あやかしと神様のジジ様の物語

花咲蝶ちょ

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雪女とナマハゲ

8☆巫覡、誓約、試練

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 時刻は丑寅の刻。
 朝日が昇るまえの闇夜。
 まっさらな雪で夜明け前の暗い夜でも昼のように明るく夜を白む。
 丑寅は立春の時期。
 春になっても良い時期なのにまだ真冬の寒さで、朝と夜の長さが同じになる春分の前日の風景である。
 そして、月、日の九星盤では八白土星。山を象徴する。
 時間と方位がちょうど全てが丑寅、八白土星に重なり山神の声を聞くことができるのだ。

 これは神の計らいだと、八百万の神を感じるものは思う。

 わしと流花は山神を降ろすための祭壇を作る。
 鬼女将は暖かな蓑や藁履や半纏を用意してくれた。

 わしは祭壇の前に流花と共に座する。
 そして、神を呼ぶ祝詞を唱える。
 神官ではなく陰陽師といえど、陛下に使える奥の職員で後に陰陽量長になる身ならば、臨時の神官とし務めることもある。
 さらに、神か魔かを見定めは祓う『審神者』だ。
 あやかしとも縁があり良し悪しをさらに見抜く力を鍛えた自負はある。
 あやかしだけではなく紙一重の神にも覚えめでたい。
 なので、陛下が執り行う祭神の他に地方に何か異変があれば出張で審神者の仕事をすることはある。
 だが、器なる巫覡が居れば、本体そのものをどうにか祓うという無理難題をしなくて良いのだ。
 今回の件ならば、山神を祓うとは無理難題になる。
 器に入るくらいの御霊ならば問題はない。
 兄の明綛が巫覡として、神を宿しわしが祓うと言うこともしてきたことを思う。
 そのことを知っている流花は今は行方不明である夫の代わりにでも仕事をしたいと思っていることも察する。

 わしの仕事を手伝ってくれるのはとても嬉しいが…所詮、明綛には勝てぬのだ…と思う……
「晴綛さん?どうかなさいましたか?」
 途中で気を乱したせいで祝詞に言霊が抜けていることを流花は察する。
「いや、すまぬ。もう一度改めて……」
 わしは神のを呼ばために低い声をうなりだす。
 するとそれに呼応するように流花も低い声をだし、うーーーっ…どうなり出した。
 もし、魔であればルカの神、鬼女将が山神を騙ったという罪で容赦なく祓う準備はできている。
 ルカの神は一時期わしを依代にする。
 依代の器とし少しは才能があるからだ。
 雪煙が流花の周りに吹き荒む。
 流花は瞳を閉じているが、おおおおおおぉ……おおおおおお…と口から低い男唸り声が発せられる。
《冬の山神が降りたぞ…》
 ルカの神がわしに囁く。
 ルカの神は神を見据える。
 お気に入りの器を奪われたくないので牽制をしていると感じる。
「冬の山神よ…なぜ春に季節を譲らぬのだ…?田の神が桜が咲かなければ日和の民が不安の憂いになると陛下はご心配なされている」
《そうだな…季節は巡るのは逆らえぬ通りだがの…わしとて春の季節に季節を譲りたいが、愛娘の雪女が、一人帰ってこない…その娘が雪女としての義務を果たすのをみたいのだ…』
 山神は娘思いだった。
 それは古代の神の御霊が宿っているからだろうかとわしは思案する。
「だが、季節の期限というものは守ってもらわなくてはならない……」
 わしもルカの神と同じに神を見据える。
 年老いた神を想像していたが、かなりの美丈夫な神だった。
《昔、人と交じり生まれたのが行方が知れぬ雪女ということか…》
 運命を先の過去から未来まで見定るルカの神は経緯を見た。
『そうじゃ、明日は春分…明日の満月までにここに帰ってこないならば、かわりに流花を雪女として連れて行く……』
「はぁぁあ!そんなこと許せるわけないじゃろ!」
 わしは冷静でいられず憤怒する。
《これは誓約うけいだ…私ところに無事に連れてきたのならば、春の日差しと豊作を約束しよう。》
 そう言って流花に降りて来た時と同じように雪煙を周りに吹かせて離れた。
「なんて勝手な……」
 わしは呆れてため息を吐いた。
《私の大切な器を山神に奪われるわけにはいかないからね、頑張るのだよ…》
 そう言って流花の背後につく。
 ルカの神は背後霊……守護霊として流花を常に守っている。
 ルカの神は謎に包まれた神であり山神のように固定された神ではない。
 ただ器を選び力を貸し皇室を守る神…そうわしは理解している。
 ハルカナル神……皇室の弥栄を守護する神……
 さらに物理的に最強の力を持つハルの神はまだ天界におり良き器を探している。
 本来は兄である明綛になるはずだったが……陛下一筋ではないことが気に食わないので誓約ができず神隠しにあってることを思う。
 神は姿をなかなか表さないが試練と誓約に誠実だ。
 その神の試練を乗り越えた時人は成長して祝福を得る。
 山神の試練もそれを陛下の使者であるわしたちにさせようとしているのだ。
「ん…」
 流花は目が覚めると体をガタガタと震わせる。
「寒いです…鬼女将さん、温泉よろしいですか…」
「はい!おまかせくださいな!」
 鬼女将は震える流花を抱えて温泉に連れて行った。
「わしも入ろう…ん?そういえば……」
 選手たちは雪女に追われて鬼女将の宿に来たことを思い出し、ニヤリと口元が緩む。
「今回は幸運が味方したな…」
 山の神の誓約を果たせることを確信したのだった。
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