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雪女とナマハゲ
1☆五年の懸想
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「もう、いつまで寝ているの!晴綛さん!」
春分前の晴れた日、いびきを盛大にかいて寝ていた、晴綛の布団を兄嫁の流花は引き剥がし叩き起こした。
「冬眠」
狐耳をひしゃげて尻尾をだき丸まって光を遮る。
「酒の匂いがひどいですが……」
流花は鼻をつまみじとっとした瞳で見る。
「くーーっ!良いではないか!昨夜はあやかしたちの飲み会に誘われてついさっき帰ってきたばかりだ!寝かせてくれ頼むから!」
「宮中の仕事は如何なさるのですか?もうこんな時間ですよ?」
流花はわしを気遣って結構長く寝かせてもらったようだがまだ眠い。
「あー…あれじゃ…!穢れの仕事を、八那果と共に請け負ったからしばらく物忌じゃ」
「また付き合ったんですか⁉︎」
流花は八那果を良い人物とは思っていない。
「付き合ったと言うか付き合わされたんじゃ!妖狐の血が濃いために…仮の眷属にさせられてしまうのだ!」
八那果は強引な男でわしを良いように操る。
わしも宮中、陛下のためならばと力を貸してしまうのだが、わしも陰陽寮の事務の仕事があるというのにそういう配慮はしてくれないことが多い。
まだ役職もない陰陽寮職員、事務職は間に合っているので八那果と外回りは陰陽寮長も容認してくれるのだ。
「そんな、穢れた男の眷属もどきにされるなら、私があなたを眷属に……」
といってハッとして口元を抑え流花は顔を赤くして言葉を飲み込む。
晴綛も気まずく黙る。
それは契約のための接吻をすると言うことだ。
八那果の場合はそんな事をしなくても毛を奴に一本抜かれただけで一日中従わされてしまう。
毛ではなく接吻を奴を本気で殺めるかもしれん。
だが神の依代の女神とは接吻で眷属にされる。
一度、流花の眷属にさせられたことがある。
その時にさらに流花に懸想をしてしまったのはひた隠しにしている。
まあ…兄の明綛はそれ以上のことを一日で成し遂げ三つ子まで成してしまったが……
そもそも、互いに、その気がなければ冗談で済ませられるのだが……本心は冗談ではなく多分互いに懸想をしている…
五年も家族として一つ屋根の下で暮らしているのだから、いろんな思い出も想いも募ってしまう。
ひた隠しにしている想いも…
ただ、互いに行動や言霊に思いを伝えるのが怖いのだ。
今の幸せな関係が崩れるのが怖いのだ……
兄が神隠しにあって五年の歳月が経った。
その間、わしが阿倍野家の長である。
そして、三つ子たちの叔父であり父のような存在になった。
そんなわしを流花は微笑ましく見つめてくれるのが好きだ。
美しい眼差しを向けているのはきっと兄の代わりに向けていると察すると虚しく感じる。
わしは流花に横恋慕している。
隠してはいるけれど…まさに百人一首による
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり
人知れずこそ 思ひそめしか
というように、
近所では仲の良い夫婦だと思われている。
遠慮なくなった流花とわしは体の関係がないだけで夫婦のような間柄だと思う……
この時代、前夫の兄弟に嫁ぐことは珍しくない。
正式なる家と家との結婚ならば流花もわしを受け入れてくれただろうが、珍しく恋愛結婚で駆け落ちだ。
一途を通すべく、弟のわしに嫁ぐことは抵抗があるのだ。
それにこの関係が家族として良い選択…気持ちを押し殺す苦しみを恋というのならずっと思っていても、辛くても切ない気持ちは流花を想う証拠と思うと嬉しく感じ、恋心を胸に燻っているのだから…
春分前の晴れた日、いびきを盛大にかいて寝ていた、晴綛の布団を兄嫁の流花は引き剥がし叩き起こした。
「冬眠」
狐耳をひしゃげて尻尾をだき丸まって光を遮る。
「酒の匂いがひどいですが……」
流花は鼻をつまみじとっとした瞳で見る。
「くーーっ!良いではないか!昨夜はあやかしたちの飲み会に誘われてついさっき帰ってきたばかりだ!寝かせてくれ頼むから!」
「宮中の仕事は如何なさるのですか?もうこんな時間ですよ?」
流花はわしを気遣って結構長く寝かせてもらったようだがまだ眠い。
「あー…あれじゃ…!穢れの仕事を、八那果と共に請け負ったからしばらく物忌じゃ」
「また付き合ったんですか⁉︎」
流花は八那果を良い人物とは思っていない。
「付き合ったと言うか付き合わされたんじゃ!妖狐の血が濃いために…仮の眷属にさせられてしまうのだ!」
八那果は強引な男でわしを良いように操る。
わしも宮中、陛下のためならばと力を貸してしまうのだが、わしも陰陽寮の事務の仕事があるというのにそういう配慮はしてくれないことが多い。
まだ役職もない陰陽寮職員、事務職は間に合っているので八那果と外回りは陰陽寮長も容認してくれるのだ。
「そんな、穢れた男の眷属もどきにされるなら、私があなたを眷属に……」
といってハッとして口元を抑え流花は顔を赤くして言葉を飲み込む。
晴綛も気まずく黙る。
それは契約のための接吻をすると言うことだ。
八那果の場合はそんな事をしなくても毛を奴に一本抜かれただけで一日中従わされてしまう。
毛ではなく接吻を奴を本気で殺めるかもしれん。
だが神の依代の女神とは接吻で眷属にされる。
一度、流花の眷属にさせられたことがある。
その時にさらに流花に懸想をしてしまったのはひた隠しにしている。
まあ…兄の明綛はそれ以上のことを一日で成し遂げ三つ子まで成してしまったが……
そもそも、互いに、その気がなければ冗談で済ませられるのだが……本心は冗談ではなく多分互いに懸想をしている…
五年も家族として一つ屋根の下で暮らしているのだから、いろんな思い出も想いも募ってしまう。
ひた隠しにしている想いも…
ただ、互いに行動や言霊に思いを伝えるのが怖いのだ。
今の幸せな関係が崩れるのが怖いのだ……
兄が神隠しにあって五年の歳月が経った。
その間、わしが阿倍野家の長である。
そして、三つ子たちの叔父であり父のような存在になった。
そんなわしを流花は微笑ましく見つめてくれるのが好きだ。
美しい眼差しを向けているのはきっと兄の代わりに向けていると察すると虚しく感じる。
わしは流花に横恋慕している。
隠してはいるけれど…まさに百人一首による
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり
人知れずこそ 思ひそめしか
というように、
近所では仲の良い夫婦だと思われている。
遠慮なくなった流花とわしは体の関係がないだけで夫婦のような間柄だと思う……
この時代、前夫の兄弟に嫁ぐことは珍しくない。
正式なる家と家との結婚ならば流花もわしを受け入れてくれただろうが、珍しく恋愛結婚で駆け落ちだ。
一途を通すべく、弟のわしに嫁ぐことは抵抗があるのだ。
それにこの関係が家族として良い選択…気持ちを押し殺す苦しみを恋というのならずっと思っていても、辛くても切ない気持ちは流花を想う証拠と思うと嬉しく感じ、恋心を胸に燻っているのだから…
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