄を祈ることを、素直に言える己にハッとして口元を押さえる。
 故意に裏切ったわけではないけれど胸に陛下に対する黒い気持ちを抱いていたが、日和の新年の繁栄を思うのならば、言霊に陛下の弥栄を思ってしまう。
「すめらぎいやさか!」
「すめらぎいやさか!」
「すめらぎいやさか!」
 子供達は元気よく一斉に声をあげる。
 普通の家の子供ならばその寿ぎの言葉を知らないだろうが、代々宮中、陛下お側に仕える一族なので当たり前に弥栄を願う。
「すめらぎ弥栄、あけましておめでとうございます…ね」
 流花はそう言って明綛に微笑む。
「ああ…すめらぎ弥栄…だ」
 明綛の心も何か明るく開けた気がすると胸元に手を置いた。
 その様子を橘と威津那は見て微笑む。
(ああ、明綛さんの気持ちすっごくわかる……)
 威津那はしみじみと思う。
 そんな夫に橘はふふっと笑う。
 この異界は夫婦の気持ちがすぐに反映される。楽しく嬉しい気持ちが無意識に皆に伝わるのだ。
 色とりどりの重箱のおせちに子供達は瞳を輝かせる。
 まるで、飴細工のようにキラキラしている。
「でも…食べていいの?黄泉…あの世のものを食べると現世に帰れなくなるんじゃ…」
 桂は祖父が昔話で聞かせてくれた物語でそう言う話を聞いたのを思い出して言ってみる。
 薫はすでに食欲に負けて口に入れてしまっていた。
「ここはあの世とこの世の『境』でもあって、黄泉じゃないから大丈夫よ。このおせちはウカ様からいただいだものよ」
 ウカ様はウカノミタマの化身の狐のあやかしで神様で阿部野のご先祖様でもあると母から聞いているのでホッとした。
「まぁ、ここで食べ物を食べたら、ちょっとした元々持っている能力が磨かれるだけだから安心してお食べ。」
 能力が磨かれるだけならいいかな?と桂は安心した。
「オモチでつか?これ?」
 飴細工のようなキラキラなお正月料理の中に一際目立つゲテモノがあった。
 お碗にお餅らしきものが浮いている。、
 だが、
 黒い餅…
 餅の中に黒い何かが詰まっている。
 しかも底はアメーバーの形になっている。
 汁はミルク…?白い汁に黄色い色も混じってる。
 黒い餅の皮は赤と黒のマーブリング色をしていた……
 ミルクの中を救うと小さな果物が出てきた。
 もうすでに黄泉の食べ物みたいだとドン引きする。
 橘はニコニコして、
「大丈夫!たべて!」
 強制だった。
 能力が磨かれる前に、内臓が磨かれる…と野薔薇と明綛は思う……
「すごい!美味しそう!色も綺麗だし!」
 桂はすごく興奮しだす。
「橘のそう言うところ継いだかー……」
 威津那は遠い目をした。
 橘のゲテモノ料理に桂は大絶賛。
 生前でも褒められたことがなくて、孫に褒めてもらえて橘は思わず嬉しくて涙をこぼす。
「桂くん!ほんと可愛いっ!私の孫ね!」
「あ!美味しい!デザートだぞ!これ!」
 薫も瞳をキラキラさせて絶賛した。
「本当でつ!美味しいでつ!不思議でつね!餅の中にぎっちり餡子がはいってまつ!現世に帰ったら作ってみまつ!」
 子供達はほっぺたが落ちそうなほど美味しいことに満足だった。
「孫たちは可愛い!いい子達すぎるわ!」
 橘がとても喜ぶ姿に威津那は微笑む。
 明綛食べて狐の耳がピン!と立つほど満足だった。しかも子供達と同じく頬がほのかなピンク色になっていることに流花は微笑んだ。

11★子供達のために
 威津那は可愛い孫に過去にタイムスリップする秘術を伝授した。
 そして、夏にその呪術を試したら成功して若い父母に出会った事はのちの事。
「まぁ、やったことないからわからないけどね、あははは。」
「もう、威津那さんの悪い癖よ?」
「そうよ、お父さん。」
 ひょっこり女の子が出てきた。
 美しい黒髪で艶やかな振袖を着た十二歳くらいの凛とした雰囲気が印象的で美しい女の子だった。
「初めまして、私は房菊。
 葛葉子…あなたたちのお母さんのお姉さんよっ!」
 えっへん!と腰に手を当てて威張る仕草をするところは祖母に似ていると思った。
 神秘的な第一印象が一瞬で消えてしまうほどの明るくて姉御肌のお姉さんと理解した。
「かーさんより、わかいのに?」
 薫は正直に感想を言う。
「そうよ、本当は世界の祈りに溶けて消えるはずだったんだけど、父様が留めてくださって阿部野屋敷で暮らしてるのよ」
 明るくニコニコ笑顔で答えてくれた。
 その様子を桂は観察して、
「やっぱり晴房さんにも似てるね」
「そうなの⁉︎私、ハルの神様とお別れしちゃった手前、息子に会えなくて…ね、イケメンになってた?」
 房菊は瞳をキラキラさせて聞いてくる。
「うん、でも、ライバル視されちゃった……ハハハ。」
 桂は苦笑いをする。
 陰陽童子として宮中に出仕して、阿倍野と香茂と黒御足の血筋を受け継ぐ桂はチヤホヤされた。
 その柱の影で密かに複雑な感情を秘め黒いオーラをゆらめく青年の晴房は神秘的な雰囲気あるが接すると明るく頼り甲斐のあるお兄さんだったのだが、チヤホヤされる従兄弟の桂に、
(私の地位が脅かされているっ!なんとかせねば…!)
 と、その鬱憤を意地悪をすることもできず悶々と荒御魂オーラを放つので三日で桂は陰陽童子の仕事を辞退した。
 子供ながらに気を遣って、この仕事向いてないかも……と遠慮した。
 祖父の高良はため息を吐いて、
「互いにもう少し大人になったら良い関係になるだろう」
 と言う判断に至った。
 孫をデビューさせたかったのは本心だったがまだ互いに子どもでもあるので今は断念した。
「神の化身の晴房にライバルだと認めてもらうのもすごいことよ。誇りに思ってね」
 房菊は明るくそう言って励ました。
 房菊の登場で、いろんな遊びを率先して遊んでくれて、子供達は楽しい時間を過ごし、流花と明綛は束の間の夫婦の時を過ごして子孫たちの楽しむ様子に心を癒した。
「子供達が幸せに過ごせる日和を久遠に続けられるように…見守れるようにしたい……その手伝いをまた私はできる日が来るのだろうか……」
 明綛は神誓いを失敗したが、陛下を愛する事は子孫の幸せを守る事とわかっている。
 それを改めて強く思う。
 祝皇陛下がいらっしゃるからこそ、日和は日和でいられ平和を気づき生きていけるのだと……

「ふふ、その時は私は生まれ変わってあなたにまた再び会えるかもしれないわね。その時は晴綛とまたライバルになって私を取り合ったりして…」
「期待していいか……?」
 その言葉に二人は見つめ合う。
 互いに未来の希望に来世の恋愛にドキドキしてしまう。
「だがそうなったら二の舞いを踏みそうだな……」
「それほど来世の私をも想ってくれたら嬉しいわ。でも、失敗は許さないからね」
 流花は微笑むが、本気だ。声にドスが効いていた。
「ふふ、努力する…」
 明綛の胸に未来への希望が湧いた。
 流花と同じ存在になって晴綛を待ち伏せしようと思っていたが、それは野暮な事だ。
(まだ生きている私にはやる事がある…)
 今世は晴綛に譲ってやったが、次は譲らないと決意するのだった。

13☆またいつか
 子供達は遊び疲れて眠ってしまった。
「楽しいお正月になってよかったわ…毎年呼べればいいんだけど……これが最後かもしれないわね…」
 橘はフゥ…と悲しいため息を吐く。
「ウカ様の食べ物を食べたから霊力も上がって異界に迷い込いこんでも抜け出せ行き来きできる能力を得たよ。また会えるよ…それは将来、良き力になるよ」
 威津那も束の間の孫たちと触れ合いが終わってしまうと悲しい。
 眠る孫たちの額を愛おしそうに撫でる。
「明綛も彷徨うことはなくなったと思うわ…野薔薇ちゃんと縁が繋がっているもの……」
 流花は微笑む。
「繋がりが出口ということか」
 流花と夫婦になって愛の結晶の血縁がいることに嬉しくなる。
 正直このまま黄泉に行っても悔いはないのだが……
 この阿倍野屋敷に導かれたということはいずれ、威津那の代わりに陰の神として鎮座することになる…があるということか……と思う。
 その時に流花がそばにいてくれたら寂しくはないだろうなと…明綛には見えない未来を思う。
「ここはあの世に近く現世への入り口、異界は時を超える場所…野薔薇ちゃんに出会えた事で縁も繋がり現世に帰る事ができるわ……
 だけど、時は重なるかわからないけれど…」
「時が重ならないのは分かっていた……」
 明綛は悲しい顔をして苦笑した。
 もし、現世に戻れたとしても野薔薇もこの世のものではなくなっている可能性もある……と思うとこのまま留まりたい気持ちになる。
 いつも自分は優柔不断だと思う。
 未来を思うのに、未来が怖い…
 流花とあの世に逝きたいのに、生きて人生を全うしたい……
 それが、神誓いを失敗した原因で罰を食らった。
 決断しなくてはいけない時に迷うことは、大切な存在を守れないということなのだから……
 眠る野薔薇の頬をふれると。
「現世であいまつ…ひいおじいちゃま…むにゃむにゃ」
「そうだな…お前にまた会いに行くよ…絶対」
 とりあえずの目標は生きて野薔薇に会えると信じよう。
『さぁ、みんな起きて、お母さんお父さんが心配をしているわ』
『連れてきちゃってごめんねって伝えておいてくれ。』
『また、来世で会いましょう。きっとあなたを見つけてあげるから』

《……現世への扉を開けよう……》

 そういって阿倍野屋敷の玄関の両開きの扉を橘と威津那で開け放つ。
 玄関向こうは暗闇ではなく、優しい朝日が差し込むように光輝いて、子供達と明綛を迎え入れた。

14☆未知なる来世☆エンド☆
「……あ、れ……?」
 広間の畳で野薔薇は目を覚ます。
 両隣には桂と薫もいる。
「いつのまにか眠ってしまいましたか?ひいおじいちゃま…も?」
「なんじゃ?『ひいおじいちゃま』なんて、洒落た敬称いいおって…」
 二頭身で顎髭ハゲチャビンの狐の耳と尻尾を生やしたジジ様がヒャッヒャと笑いながら子供達を見て微笑む。
「私たち、異界にいたんじゃ…夢なら黒狐様をまた探さなきゃ!」
 野薔薇はガバリと起き上がり焦る。
「えーっ!また、異界にいくのか?」
 薫はめんどくさく言う。
「でも、どうして僕たち、家の中で寝てたんだろ?鳥居のあたりで寝てたならわかるけど……?」
 三人は夢と現実が追いつかなくて混乱する。
「鳥居に黒鴉が案内するから導かれて来たらお主たちは寝ておったんじゃよ。」
 ジジ様が迎えに来て、親たちが子供達を担いで広間に寝させたようだった。
 もう夜の六時だという。
「やっぱり夢だったのでつか……?」
 あんなに楽しい出来事が夢だったなんて悲しいと野薔薇は思う。
「三人同時に黒狐さまの夢を見ないよ…現実だよ。」
 桂はニコニコと微笑んで手に握っていた飴を野薔薇に見せる。
 野薔薇と薫の手にも綺麗な飴が握られていた。
 お土産に、ウカ様印のベッコウ飴を房菊にもらい、手の中に握っていた。
 お別れの挨拶で、三人に無理やり手渡した。
「房菊と異界であったのか?まさか……阿倍野屋敷で?」
 子供達が異界に本当に迷い込んだことに半信半疑だ。
 子供はまだ神の子なので入り込みやすいことは知っていたが……本当に意思を持って入ってしまうとは…
「ジジ様は阿倍野屋敷に遊びに行けるんだよね?」
 ジジ様は特殊能力で異界を開く事もあやかしたちと交流する事もできる。
「まぁな。大抵、橘と威津那は眠ってるから起こさないで現世の珍しいものを置いていくことはあるの。」
「そうなんだ…お正月をするために起きていてくれたのかな?」
 桂はそう察してた。
「あっ!飴だけじゃなく、黒い石も握ってました!ひいおじいちゃまみたいに綺麗な石でつ」
 野薔薇はペンダントになっているキラキラ輝く石をジジ様に見せる。
「明綛のだ………」
 ジジ様はそう呟いて涙をひと筋こぼした。
「そうでつ!ひいおじいちゃまは黒狐さんだったんでつ!」
 野薔薇は興奮して大声でいうと、眠っている子供達を起こしてはいけないと静かにしていた親戚たちが集まってきた。
「面白い体験をしてきたみたいだね、みんなにお話ししてくれるかな?野薔薇」
 野薔薇の父の明はニコニコ顔でノートとペンを用意して漫画のネタにする気満々だった。
 子供達はわすれないようにと、鳥居から異界に入って、眠る神夫婦神と神誓失敗して彷徨っていた明綛に会ったこと。
 さらには幽体の流花の曾お婆ちゃんのこと、房菊まで事細かに話した。
「ネタにして忘れないようにしておいてあげるね。」
 娘たちの話に明は満足だった。
「母様と父様元気でさらに、姉さままで……」
 元気というのは語弊があるが…
(寿命きても悲しくても楽しいかもしれない……)
 と、葛葉子は正直に思ってしまったら瑠香にムッとされた。
(もう、テレパシー禁止っ!)
 葛葉子は思考で瑠香を叱る。
《じゃ、今夜はオレから離れ難いほど姫はじめするから覚悟しろ》
(………ばか……)
 葛葉子は顔を真っ赤にして憤る。
「うむー明綛に宣戦布告されてしまったということか…来世でもワシは流花を妻にしてやるぞい!」
 煙管を吸って吐いて不敵な笑みをした。
(ちょっと余裕ない?)
 と、一族全員に思われた。

「あと、ジジ様が、自分ができなかった幸せをみんなに与えてくれてありがとうって……」
 それは、桂にだけ伝えられた。
 一緒に帰れなかった時に伝えて欲しいと言われて考えをのぞいていたからだ。
 帰ったら伝えてくれと言われたことを伝えると、
「そうか…」
 ジジ様は再びポロリと涙をこぼし、
「わしも最後にあいつに会いたかったな……」
 双子としてこの世に産まれた唯一無二の兄弟だったのだから……
「会ったら絶望するからやめた方がいいとおもいまつ」
「なに?」
「だって、すっごく若くてイケメンだったでつもの!」
 イケメンの曾祖父推しの野薔薇は遠慮ない。
「……そうか、そうか、お前らもワシくらいになったら、二頭身のジジババになる呪いをかけてやるから覚悟しておくのじゃぞっ!ヒャッヒャッ」
 と、指を動かしてわざと魔法使いが悪い呪いをかける仕草をしたが、ジジ様くらいの歳になったら誰しもこうなるものだと想像もつかない子供達は、
「ひぇ…っ!」
 と言って本気で青ざめた。
「ジジ様…それ、元希代の陰陽師で妖狐に言われたら洒落になりませんから…」
 祖父の高良は苦笑いした。

☆☆☆

「う……っ、ここは…?」
 明綛は眩しい光に瞳を瞬かせる。
 草の上に寝転がっているらしい。
 青空が広がり白い雲が漂っている……
 久しぶりに見た……
「ここは、現世…か?」
 けたたましく空をかける飛行機がとんでいる。
 空に聳えるビルが山のような光景と、空に浮かぶ映像には女性が何か緊迫感をもって情報を読み上げている。

 空には映像が流れ文字も浮かぶ。
 これは呪術ではない……
 だが、世の中の空気は不穏で、自分がいた時と同じ気の気配が漂う緊迫感を感じる。

 一緒に光に向かって野薔薇と異界から出られた明綛は街がかなり近代化している場所に出た。

 ガサッとした音を振り向くと、セーラ服に恥ずかしげもなく太ももが見える短いスカートを履いて、短髪の女の子がこちらを見つめて首を傾げていた。

「あなた、どうしてここに倒れているの?」
「流花……?」
「え……?」
 容姿も全て違うのに流花だと直感した。
「うーん…俺と同じ半妖みたいだな……」
 覗き込んでくる男は十代の頃の晴綛に似ている。
「野薔薇とまた時がずれてしまったか……」
 頭を抱えて二人に聞こえるつぶやきをした。
 だが、現世に戻れた。
 現世で野薔薇に会えればいいのだけれど……
「野薔薇は俺のばーちゃんの名前だぞ!」
 自分とおんなじ半妖の学ランを着た青年は首を傾げる。
「あっ!もしかして、黒狐様か?ばーちゃんよく言ってたからな!」
 ニカッ!と笑うところも似てる……
「これ、くれた人だろ?ばーちゃんが俺に特別くれたんだよ」
「………そうか……」
 明綛は全てを察した。勘が良い方だと自負している。
「……早速で悪いが、私を野薔薇に合わせてもらえるか?」

 見た事もない未来、想像もつかない新たな人生にドキドキしながら懐かしい人物に会えることに胸が躍る明綛だった。
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