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3☆関係性
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夕方、晴綛は無事帰宅できた。
黒御足八那果にも使役されず、陰陽寮の暦作成のみだった。
比較的穏やかな日で定時に帰れて物忌ついでに数日は休暇になった。
物忌は屋敷から出ないのが基本だが、桜満開の時期だから、家族揃って縁側に咲く桜をゆったり眺めることも良いなと家族団欒を考えていた。
家族なのは変わりはないが……流花とは義姉と義弟の関係だ。
兄の嫁を大事にするのは当然のことだが夫婦でもない。
けれど、流花は夫に尽くすように甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
家族の会話も子供たちの教育も共に頑張ってきた。
一人ならまだしも三子なので流花一人には手が余るし可愛い姪の世話は牡丹の時にも慣れている。
今だって阿倍野屋敷を子育てと共に守ってくれている。
毎日美味しい朝夕のご飯を作ってくれ待っていてくれる……
「流花を労ってやりたいな…」
流花の喜ぶ顔を見たい……ついそう思ってしまう。
異界から通らず耳と尻尾を隠して普通の人として帰路に帰る。
西洋の店の並びに宝石店があった。
金の華奢な指輪に透明の桜色の宝石が美しいものを見つけ、こっそり貯めていた小遣いでなんとか買えた。
指輪の大きさも流花に合うだろう。
合わなかったら首に下げてもらっても構わない。
(わしはどうしても身につけてもらいたいんじゃな……)
早く喜ぶ顔を見たい……
恋心を隠していたとしても、それくらいなら許されると思う。
明綛から呪いをかけられたことを思い出す。
『流花に手を出したら子泣き爺の姿になる!』
『年取ってジジイになったらな!』
かけられた呪いに言霊返しをしたから即手を出したからといって子泣き爺にならないと思いたいが、明綛の言霊はなぜか強い。
だからこそ、無口だったりした。
わしが明綛の思っている事を代弁していたほどにだからこそ審神者として才を持って生まれたのかもしれない。
わしたちは双子で一つ。
双子に別れず一人で産まれたならこの世を支配するほどの力を持っていたと過信してしまうほどだ。
少なくとも黒御足八那果の使役にはならんだろう。
だからこそ双子……
その片割れが帰ってきた時にわしは祝福をすることができるだろうか?
今なら変わらず……するだろうけれど、上から目線で明綛が、逆らえないくらいの家族としての長のくらいは譲らん。
けれど、流花と体の関係を結んでしまったら……?
いや、ありえない……
今の関係が一番良いのだから……
とりあえず今は流花の喜ぶ顔が見れれば良い……
純粋な嘘偽りのない気持ちを流花には少しずつでもわかってもらえれば良いのだ……
その時のわしはほんと純粋な青年だった。
途中から異界の道を通って阿倍野屋敷に帰ったら、突然三姉妹たちがヒシッと飛びかかってきた。
「おじさん!母様、さらわれちゃった!」
三人は不安な顔で泣きそうだ。
「なんじゃと!誰にだ!?」
「この間の山のお宿に来た尼のおばちゃん!」
八尾比丘尼か……
「おばちゃん…その言葉は其奴の前で言っては行かぬぞ…八つ裂きにされるぞ」
「うんわかった」
「いつ頃つれていかれたんじゃ?」
「昼…」
「昼ごはんはちゃんと食べたか?」
「炎ちゃんが作ってくれた。」
「そうか。炎にも労ってやらねばな」
炎は阿倍野家の式神の鬼の少年だ。
よく家のことを世話して留守番してくれているのだ。
門の外で攫われたなら炎は助けられないし八尾比丘尼は強いあやかしだから仕方がない。
「ちょっと待っておれ、母様を迎えに行ってくる」
「ついでに妹も作ってきて!」
すかさず三姉妹に声を合わせて言われて、わしはズッコケた。
「なんでそんなに妹にこだわるんじゃ!」
《宿命だから……》
三姉妹は同時に言霊を発したのは神がかっていた。
「う……」
わしは三姉妹に宿った神の神気に慄く。
「……それが宿命なら、お前らの父親はわしだからな!『おじさん』ともう言わせないからな!」
と、ヤケクソで宣言してやったら三姉妹は大はしゃぎして屋敷に帰って炎にママゴトをせがんでいた。
炎に三姉妹のことを任せておけばなんとかなるだろう。
わしは異界の道を作り出し八尾比丘尼の異界に入って行った。
「流花を返してもらおうか……?」
わしは最大限の妖気を放って八尾比丘尼に詰め寄る。
平の宮中陰陽寮職員とはいえ、『阿倍野殿』というあやかしの長なので舐められては困る。
「はぅ……やっぱり素敵ですわ。晴綛さま。勝負を負けて差し上げない方が良かったかもしれませんわね」
八尾比丘尼はわしを見て瞳をキラキラさせる。
「流花が勝ったのか?」
確か、わしをかけて勝負するとかしないとか言っていた。
「最後、あなた様にも試練を与えた方が燃え上がりそうですわね……」
「試練じゃと?」
「ええ、この廊下の部屋の一室に流花様がいらっしゃいますわ。当ててごらん遊ばせ。」
「ふん、そんなの簡単じゃ、匂いか、声が聞こえればわかる」
わしは狐耳と鼻を指さしてやった。
九尾の狐の子孫と、酒をたらふく飲んで満足に寝息を立てているウカ様の子孫だから余裕だ。
「そうですわね…すぐにわかりますわね」
八尾比丘尼はにやりとする。
「けれど、女性に恥を欠かせてはいけませんよ?」
「?」
わしは意味がわからず八尾比丘尼の異界の無限にある部屋を探すことにした。
黒御足八那果にも使役されず、陰陽寮の暦作成のみだった。
比較的穏やかな日で定時に帰れて物忌ついでに数日は休暇になった。
物忌は屋敷から出ないのが基本だが、桜満開の時期だから、家族揃って縁側に咲く桜をゆったり眺めることも良いなと家族団欒を考えていた。
家族なのは変わりはないが……流花とは義姉と義弟の関係だ。
兄の嫁を大事にするのは当然のことだが夫婦でもない。
けれど、流花は夫に尽くすように甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
家族の会話も子供たちの教育も共に頑張ってきた。
一人ならまだしも三子なので流花一人には手が余るし可愛い姪の世話は牡丹の時にも慣れている。
今だって阿倍野屋敷を子育てと共に守ってくれている。
毎日美味しい朝夕のご飯を作ってくれ待っていてくれる……
「流花を労ってやりたいな…」
流花の喜ぶ顔を見たい……ついそう思ってしまう。
異界から通らず耳と尻尾を隠して普通の人として帰路に帰る。
西洋の店の並びに宝石店があった。
金の華奢な指輪に透明の桜色の宝石が美しいものを見つけ、こっそり貯めていた小遣いでなんとか買えた。
指輪の大きさも流花に合うだろう。
合わなかったら首に下げてもらっても構わない。
(わしはどうしても身につけてもらいたいんじゃな……)
早く喜ぶ顔を見たい……
恋心を隠していたとしても、それくらいなら許されると思う。
明綛から呪いをかけられたことを思い出す。
『流花に手を出したら子泣き爺の姿になる!』
『年取ってジジイになったらな!』
かけられた呪いに言霊返しをしたから即手を出したからといって子泣き爺にならないと思いたいが、明綛の言霊はなぜか強い。
だからこそ、無口だったりした。
わしが明綛の思っている事を代弁していたほどにだからこそ審神者として才を持って生まれたのかもしれない。
わしたちは双子で一つ。
双子に別れず一人で産まれたならこの世を支配するほどの力を持っていたと過信してしまうほどだ。
少なくとも黒御足八那果の使役にはならんだろう。
だからこそ双子……
その片割れが帰ってきた時にわしは祝福をすることができるだろうか?
今なら変わらず……するだろうけれど、上から目線で明綛が、逆らえないくらいの家族としての長のくらいは譲らん。
けれど、流花と体の関係を結んでしまったら……?
いや、ありえない……
今の関係が一番良いのだから……
とりあえず今は流花の喜ぶ顔が見れれば良い……
純粋な嘘偽りのない気持ちを流花には少しずつでもわかってもらえれば良いのだ……
その時のわしはほんと純粋な青年だった。
途中から異界の道を通って阿倍野屋敷に帰ったら、突然三姉妹たちがヒシッと飛びかかってきた。
「おじさん!母様、さらわれちゃった!」
三人は不安な顔で泣きそうだ。
「なんじゃと!誰にだ!?」
「この間の山のお宿に来た尼のおばちゃん!」
八尾比丘尼か……
「おばちゃん…その言葉は其奴の前で言っては行かぬぞ…八つ裂きにされるぞ」
「うんわかった」
「いつ頃つれていかれたんじゃ?」
「昼…」
「昼ごはんはちゃんと食べたか?」
「炎ちゃんが作ってくれた。」
「そうか。炎にも労ってやらねばな」
炎は阿倍野家の式神の鬼の少年だ。
よく家のことを世話して留守番してくれているのだ。
門の外で攫われたなら炎は助けられないし八尾比丘尼は強いあやかしだから仕方がない。
「ちょっと待っておれ、母様を迎えに行ってくる」
「ついでに妹も作ってきて!」
すかさず三姉妹に声を合わせて言われて、わしはズッコケた。
「なんでそんなに妹にこだわるんじゃ!」
《宿命だから……》
三姉妹は同時に言霊を発したのは神がかっていた。
「う……」
わしは三姉妹に宿った神の神気に慄く。
「……それが宿命なら、お前らの父親はわしだからな!『おじさん』ともう言わせないからな!」
と、ヤケクソで宣言してやったら三姉妹は大はしゃぎして屋敷に帰って炎にママゴトをせがんでいた。
炎に三姉妹のことを任せておけばなんとかなるだろう。
わしは異界の道を作り出し八尾比丘尼の異界に入って行った。
「流花を返してもらおうか……?」
わしは最大限の妖気を放って八尾比丘尼に詰め寄る。
平の宮中陰陽寮職員とはいえ、『阿倍野殿』というあやかしの長なので舐められては困る。
「はぅ……やっぱり素敵ですわ。晴綛さま。勝負を負けて差し上げない方が良かったかもしれませんわね」
八尾比丘尼はわしを見て瞳をキラキラさせる。
「流花が勝ったのか?」
確か、わしをかけて勝負するとかしないとか言っていた。
「最後、あなた様にも試練を与えた方が燃え上がりそうですわね……」
「試練じゃと?」
「ええ、この廊下の部屋の一室に流花様がいらっしゃいますわ。当ててごらん遊ばせ。」
「ふん、そんなの簡単じゃ、匂いか、声が聞こえればわかる」
わしは狐耳と鼻を指さしてやった。
九尾の狐の子孫と、酒をたらふく飲んで満足に寝息を立てているウカ様の子孫だから余裕だ。
「そうですわね…すぐにわかりますわね」
八尾比丘尼はにやりとする。
「けれど、女性に恥を欠かせてはいけませんよ?」
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