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積み重ね
双子の一目惚れ、愛の積み重ね
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巫女寮で垣間見た巫女はとても美しかった。
艶やかな長い髪に白い肌、長いまつ毛に神秘的な黒く煌めく瞳…
巫女衣装の緋袴に小袖に、色鮮やかな桂を羽織って空を見つめていた。
宮中の奥は千年前から時が止まっている。
光源氏の絵巻もののように垣間見た女に惚れるとは思わなかった。
巫女寮と陰陽寮は橋を隔てた隣の棟の宮中三殿のそばに建てられている神に使える巫女たちの寮だ。
日和国ではこそから各神社に宮中勅使のように巫女を派遣することもあった。
さらに巫女寮を束ねる内掌典に近しき巫女は神秘を帯びている。
そのほかの巫女は采女と言われる内掌典の身の回りの世話や寮や宮中三殿内を清め掃除や巫女舞担う。
常に現世とはかけ離れ神をお迎えして弥栄を祈り守る場所なのだ。
陛下、宮様方、掌典以外の男は穢れだ。
陰陽寮と中継ぎの掌典を待っていたところ、垣根から巫女の姿を垣間見てしまったのだ。
息を呑むほどの美しさで、昔話のかぐや姫を連想させた。
双子の兄の明綛も同じ気持ちだっただろう。
宮中から出れば女などいくらでもいるし男と同じに働き女性の柔和さを売りにデパートなどで活躍する女子が増えている。
一方で今も昔も色を平気で売る女もいる。
それらとは遥かに一線を画す女性だった……むしろ女神だ。
もっとよくみたいと思ったらしい明綛が垣根に手をかけてがさっと音を立ててしまった。
「?」
わしらの視線に気づいた流花が目があったのは明綛だった。
その時に二人は恋に落ちた。
数日前、黒御足八那果はニヤニヤ微笑みながらわしら双子を呼び出して。
「お前らは同じ女に恋をして同じ女を妻にする」
その意味を理解したわしは明綛とわしであの巫女を弄ぶ危険な妄想をしてしまったのは生涯の秘密だ。
だが、そういう妄想をしてしまう理由はわしにはあった……
女を知らないからこそ妄想をしてしまう。
いや、女性は優しく大切に扱うことは男として当然じゃが、密かに春画やら小説を大量に収集していることは明綛にあきられるほどで、
「明綛!そういうお前は女経験あるのか!」
と、ムキになって尋ねたらフンと、バカにしたように鼻で笑われた。
十本指を出された。
「妄想など無駄の長物だ……」
と馬鹿にされた。
「逆に妄想で気が落ち着かんぞ。」
それは確かにそうであるが……女を誰でもいいとは思えなかった。
本気で好きになった女以外手を出す必要もないけれど、男なので女の体の憧れはある。
遊びだけの関係を持つのを怖がるわしは純粋なのか怖がりなのか……むしろ…
「こんな半妖好きな人間の女子がいると思うのか?」
と悔し紛れで言ってみた。
「誰が人間を相手にしろと言った。」
「は?」
「人の姿をしたあやかしに決まってんだろ」
「なるほど……じゃない!尚更穢らわしいわ!」
妖怪は闇の物だ。
闇は穢れだ。
宮中では、忌み嫌う物なのだからそんなものに触れていることを知ってゾッとする。
「お前はずっと童貞で清らかでいればいい太陽の如くの金狐殿。昼間を象徴するお前に秘め事は似合わん。」
「闇の黒狐だから良いとでも言うのか?」
明綛はふと悲しげに微笑み。
「闇は全てを飲み込むんだよ…陛下に仇なす負の念をもな……その闇を浄化するのに女と交わる事は癒しになるからな…」
「そんなのは単にお前が女が好きなだけだろ……ドすけべが!」
「なんとでもいえお子ちゃまが」
「まさかあやかしとの間に子供を孕ませてないだろうな……」
「…………………ああ」
「その間はなんだ?」
「恋もわからぬ時の初めての女はオレが消滅させたから……恋とわかっていれば…好きだったと気づいたのはその後だった…この気持ちの記憶だけでそのあやかしのことはほとんど覚えてないんだ」
「そうか…だがもしかしたらその時ということか……」
それでは子供はできているとは限らないし、あやかしだからどうなっているかは不明だが……
とにかくその経験があるからこそ双子のわしと大人の差ができてしまったのかと納得した。
「だから…あの時と同じ気持ちになった女性を今度こそ大事にしたい…」
という会話をした事を思い出す。
「ああ……清くて清楚で…今までにない胸のときめきを抑えられない…今すぐに彼女が欲しい…」
いつも無表情で感情をあまり表に出さない明綛が情熱的に呟くのを狐耳で聞いてしまった。
それほどの思いをわしは一目惚れといえどまだ持てなくて再びわしも垣根から巫女を見る。
たしかにドキドキするほど…切なくなる気持ちになる。
それは運命の意図に心臓を巻き取られて締め付けられた感覚。
そんな感覚を双子だからこそ理解し合えるが……
「そんなに堂々とまじまじとみてばれぬのか?」
「隠の術を使ってるから……」
「ぬ?」
「お前ら!そこで何してる!」
中継ぎを担当する幼馴染の聖に見つかった。
「そこまで入っていい許可は出しておらん!刑罰を受けてもらうぞ!」
聖は容赦ない生真面目な性格な幼なじみだ。
「うわ!みつかった!」
わしは慌ててその場から逃げる。
「はーーるーーかーーーせーーーっ!」
術を使っている明綛は見つかることもないし逃げる事はなかった。
恋の経験人数が多いせいか手を出すのがすこぶる早く流花を七夕に攫い結ばれてしまった……
そしてそのまま流花と契りを交わしてしまった……
わしは呆れたし、恋愛経験のある明綛はわしとは双子とはいえ違う人格人生だと思い知らされた。
だが八那果の予言は当たってしまった…
そして、今やわしの妻は流花になった。
「二人はそっくりで似てないわね」
「よく言われるな。」
「だけど基本は似ていると思うわ…」
「誕生日が同じだと運命は同じになるからなぁ…だけどわしが生まれたのは偶然朝日が登った直後だしな、そこで少し変わるかの?」
陰陽師のわしは自分の生まれと兄を考えるが時間の干支も同じだったはず。
「わしの方が容量悪くてな…その…痛くなかったか?」
経験がないからこそ流花の体を労りたくてうざいかもしれないが聞いてしまう。
「狐耳がしゅんと下がっててかわいい…うふふ」
答えになってないけれどそう微笑まられるとホッとする。
「あの人がそんなに経験あったなんて……納得してしまいますけど…」
多分、明綛の方が上手いのだろう。
「でも…気遣ってくれる優しいあなたの方が………」
途中で口をつぐむ。
「言霊に出してはいけない気が……」
「誰にも言わんからわしの耳に囁いてくれ……」
その答えを聞いてわしは流花を胸の中に抱きしめた。
「絶対わしは流花の前から消えないし、命尽きる時まで夫としてそばにいるからな……明綛に絶対に渡さない…」
流花はわしの背中に手を回して抱きしめて胸の中で頷いた。
明綛には悪いが恋は早い者勝ちだが、愛は年月なのだ……想いと思い出の積み重ねなのだ……
もし明綛が生きていつの時代かに現世に戻ってきたのならそのことを学べる相手と再び恋に落ち愛の積み重ねをした幸せな人生を歩んで欲しいと願うのだった。
艶やかな長い髪に白い肌、長いまつ毛に神秘的な黒く煌めく瞳…
巫女衣装の緋袴に小袖に、色鮮やかな桂を羽織って空を見つめていた。
宮中の奥は千年前から時が止まっている。
光源氏の絵巻もののように垣間見た女に惚れるとは思わなかった。
巫女寮と陰陽寮は橋を隔てた隣の棟の宮中三殿のそばに建てられている神に使える巫女たちの寮だ。
日和国ではこそから各神社に宮中勅使のように巫女を派遣することもあった。
さらに巫女寮を束ねる内掌典に近しき巫女は神秘を帯びている。
そのほかの巫女は采女と言われる内掌典の身の回りの世話や寮や宮中三殿内を清め掃除や巫女舞担う。
常に現世とはかけ離れ神をお迎えして弥栄を祈り守る場所なのだ。
陛下、宮様方、掌典以外の男は穢れだ。
陰陽寮と中継ぎの掌典を待っていたところ、垣根から巫女の姿を垣間見てしまったのだ。
息を呑むほどの美しさで、昔話のかぐや姫を連想させた。
双子の兄の明綛も同じ気持ちだっただろう。
宮中から出れば女などいくらでもいるし男と同じに働き女性の柔和さを売りにデパートなどで活躍する女子が増えている。
一方で今も昔も色を平気で売る女もいる。
それらとは遥かに一線を画す女性だった……むしろ女神だ。
もっとよくみたいと思ったらしい明綛が垣根に手をかけてがさっと音を立ててしまった。
「?」
わしらの視線に気づいた流花が目があったのは明綛だった。
その時に二人は恋に落ちた。
数日前、黒御足八那果はニヤニヤ微笑みながらわしら双子を呼び出して。
「お前らは同じ女に恋をして同じ女を妻にする」
その意味を理解したわしは明綛とわしであの巫女を弄ぶ危険な妄想をしてしまったのは生涯の秘密だ。
だが、そういう妄想をしてしまう理由はわしにはあった……
女を知らないからこそ妄想をしてしまう。
いや、女性は優しく大切に扱うことは男として当然じゃが、密かに春画やら小説を大量に収集していることは明綛にあきられるほどで、
「明綛!そういうお前は女経験あるのか!」
と、ムキになって尋ねたらフンと、バカにしたように鼻で笑われた。
十本指を出された。
「妄想など無駄の長物だ……」
と馬鹿にされた。
「逆に妄想で気が落ち着かんぞ。」
それは確かにそうであるが……女を誰でもいいとは思えなかった。
本気で好きになった女以外手を出す必要もないけれど、男なので女の体の憧れはある。
遊びだけの関係を持つのを怖がるわしは純粋なのか怖がりなのか……むしろ…
「こんな半妖好きな人間の女子がいると思うのか?」
と悔し紛れで言ってみた。
「誰が人間を相手にしろと言った。」
「は?」
「人の姿をしたあやかしに決まってんだろ」
「なるほど……じゃない!尚更穢らわしいわ!」
妖怪は闇の物だ。
闇は穢れだ。
宮中では、忌み嫌う物なのだからそんなものに触れていることを知ってゾッとする。
「お前はずっと童貞で清らかでいればいい太陽の如くの金狐殿。昼間を象徴するお前に秘め事は似合わん。」
「闇の黒狐だから良いとでも言うのか?」
明綛はふと悲しげに微笑み。
「闇は全てを飲み込むんだよ…陛下に仇なす負の念をもな……その闇を浄化するのに女と交わる事は癒しになるからな…」
「そんなのは単にお前が女が好きなだけだろ……ドすけべが!」
「なんとでもいえお子ちゃまが」
「まさかあやかしとの間に子供を孕ませてないだろうな……」
「…………………ああ」
「その間はなんだ?」
「恋もわからぬ時の初めての女はオレが消滅させたから……恋とわかっていれば…好きだったと気づいたのはその後だった…この気持ちの記憶だけでそのあやかしのことはほとんど覚えてないんだ」
「そうか…だがもしかしたらその時ということか……」
それでは子供はできているとは限らないし、あやかしだからどうなっているかは不明だが……
とにかくその経験があるからこそ双子のわしと大人の差ができてしまったのかと納得した。
「だから…あの時と同じ気持ちになった女性を今度こそ大事にしたい…」
という会話をした事を思い出す。
「ああ……清くて清楚で…今までにない胸のときめきを抑えられない…今すぐに彼女が欲しい…」
いつも無表情で感情をあまり表に出さない明綛が情熱的に呟くのを狐耳で聞いてしまった。
それほどの思いをわしは一目惚れといえどまだ持てなくて再びわしも垣根から巫女を見る。
たしかにドキドキするほど…切なくなる気持ちになる。
それは運命の意図に心臓を巻き取られて締め付けられた感覚。
そんな感覚を双子だからこそ理解し合えるが……
「そんなに堂々とまじまじとみてばれぬのか?」
「隠の術を使ってるから……」
「ぬ?」
「お前ら!そこで何してる!」
中継ぎを担当する幼馴染の聖に見つかった。
「そこまで入っていい許可は出しておらん!刑罰を受けてもらうぞ!」
聖は容赦ない生真面目な性格な幼なじみだ。
「うわ!みつかった!」
わしは慌ててその場から逃げる。
「はーーるーーかーーーせーーーっ!」
術を使っている明綛は見つかることもないし逃げる事はなかった。
恋の経験人数が多いせいか手を出すのがすこぶる早く流花を七夕に攫い結ばれてしまった……
そしてそのまま流花と契りを交わしてしまった……
わしは呆れたし、恋愛経験のある明綛はわしとは双子とはいえ違う人格人生だと思い知らされた。
だが八那果の予言は当たってしまった…
そして、今やわしの妻は流花になった。
「二人はそっくりで似てないわね」
「よく言われるな。」
「だけど基本は似ていると思うわ…」
「誕生日が同じだと運命は同じになるからなぁ…だけどわしが生まれたのは偶然朝日が登った直後だしな、そこで少し変わるかの?」
陰陽師のわしは自分の生まれと兄を考えるが時間の干支も同じだったはず。
「わしの方が容量悪くてな…その…痛くなかったか?」
経験がないからこそ流花の体を労りたくてうざいかもしれないが聞いてしまう。
「狐耳がしゅんと下がっててかわいい…うふふ」
答えになってないけれどそう微笑まられるとホッとする。
「あの人がそんなに経験あったなんて……納得してしまいますけど…」
多分、明綛の方が上手いのだろう。
「でも…気遣ってくれる優しいあなたの方が………」
途中で口をつぐむ。
「言霊に出してはいけない気が……」
「誰にも言わんからわしの耳に囁いてくれ……」
その答えを聞いてわしは流花を胸の中に抱きしめた。
「絶対わしは流花の前から消えないし、命尽きる時まで夫としてそばにいるからな……明綛に絶対に渡さない…」
流花はわしの背中に手を回して抱きしめて胸の中で頷いた。
明綛には悪いが恋は早い者勝ちだが、愛は年月なのだ……想いと思い出の積み重ねなのだ……
もし明綛が生きていつの時代かに現世に戻ってきたのならそのことを学べる相手と再び恋に落ち愛の積み重ねをした幸せな人生を歩んで欲しいと願うのだった。
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