あやかしと神様のジジ様の物語

花咲蝶ちょ

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後日談

橘が生まれた時のこと

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 娘があやかしで生まれるのが分かっていたので、あやかしの伝手を使い流花の出産を手伝ってもらった。

 それは八尾比丘尼と鬼女将、姪の牡丹だった。
 阿倍野屋敷の一室で力む流花に、手に汗握って、扉の外で見守る三姉妹とわし…
 アキミキサキの三姉妹は母がうめくのを聞いて震えながら出産で苦しむ部屋の扉を凝視して、アキは青ざめながら涙ぐむ。
「こ、こんなに苦しむなら妹ほしいいわなければよかった…」
 アキはサキの頭をゴツンと叩く。
「ばかっ!今それいうな!」
「だからって、サキを殴るな。女の子だろ?お淑やかにしろ」
 と優しく叱る。
「お父さんがお母様とイチャイチャするからぁあ!」
 ミキは耐えきれず叫び泣く。
「わしにとばっちりか!まぁ、そうかもしれんが、お前たちが妹欲しいわがまま言うから流花は頑張ってくれてるんじゃ!母子の無事を祈るのだ!」
 わしは三姉妹に命令して率先して手を合わせて祈る。
「なむなむなむなむぬむ」
「それは不吉じゃ!神様仏様ルカの神様無事に子が生まれますように!じゃ」
 母親を苦しませずに生まれてくれ!
 と思いながらも、流花が三姉妹を普通分娩で頑張って産んだ時のことを思い出す。
 その時には明綛は神隠しにあっていて愛しい夫はいなかった。
 産婆が途中で三子と気づき普通分娩で産まれるように頑張ってくれた。
 三子はすんなり出てきてくれてホッとしたことを思い出す。
 あの時、流花は明綛がいない不安と三子を産むという大業を成し遂げた。
 わしも気が気じゃなくて、今のように落ち着かなかった。
 しかも、三子の叔父だとしても夫ではないので労う言葉を言うか悩んだ。
 帰らぬ明綛の分だと言って、手を握り
「頑張ったな…流花。体を労り養生せよ…」
 と本心からの言葉を隠しながら伝えた複雑な気持ちを思い出す……
 流花も少し複雑な顔して
「ありがとうございます…」と微笑んだことまで思い出す。
 本当は……本当は…本当に頑張った流花をもっと労いたかった…素直になれなかった後悔を挽回したい……

 なんせ、今は本当の夫だし!遠慮なしじゃ!

 今回も三子だとしても大丈夫のように産婆に弟子入りした牡丹もいる。
 三子の出産の時に流花がもしかしたら危険なことになるかも知れないと知って自分に何かできないかと思い巡らせた結果だと言う。
 さらに無事に子供を産ませるための香茂家の能力に目覚めて今、流花の出産を助けている。
 のちに牡丹は女陰陽師をしながらも尊い方々の出産に立ち会う依頼が増えた。
 
「い、妹よ!爆誕せよ!」
 もっと神々しい言霊を三子は唱える。

「あぎにぁぁぁぁぁぁあ!」

 とてつもない大声の産声が上がった。
「うまれたぁぁぁあああああああ!」
 三姉妹とわしは涙が溢れるほど感動して嬉しくてドアを開けようとすると、
「今、障があるから!もう少し!流花様は今、意識がないんです!」
「なんじゃと!」
 わしは青ざめる。
「あやかしの子供を産むと言うのは人間の体力を少なくとも奪うものなのです。神の依代という加護があろうとも……」
 八尾比丘尼は真剣な顔で言った。
 本来だったら男は七日後に顔を見せるものですけど時代ですからね……
 ちゃんと綺麗になってからみてあげてくださいね
「お、おう…そうだったな…だが意識が戻らないのは…大丈夫なのか?」
「鬼の妙薬気付役を用意してあります。一滴で現世に戻ってこれますよ」
「げ、現世に戻るってかなりの危篤じゃないか!」
 わしは心臓を鬼に掴まれた気分で青ざめる。
 それは三子も同様で
「お父さんが妹産めばよかったのーーー!」
 とんでもないことを叫んで泣き出した。

「無理いうなーーっ!
 だけどできるものならそうしたかったーー……」
 わしも涙目で叫びたい気分だ。
 三姉妹と生まれたばかりの赤子の声が屋敷中鳴り響くほど騒がしく牡丹はさすがに耳を塞いだ。
「ふふふ…もう、騒がしい…んだから…」
「薬飲ませる前に目が覚めてしまいましたね、よかったですわ!」
「流花!」
「母様!」
 出産でボロボロで弱々しく微笑む流花が意識を取り戻してわしらは心底ホッとした。
「ほら可愛い妹様ですよ。」
 八尾比丘尼は綺麗にして身くるみに包んだ橘を見せる。
「ふぁ…とてもちっちゃい。」
 耳としっぽは生えてなく普通だった。
 そのときは杞憂だったと思ったが夜になったら狐耳と尻尾が生えていた。
 
 橘はまだふぎぁあふぎゃぁなきながら、晴綛の指を掴む。

 愛おしい…可愛い…血のつながりが愛おしい…三姉妹も姪でつなががりはあるが…正直特別な感覚がある…

 だからといって贔屓するつもりはないが、もし、もう少しして半妖になったら普通の生活はできない分は過保護になるつもりだ。
 両親がそうしてくれたように…

 橘はペシっとわしの指を離すと姉たちの手を握る。
「うぇ…可愛い…妹大切にする…」
「本当に私たちの妹だもん。」
「同い年じゃ姉妹って感覚わかんないもんね。」
 三姉妹は妹に感動して頭を撫でると橘はニコッとした。
「うふふ…この子はみんなのこと平等で大好きみたいね…」
 その様子を微笑ましく流花は見て幸せそうだ。
「流花…ご苦労だったな…娘を産んでくれてありがとう……無事でよかった…本当に…」
 感極まって震える手で流花の汗ばむ額を撫でて口づけをする。
「あなたが強く無事を願ってくれて感謝してます…思いと祈り届きましたよ…あなたからの労いの言葉…とても…とても、嬉しいです…晴綛…」
 流花もあの時のことを思っていたらしい。
 さらにこの家族を守らねばと晴綛はさらに気持ちを強くする。

 我が子の未来が不安なものであろうともそれすらも変えてやる。絶対に……

☆☆☆

 威津那は夢から覚める直前、先読みをした。
「あ……僕の運命が生まれた……」
 ドキドキと胸が高鳴る。
「君に会えることが楽しみだ……」

 僕の希望の光……

 威津那はその日は満面な笑顔で焔にイタズラされても機嫌が良かった。
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