あやかしと神様のジジ様の物語

花咲蝶ちょ

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孫に、当時を思い出し語る。

宿命と運命の対立

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「お前の娘とこの威津那は結ばれて、我々の孫が九尾の化身となるだろう……」
 八那果は連れてきた我が子の威津那の頭を愛おしげに撫でて、わしに視線を合わせた。
 その視線から逃せたいのに、有無を言わせない覇気まで放ってくる。

 妖狐のわしは黒御足八那果くろみあしやたかに行動を支配されることが多々ある……奴の赤い瞳は絶望の色を帯びる。

「そして、未来、この日和国を新たに導くのだ……」
 口元はかすかに己を卑下するように微笑む。
 黒御足八那果は最近複雑な表情をする。
 奥方が亡くなる昨年まで穏やかな男だったのだが……時折り冷酷さが見え隠れする。
 今の世は不穏な気配が世界を覆っている事に憂いを想っている。
 不穏な思念が世をめぐるほど未来を見る赤い瞳は負の部分しか見せないと奴は告げたことがある。

「ふん!お前の戯言なんか信じられるか!」
 わしは腕を組んでうんざりした表情でやつを見下す。

 奴がほざく予言は宿命かもしれんが、それ以外は己自身が操ることのできる運命をわしは大事に思う。
 宿命すらも運命で災厄を和らげられることを占いを生業なする陰陽師の一族のわしなら確実に実行できる。
 陰陽師は基本、災厄を避けるための吉凶を計算して陛下の運気を良き方向に導き日和の国を良き方向に導く仕事だ。

 陰陽寮に対して黒御足一族は確定的な未来を予言する占い師の仕事の仇でもある。

 だが、黒御足予言の能力は完璧とは言えないが宿命の未来を見ることができ、さらには陛下が受ける呪詛を身に受け陰の力を得る役目もある。
 そして、いずれは陰の帝として陛下の陽の気の均衡を保つのだ。

 それは生きていて支えることも、御霊として支える事もある。
 『忍』と言ってしまえは簡単な存在で、国のための必要な『贄』なのだ。

 だからこそ、国を、陛下を誰よりも尊び愛する一族でもある。

 愛ゆえに狂って仕舞えば肉体を捨てて異界から陛下をお支えする贄のような者になる。
 そのような特殊な存在のこいつは底知れない。
 と、黒御足の特殊な一族なことは審神者で長く宮中を支える一族のものは知らないものはいない。

 そして、この男は自分の未来は口には出さない。
 『忍で贄』という己の宿命を覚悟しているからだろう。
 その代わり、他人の楽しみである未来を言霊にして嫌な思いをさせるからタチが悪い。

「なら、わしは結婚せんし子供もなさないし、お前の未来なんか実現させてやるものか!」
 思いっきりバカにしたようにあっかんべーをしてやる。
 我ながら子供っぽい三十手前男子である。

「そういうお前が好きだよ。」
 奴は穏やかにそう言って嬉しそうに笑う。
「お前なんかに好かれたくないわい!」
 わしはこいつのことが本当に好かんのだ!
 だが腐れ縁でそばにいることが多い。
 呪詛から陛下を守るという仕事上仕方ない。
 呪詛をわしは操らんが妖力と審神者として宮中の障を払うのが役目で、こいつは呪詛返しをして仇敵を処理するのだから。
「お前のような妖狐の娘が、威津那に相応しいのだがな」
「わしが女に襲われるたまだとおもうか?」
 古代の神話から女から男を誘うと人の形をしないヒルコを産むという。
 それは妖物ということかもしれぬ。
 現に三兄弟あやかし姿で生まれてしまった。母は性欲の強い女子だったのだろう……
「一度男を知った巫女だから余裕だろ」
「なっ!」
 わしは一瞬で顔を真っ赤にする。
 その様子をみた八那果はニヤニヤとわしを見る。

「知らん!知らんわ!わしは貞操を絶対守り通すんじゃ!」
「乙女だなぁ」
「うるさいわ!お前の予言なぞ、ことごとく潰すことが志じゃ!」
「それはお前自身の幸せを潰すことだぞ」
「今が幸せならいいのじゃい!バーーーカ!」
 そう言ってわしは奴から逃げ出した。
「ガキが…昔から変わらんな…」
「僕のお嫁さん、もうすぐ生まれる?」
 威津那は頬を染めながら父に尋ねる。
「そうだな。楽しみだな」
 という、親子の会話が狐耳のわしには嬉し恥ずかしい予言でもあった…理性がなければ……

 好かれたい女は……結ばれてはいけない愛を囁けない女なんだから…

 わしがずっと胸に秘めているのは兄嫁の流花だ。

「この巫女、お前ら双子の妻になるな…」

 宮中の巫女の流花を垣間見た時、奴が呟いた事をわしは忘れられなかったのも事実だ。
 兄は駆け落ちで流花を嫁にした。

 わしは、不義理をすることは好きではない……

 あの時巫女を嫁にすると聞いた時も鼻で笑ったくらいだ。

 今や気持ちを抑えて毎日苦しい……

 流花を好きだ。夫婦になりたい…
 わしを好きになってもらいたい…
 兄の面影を追わず、わしを見てほしい。

 この気持ちをずっと秘めることこそ愛だと思っている。


「いいや、今が最高に幸せなのだ。今のままの関係が……」

 家族の長としての責任も、陰陽寮長として陛下をお守りすることも、兄が背負うはずだった夫、親としての責任を人生を懸けて代わりに守ると誓ったのだ……

 そう思っていたのだが……

 兄嫁と相思相愛になって、その志をも溶かしてしまうのだった……
 それは宿命とか神が定めた運命ではなく、魂が心から求めての事……予言のせいではなく自ら動いた運命の結果結ばれたのだ。

 だから、運命は宿命すら変えるとわしは確信している。
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