祈り姫

花咲蝶ちょ

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願いと妄想の夢違え

16☆未来のための誓約

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「法子の唇は柔らかかったかい?」
はっ……!と目を覚ますと、目の前に中務の宮がニコニコ笑顔でそうおっしゃった。
 しかも、ものすごく顔が近い、
「私とどっちが柔らかかったかな?」
「は、グッ!?」
 李流は寝ぼけたばかりの頭をはたらかせて、
(もしかして、もしかして!?中務の宮と現実で!?)
 と思うと目を白黒させる。
 李流は瑠香のお香の力で眠り夢の世界に入ったが、現実の自分は何故だが中務の宮に抱きついてキスをしていたようだと思うと思考停止した。
 口を拭うのも失礼な気がするし、キスをしてないかもしれないのに失礼な態度はしたくない。
「東殿下……李流君をいじめてはダメですよ……ぶっ!」
 李流の隣に瑠香は今起きたように正座の姿勢を取って後ろを向いて笑いをこらえていたのを吹き出した。
 晴房は不服な顔をして檜扇をパシパシと手のひらで叩き、
「李流をいじめるのは許さぬと言っただろ!中務の宮は夢の中を見学なさりたいと我儘をおっしゃられて仕方なく見せてやったのだ。」
 晴房の言葉で李流は、ほっとするが、
「まさか寝ぼけてキスをするとは思わなかったが……」
 と暴露した。
「ほ、ほ、本当のことだったのですかァァァァ……っ!」

 夜明けを告げる鶏のごとく陰陽寮に李流の叫び声が響いた。

 李流の忘れられない夢と目覚めになった。



「さすが李流くんでつ!見事に皇室をお守りしましたね!」
 野薔薇は落ち込む李流を明るく励ますようにそういった。
「半妖でもない李流は頑張ったとおもうぞ!夜子相手に!」
 薫も事情をきいて励ました。
「うん、まぁ、そうなんだけどさ……夢から醒めての衝撃でいろいろ忘れられなくなったよ……」
「ならば、重畳だよ、李流くん。誓を忘れる方が罪作りだ」
 中務の宮はニコニコ笑顔でそうおっしゃった。
「そ、そうですよね!ありがとうございます!」
 李流は半分本心、半分やけくそでいい返事をした。
「私も君のことを認めなきゃいけないな……と素直に思ったしね。お義父さまと呼んでもいいのだよ?」
 と言って中務の宮は楽しそうだった。
 李流は恐れ多い事だ認めてもらった事はとても嬉しく光栄に思った。
「それにしても、夜子は誰の式神なのかな?とても……とても面白そうなことが怒るよ感がして、公務に専念できるかな……ふふふっ」
「今日の宮様は機嫌がいいな……」
 と、薫は素直な感想を呟いた。
「そうだな。殿下が楽しみなことが起きないことが宮中の平和なんだがな、ハル?」
 晴房自身は親神から聞かされていないのは分かっているがわざと聞いた。
「だな。だが、来るべき危機のために我ら陰陽寮が、密かに存在するのだ。
 陰陽寮の最高指揮官は中務の宮にあるからの。その時はお頼み申す」
 晴房は適当に中務の宮に話を振る。
「うん。その時はみんなで力を合わせて頑張ろう!」
 瞳をキラッキラにしておっしゃられて、自我暴走気味の中務の宮はこの場に集まる職員たちとエイエイオー!と声をかけられ更なるスキンシップをなされたのだった。



 と、言うことかあったのです。
 もう十年も経つ今や懐かしい出来事。
李流は懐かしげに顔を綻ばせてあの時のことを、語った。
 ここは祈り姫の私室。

 衣瀬の宮殿が新たに経つまで宮中にて、祈り姫のお役目を果たしている。
 二年後には衣瀬に戻る予定だ。
「陰陽寮も、いろいろあるのね。
 今、宮廷警察に所属の宮中警護の職になってよかったの?」
 李流は色々陰陽寮で活躍していたらしかった。
「いまも、時たま呼び出されます……」
 李流は大きくため息をした。
「それにしても、夢の中の不敬な男の状態になってるのは皮肉ね。ふふ。」
 李流は公認された恋人として特別に祈り姫の私室の出入りを許されている。
「そ、そうですね……まさか、正夢に近くなるなんて……」
 皇室を乗っ取ろうという気もさらさらないしキス以上の事は降嫁なさるまで絶対に手を出さないと決めているし、むしろ未だに恐れ多くて気絶をしてしまうことの方が多い。
「李流を信用してるもの。気にすることなんでないわ。お父様ともキスした相手ですもの……ぷぷっ!」
 法子は笑いをこらえられず
吹き出した。
「……法子さま」
 李流はわざとムスッとする。
「ごめんなさい……これで許して……」
 そう言って李流の唇にキスをした。
 やはり柔らかい。何度も味わいたい感触……
 心がふわふわして幸せな気持ちになる。
 だが、李流は瞬時に理性を最大限めぐらせて自分を縛めるためか恐れ多さが感極まって、
「き、恐悦至極…」
 と言って李流は気絶した。
「まーったく、相変わらずなんだから……」
 法子はフーっとため息をして、気絶して眠る李流の頬にキスをした。
「もう少し未来の誓約のため、降嫁まで待っていてね……」
 そう言って、すこし大人になった甘い恋愛気分を二人はささやかで慎ましやかに過ごすのだった。
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